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なぜプリンスホテルで3つのブッフェレストランが同時期にオープンしたのか?その背景と5つの最新トレンド

東龍グルメジャーナリスト
「ヒマラヤ紅塩塊で炙った黒毛和牛の焼きしゃぶ」/東京プリンスホテル「ポルト」

ブッフェに力を入れているプリンスホテル

日本には外資系ホテルがたくさん上陸してきて、様々なホテルのブランドがあります。一流でラグジュアリーであったりするものの、一般の人には知られていないホテルはたくさんあります。

外資系ホテルは知らないという人はいても、プリンスホテルを知らないという人はいないでしょう。プリンスホテルは日本各地にホテルがあり、多くの日本人に親しまれている日本系ホテルです。

そのプリンスホテルは、<女性料理人はなぜ活躍しにくいのか? 女性料理人の意義と強み>でも紹介したように食に力を入れていますが、ブッフェには特に力を入れており、多くのプリンスホテルでブッフェを行っています。

中でも、品川プリンスホテル「ハプナ」は年間80万人もの客が訪れるプリンスホテルの代表的なブッフェレストランでしょう。ブッフェにおける3種の目玉メニューとも言える「寿司」「蟹」「ローストビーフ」を確立したのも、この「ハプナ」です。

テレビや雑誌でもよく取り上げられているので、メディアを通して知っていたり、実際に訪れたりしている人は多いでしょう。

3つのブッフェレストランがオープン

ファーストディッシュ(新宿プリンスホテル)
ファーストディッシュ(新宿プリンスホテル)

このようにブッフェに力を入れているプリンスホテルで、2017年4月という同じ時期に3つのブッフェレストランがオープンしています。

  • ブッフェダイニング プリンスマルシェ(新宿プリンスホテル)

2017年4月1日

  • ブッフェダイニング ポルト(東京プリンスホテル)

2017年4月1日

  • スロープサイドダイナーザクロ(グランドプリンスホテル新高輪)

2017年4月14日

ブッフェを全面に押し出したレストランではありませんが、品川プリンスホテルに2017年4月11日オープンした「和ビストロ いちょう坂」でもランチブッフェを行っています。

どうして3つのブッフェレストラン同じ時期にオープンしたのでしょうか。

またブッフェを得意とするプリンスホテルならではの新しい要素は何かあるのでしょうか。

同時期にオープンした理由

ショコラショー(東京プリンスホテル)
ショコラショー(東京プリンスホテル)

まず、同時期にオープンした理由についてです。

3つのブッフェが2017年4月にタイミングよくオープンしましたが、実はそれぞれのホテルで個別にレストランのリニューアルを計画しており、意図的にオープン時期の足並みを揃えたわけではありませんでした。

その一例として、デザートブッフェやディナーブッフェを行うサンシャインシティプリンスホテル「カフェ&ダイニング シェフズパレット」は9ヶ月前の2016年7月15日にオープンしています。

プリンスホテルには、東京都内にあるホテルの価値を高めるためにリノベーションするという戦略があり、客室やロビーの改装を行ってきました。

そのリノベーション戦略の一環としてレストランの改装も行っており、レストランの価値を高める施策として、プリンスホテルで定評のあるブッフェレストランをリニューアルするということになり、今回の同時期オープンへとつながったのです。

新しい要素

それぞれのブッフェレストランにおける新要素についてです。

特に注目したいメニューは以下の通りです。

  • ブッフェダイニング プリンスマルシェ(新宿プリンスホテル)

「ファーストディッシュ」「ロティサリーチキン バリエーションメニュー」「小菓子」

  • ブッフェダイニング ポルト(東京プリンスホテル)

「ヒマラヤ紅塩塊で炙った黒毛和牛の焼きしゃぶ」「オマール海老の鉄板焼き」「ローストビーフ」「日本蕎麦」「ショコラショー」「ガトーグラッセ」

  • スロープサイドダイナーザクロ(グランドプリンスホテル新高輪)

