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『すべらない話』で見せたGACKTの笑いの実力 声の力で引き込んだ

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

『人志松本のすべらない話』のGACKTがすてきだった。

1月11日に放送された『すべらない話』に初出場したGACKTは、3連続トークをふくめ4つの「すべらない話」を披露して、みごとに「最優秀すべらない話」を受賞した。

 

参加者は12人、紹介された「すべらない話」は22あった。

この番組のスリリングなところは、次に喋る人を多面サイコロで決めるところにある。トークの順番が偏る。たとえば四千頭身の後藤は二回連続で喋ることになり、麒麟の川島も同じく2回連続に喋っていた。そしてGACKTは12番目まで一度も当たることがなかったのに、13回目から3回連続で話すことになった。そういう「神様のいたずら」のようなトーク順がスリリングである。

キレイなオチをつけた麒麟川島、四千頭身後藤

すべらない話にはいろんなパターンがある。

2分から5分くらいのトークのなかで、笑いのピークをどこに持っていくかということにみんな腐心している。

ぼんやり見ているぶんには、最後の意外なひとことで笑いが起きて、スパッと終わると、キレイに見える。オチが決まった、見事だ、という気分になる。

ただ、それは笑い話のひとつのパターンでしかない。笑い話は、必ずオチでドーン、というものではないし、そんな話ばかりが続くと疲れてしまう。前半に大笑いさせてそのまま持っていくものもあれば、真ん中に笑いのピークがあってそれをうまくつなげて聞かせる話もある。

キレイなオチだったのは、麒麟の川島『すべらない話の打ち上げ』の「松本さん、鏡に向かってめちゃ練習してたん(ですよ)」や、四千頭身の後藤『ジムのシャワー室』の「ぼくの頭みて、いや冗談だろ、って言ってた」と、兵動大樹『まるむし商店東村さん』の「文珍師匠、ぴたっと止まって、ぐーっと見てひとこと『パンパース!』」というあたり。

四千頭身の後藤のネタは、彼の風貌を見てるとより笑える話で、見立て落ちに近いというか、身体を使ったネタはやはり受ける。

ただ、キレイにひと言で終わるものだけがお笑いではない。

「オチ」のある話の代表である「落語」だって、キレイにすぱっと終わるオチはほんの一部だけである。オチなんかなくても充分におもしろいものしか聞いてもらえない。

兵動大樹、千原ジュニア、宮川大輔のトーク展開の「ワザ」

そういう意味では、兵動大樹のトークはすごいとおもった。

聞き違いネタ『格闘技の無料体験』という話、この話のおもしろさは「キンカップ(男性急所の保護カップ)」と「タンクトップ」を聞き違えたことにあり、タンクトップのことだとおもって受付のお姉さんにサイズを聞くところが笑いのピークになっていた。そのあと行き違いを繰り返し、笑いをどんどん取っていくが、ふつうはそのまま、面白い部分をリピートして終わるものである。でも兵動は最後にそのカップを家で子供が遊んで頭に乗せていた、という話をくっつけて、本編の流れにありながら別の笑いを作って、終わっていた。感心した。名作落語のパターンと同じである。

千原ジュニアや、宮川大輔というMC側の人間は、ほぼ、話術だけでもっていく。これも凄い。「笑いの核」はほぼ最初に紹介されて、それを繰り返すことによって笑いを作っている。キレイなオチの話より、こういう小さい核を笑いに変える力ワザのほうが妙に心に残る。ずるいといえばずるい。ジュニアの「そやけど、直(じか)やねん」という言葉や、宮川大輔の「カエルの足がもうこんななってて」という動きはただ笑ってしまう。

そういう並みいるお笑い芸人の玄人をしのぎ、感心したのがGACKTである。

やはり一流のエンターティナーは違うと、ほとほと感心した。すてきだった。目が離せなかった。

彼の話はすごく練り込まれていた。おそらく事前に充分に準備をしたのだろう。

始まったときから「吐きそうです」といっていたが、それは完璧に準備していたからのプレッシャーがきつかったんだではないか。全部見終わったあとに、しみじみそうおもった。

笑いのツボをおさえたGACKTの華麗なトークの技術

GACKTは4本の話を披露した。

すごいのは、彼はすべて、自分でタイトルを付けていたところである。

GACKTのつけたタイトルは『それははずすな』『星に帰るマカベ』『恐怖のイノグチ先輩』『それは入れんな』で、『それははずすな』は番組内のテロップでは『マネージャーのカナモリ』、『それは入れんな』は『タクシー』となっていた。

事前にこれから話す笑い話のタイトルを言うというのは、ハードルが少し上がってしまうので、あまりお笑い芸人はやらない。たぶん、現場でトーク展開を変えるかもしれないから、板に立つ人たちは(ライブで劇場に出るタイプの芸人は)やらないのだろう。でも敢えてGACKTはタイトルを付けて展開した。そしてその目論みは見事、成功していた。

お笑いトークもまた、音である。

喋りを音としてどれだけ意識してるか、というのは大きなポイントになる。意識してなくてもいいが、どう音をうまく出し入れするかで受けは違ってくる。

GACKTはその点で、素晴らしかった。

当たり前だけど、もともと声がいい。ちょっと大きな声になるところに聞き惚れた。(お笑い芸人は、落語家も含めて、大声出すところで客を引かせてしまうことが、まま、あるのだ)

『それははずすな(マネージャーのカナモリ)』と『星に帰るマカベ』は、GACKTスタッフの天然行動に関する話で、それぞれ、カナモリとマカベの声をGACKTが演じたあとに、それを怒るGACKTが出てくる。この状況を説明しているふつうの声のGACKTもいて、それぞれの声がちがっていて、その落差に引き込まれる。GACKT世界に引き込まれてるんだなあという気持ちにさせられる。そしてその音の落差で笑ってしまう。

最後はGACKTのセリフでキレイにスパッと終わる。あまりまともでない登場人物の不思議な発言に対して、しなやかに、でも強くGACKTがツッコむ。めっちゃ笑ってしまう。

最優秀すべらない賞の『恐怖のイノグチ先輩』の話では、イノグチ先輩の行動がとにかく奇妙すぎるんだが、その描写だけで終わらず、「イノグチ先輩はルパンのようだ」という噂を先に紹介し、最後は「やっぱルパンだった」という静かなひと言で終える。見事なエンディングだった。大笑いしながらも、ドラマのエンドシーンを見てるようでもあった。

『タクシー』の話もめちゃおもしろくて、「それは入れんな」というタイトルがどうつながるのかわからないまま、「尋常ならざるウザさのタクシー運転手」の言動が描写されつづけ、やっと最後、料金の支払いのときに、想像しない追加料金を乗っけようとして「それは入れんな」と太くツッコむGACKTの声でひたすら笑ってしまった。笑いのカタルシスとはこういうものだ、という見本のようだった。

とにかくGACKTの話にはめちゃめちゃ笑わされたのだ。

聞いていて耳に心地よかった。それが大きい。

また聞きたい。同じ話でもいいし、別の話でもいい。とにかくGACKTが人を笑わせようと話する声をずっと聞いていたいとおもわせる番組だった。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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