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「王様のブランチ」リポーターを経て、初ヌード写真集も話題。初主演映画では初のベッドシーンに

水上賢治映画ライター
「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影

 結婚5年目、年上の夫にもう見切りをつけた女と、家を出ていった妻のことをいまだに引きずっている男。

 いまおかしんじ・監督、井土紀州・脚本による映画「遠くへ,もっと遠くへ」は、こんな女と男の出会いの物語だ。

 ここではないどこかを探し求める二人が辿り着く先は?

 新たな愛へと踏み出そうとする彼らの旅路が描かれる。

 その中で、主演を務めるのは、「王様のブランチ」リポーター出身で昨年発表したデジタル写真集が大きな話題を呼んだ新藤まなみ。

 ある意味、天然で自由人、でもものすごく現実的でしっかりもしているヒロインの小夜子役を艶やかにキュートに演じ切っている。

 ちょっとびっくりするユニークなヒロイン像を作り上げた彼女に訊く。(全五回)

「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影
「遠くへ,もっと遠くへ」で主演を務めた新藤まなみ 筆者撮影

小夜子はちょっと親しみがわく役

 はじめに今回の脚本を新藤はどう受けとめたのだろうか?

「小夜子はけっこうわたし自身に似ているところがたくさんあるなと思いました。

 表向きは元気いっぱいに振る舞っていて、性格にはちょっと破天荒なところもあって、すごく明るいキャラクター。でも、内面にかんしてはひじょうに繊細で、他人の感情に敏感。その人の喜怒哀楽をすぐにキャッチすることができる。

 わたし、けっこうそうなんです。

 たとえば電車に乗っていても、表情にはそこまで出ていないけど『あの人かなりイライラしているな』とか、すぐに察して、で、それが当たっているんです。

 自分のことはあんまりわからないけど、他人の考えていることはよくわかったりする(苦笑)。

 そこにつながっているのですが、小夜子の仕事はインテリアコーディネーターで、お店にやってくる若い世代から、おじいちゃん、おばあちゃんの世代まで日々接客の対応をしている。

 そして、お客さんの表情やちょっとした言葉から、ヒントを得て彼らが望んでいる商品をいち早く察して、いろいろと提案する。

 小夜子はものすごく人間観察に長けた人物なんです。

 で、何を隠そうわたしも人間観察好きといいますか(苦笑)。ついついさっき言ったように電車にのっているときとか、カフェでお茶をしているときとか、癖で人間観察をしてしまう。

 気づけば隣の人の表情とかじっと見ちゃっていることがあるんですよね(笑)。

 だから、脚本を読んだ第一印象としては、小夜子は自分と重なるところがある女の子だなと思いました。ちょっと親しみがわく役に感じられましたね」

「遠くへ,もっと遠くへ」より
「遠くへ,もっと遠くへ」より

別れることを隠しているのではなくて、別れを切り出せない

 作品は、小夜子と夫との何気ない日常のやりとりからはじまる。

 ただ、この冒頭の夫婦の会話から、すでに二人がもうどうにもならないぐらい、同じ空間にいながら遠く離れてしまっていることが浮かび上がる。

 この時点から、新藤には小夜子の気持ちが痛いほど伝わってきたという。

「おそらく小夜子だけではなく旦那も、もう夫婦の関係が終わっていることに気付いている。

 ただ、夫は夫婦の関係は終わっているけど、小夜子の本心にはまだおそらく気づいていない。

 でも、小夜子は夫の心がすでに自分にないことに完全に気づいている。すぐに他人の気持ちを察してしまうから、小夜子は夫の気持ちがどうなのかほぼほぼわかっている。

 そこでもうこの人との家族はもう少しで解散することは目にみえている。

 彼女は次の道へ歩むための下準備をひとりで始める。別れを切り出す前に。

 これだとすごく冷たい女性に映るかもしれない。でも、彼女の本意は違う。

 彼女は別れることを隠しているのではなくて、別れを切り出せないんです。

 なぜなら、さっきから言っているように彼女は、人一倍、他人の気持ちがわかってしまうところがある。

 夫の気持ちがどこにあるのかわかる。ゆえにすぐに別れ話を切り出せないんじゃないかなと。

 それで、夫が傷つかない、しかるべきタイミングに話そうと考えている。

 そこがなんかすごく切なくて、ほんとうにこの冒頭のシーンだけで、小夜子は『いいやつだ』と思いました」

実際の小夜子というのは、心が広くて愛のある人物

 そのような小夜子を慈しみをもって演じられたらと思ったという。

「彼女の表面をなぞっただけだと、たぶんすごいドライな女性に映ると思うんです。別れを切り出す前から次の道を模索し始めたりということで。

 それから突拍子もない行動に出たり、変なことを言い出したりするので、ちょっと変わった子に映るかもしれない。

 ただ、実際の小夜子というのは、心が広くて愛のある人物で。

 まず自分のことよりもまずは相手のことをおもんばかる。

 勘が鋭い女性で、相手の気持ちがわかりすぎてしまう。

 なので、夫の気持ちがわかるからこそ、夫のことを思って別れを切り出せない。

 変な行動をとったり、変なことを言ったりするのは、ちょっとした照れ隠しで。

 それも相手の気持ちをちょっと和らげたりするためにやっているところがある。

 だから、さっきもいいましたけど、ほんとうにいい子だと思って、彼女に対して慈しみの心をもって演じようと心がけました。

 それでみなさんに彼女の思いやりの気持ちが伝わってくれたらいいなと」

(※第二回に続く)

「遠くへ,もっと遠くへ」ポスタービジュアルより
「遠くへ,もっと遠くへ」ポスタービジュアルより

「遠くへ,もっと遠くへ」

監督:いまおかしんじ 

脚本:井土紀州

出演:新藤まなみ 吉村界人

和田 瞳/川瀬陽太/大迫一平/佐渡寧子

黒住尚生/広瀬彰勇/佐藤真澄/茜 ゆりか

横浜シネマリンにて公開中、栃木・小山シネマロブレにて10/28~、兵庫・元町映画館にて11/5~公開

ポスタービジュアル及び場面写真はすべて(C)2022レジェンド・ピクチャーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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