「おもてなしのアミューズ」「網焼き」「塩麹でマリネした骨付きローストビーフ」「アントルメグラッセ」

詳しく説明しましょう。

ブッフェダイニング プリンスマルシェ(新宿プリンスホテル)

小菓子(新宿プリンスホテル)
小菓子(新宿プリンスホテル)

プリンスマルシェでは、最初に「ファーストディッシュ」が提供されます。ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「シェフズ ライブ キッチン」が始め、関西ではホテル阪急インターナショナル「ナイト&デイ」でも行っているサービスで、最初に特別な一皿がテーブルまでサーブされるというものです。

店側のオペレーションの負荷は高まりますが、ブッフェ台の料理とは別に提供されるので客からは喜ばれます。

「ロティサリーチキン バリエーションメニュー」は料理長の久保木慎氏がお勧めするイチオシの一品。店内で焼き上げたロティサリーチキンをバゲットサンドのグラチネ、パクチーマウンテン、旨辛レッドチキン(辛口/激辛)と全く食味の異なる3皿に仕上げています。

「小菓子」はファーストディッシュとは反対に、今度は食事の最後に提供されるものです。これも店側のオペレーションの負荷は高まりますが、ブッフェ台のデザートとは別に提供されるので、客からすれば嬉しいサービスでしょう。

ブッフェダイニング ポルト(東京プリンスホテル)

ヒマラヤ紅塩塊で炙った黒毛和牛の焼きしゃぶ(東京プリンスホテル)
ヒマラヤ紅塩塊で炙った黒毛和牛の焼きしゃぶ(東京プリンスホテル)

ポルトは奥に長いブッフェレストランで、東京タワーのすぐ側にあります。以前までは席を設けていなかったテラスに席を設けて、東京タワーを間近で望めるスペースを創出しました。

今回の目玉は「ヒマラヤ紅塩塊で炙った黒毛和牛の焼きしゃぶ」で、料理長の横澤浩二氏が考案した他にはないメニューです。岩塩の塊の上に黒毛和牛のしゃぶしゃぶ用の牛肉を置いてバナーで焼くので、エンタテインメント性が重要となるブッフェでは非常に価値があります。岩塩の上で焼くことにより適度な塩加減になり、焼けた香りも食欲をそそるでしょう。

高級食材のオマール海老を使った「オマール海老の鉄板焼き」も注目です。「ローストビーフ」には、ポン酢醤油、ヒマラヤ紅塩、秋田男鹿半島の黒い塩、秋田男鹿半島の桜塩、大根おろし、ポリネシアンソース、グレビーソースとたくさんのコンディメントが用意し、何度でも楽しめるように工夫しています。

「日本蕎麦」には、麺つゆだけではなく、クラムチャウダーソース、和風トマトソースも用意しました。蕎麦にパスタのソースを合わせるというのは、ありそうでなかなかありません。気軽に味見できるブッフェなので、調理する方も食べる方も、こういった変わったメニューに挑戦し易いでしょう。

「ショコラショー」は<甘党は知っておきたい、スイーツに定評のあるヒルトン東京で新しくなった2つのこと>でも紹介したフランスの一流チョコレートメーカーWEISS(ヴェイス)のチョコレートを使った一品です。高級ショコラショーに白玉、マシュマロ、パールクラッカンを好みでトッピングできます。

スロープサイドダイナーザクロ(グランドプリンスホテル新高輪)

網焼き(グランドプリンスホテル新高輪)
網焼き(グランドプリンスホテル新高輪)

店内がしっかりとゾーニングされており、カフェダイニング、シズルキッチン、アートアペタイザー、ベジタブルガーデン、セイボリーキッチン、ビバレッジステーション、ペイストリーキッチンに分かれていることが大きな特徴です。

プリンスマルシェと同じように「おもてなしのアミューズ」が最初に提供されます。店名の由来となった「ざくろ坂」に掛けてザクロソースを使った「コンソメロワイヤル ザクロソース」が創られました。今後はザクロソースは変えずに、合わせるアミューズだけを変えることが考えられます。

シェフの板橋重朗氏が最も力を入れているのはシズル感を意識したシズルキッチンで、目や音が食欲をそそるエリアとなっています。「姫サザエのブルゴーニュ風」「帆立貝の網焼き」「彩り野菜の網焼き」「フォアグラの網焼き」「蟹の網焼き」などの「網焼き」は、他ではそう多く見られません。

網焼きには濃口、溜、再仕込、淡口、白と5種類もの醤油が用意されているので、どの醤油を合わせるのかという楽しみも生まれます。

130度の低温で2時間火入れをした「塩麹でマリネした骨付きローストビーフ」は、じっくり焼き上げたり、塩麹でマリネしたりと、通常のローストビーフよりも一手間もニ手間も掛けています。

「アントルメグラッセ」はパティスリーで物販されているような、非常に美しいアイスケーキです。氷菓用の大きなショーケースに入れられているので、視野も広くてよく映えます。

5つの注目点

ブッフェの注目メニューを紹介してきましたが、これらは以下の5つに分類できます。

  • 調理法
  • サービス
  • バリエーション
  • 高級食材
  • 氷菓

こちらも詳しく見ていきましょう。

調理法

調理法は新規性のあるブッフェの演出。「ヒマラヤ紅塩塊で炙った黒毛和牛の焼きしゃぶ」は岩塩の上で肉をバナーで焼くという、新しいパフォーマンスです。「塩麹でマリネした骨付きローストビーフ」も、ブッフェの定番である通常のローストビーフから進化させたものでしょう。串焼きになった「網焼き」も、定番の鉄板焼きとは異なる新しい手法です。

サービス

サービスは通常のブッフェ方式とは異なる手段で提供されるメニューのことで、「ファーストディッシュ」「小菓子」「おもてなしのアミューズ」が該当します。特に小菓子をサーブするのは、タイミングを見計らう必要があるので難しいです。

オペレーションに負荷がかかることを承知で、客の食体験を高めるために行っているので、レストランは努力していると言えます。

バリエーション

バリエーションは1つのメニューで何度でも楽しめるというものです。「ロティサリーチキン バリエーション」「日本蕎麦」は何度でも楽しめる工夫がなされています。「ローストビーフ」には7種類のコンディメントが、「網焼き」には5種類の醤油が用意されています。

何度でも楽しめるのはブッフェならではの楽しみであると言えるでしょう。

高級食材

高級食材は、ブッフェで提供しているとは思えないようなメニューのことです。「オマール海老」「ショコラショー」が好きなだけ食べられるのは価値観が高いでしょう。寿司、蟹、ローストビーフはもはやブッフェでコモディティ化しているのでさらなる高級食材が使われるようになっています。

氷菓

最後は氷菓。特に「ガトーグラッセ」「アントルメグラッセ」といったアイスケーキです。アイスケーキは普通のパティスリーでもあまり見掛けられず、本格的なグラシエではないと見掛けられないデザート。氷菓専用の膨らみのあるショーケースを用意して、氷菓が美しく見えるように工夫もしています。

どのブッフェでもガトーのレベルが高くなっていて差別化ができなくなっているだけに、次は氷菓にこだわる時代になってきたと言えるでしょう。

ブッフェの新しい方向性

氷菓(グランドプリンスホテル新高輪)
氷菓(グランドプリンスホテル新高輪)

私はブッフェやフランス料理を取材することが多いですが、ホテルにおいてはフランス料理が少なくなり、一方で、ブッフェが増えている傾向にあります。

私としてはどちらとも賑わってもらいたいだけに複雑な心境ですが、ホテルにおいてはブッフェがどんどん増えていき、人気が高まっていく傾向に違いはありません。

そういった状況の中、ブッフェに特に力を入れているプリンスホテルで、偶然にも同じ時期に3つのブッフェレストランが新たに5つの強みを得てオープンしたことは非常に興味深いことです。

そして、この意図されていなかった2017年4月という時期が、今後のブッフェの歴史に大きな影響を与える一つの分水嶺になるのではないかと私は確信しています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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