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再度の「緊急事態宣言」で鉄道は対応で板挟み? 関西圏で終電繰り上げ、関東は調整に苦慮

小林拓矢フリーライター
JR西日本では大阪環状線を中心に減便などが行われる。(写真:KUZUHA/イメージマート)

「また?」と思う人も多いのではないだろうか。4月25日からの3度目の「緊急事態宣言」は、前回の宣言が感染拡大の歯止めにはならず、経済活動の再開と東京オリンピック・パラリンピック実施を目的としたものだったため、再度やらなくてはいけなくなったものだ。とくに関西圏では新型コロナウイルスの感染者が拡大し、大阪府では1,000名を超える事態が常態化している。これまでの「緊急事態宣言」の際にはもっとも人口の多い東京都の感染者数が最大だったが、今は人口が515万人以上少ない大阪府の感染者数がもっとも多いという異常な事態になっている。

 こんどの「緊急事態宣言」は成功させなければならない、ということで前回の「緊急事態宣言」より厳しい措置、昨年3月から5月にかけての「緊急事態宣言」並みに厳しい措置をとることになった。

「終電繰り上げ」や減便を要求される鉄道

 その中でも鉄道は、「終電繰り上げ」や減便を要求されている。昨年の「緊急事態宣言」では、「終電繰り上げ」は行われず、ゴールデンウイーク後にJR東海やJR西日本、JR九州の新幹線の減便が行われた程度で、JR東日本などの新幹線減便は、開始時期が「緊急事態宣言」終了後になってしまったため、減便は撤回となった。

 ゴールデンウイーク中の移動は控えてほしい、という要請が政府などから出されたため、昨年のゴールデンウイークは利用者がほとんどおらず、乗車実績は惨憺たるものになった。ただそのころは、「緊急事態宣言」が終われば感染拡大は終わり、いずれ状況も解決する、という見通しが多くの人の間にあったからだ。

 しかしその後再びの感染拡大状況が続き、2回目の「緊急事態宣言」。このときは「終電繰り上げ」が要請された。もともと、3月のダイヤ改正でメンテナンス作業時間帯の確保などの名目で終電を繰り上げることを計画していたのだが、それを繰り上げて感染拡大防止のため人の流れを止めるためにという理由で行政側から要請があった。

 従うしかない。いや、従わされた。たしかにそのころにはすでに深夜帯の利用者が少なかったものの、電車のダイヤは簡単には変えられないということで、運転するはずの列車を回送列車とするなどの対応をとった。

 そして今回の「緊急事態宣言」でも、行政は鉄道事業者に終電繰り上げを要請した。23日ころまでに内容が決まり、25日から実行に移される。そんな中でどう対処するかが課題となった。

 関西圏の鉄道各事業者の動きはすばやかった。日々関西圏での感染拡大の状況が報道される中で、関東の前回の状況を把握していたためか、対応がすばやかった。

 京都市営地下鉄は25日に終電の繰り上げを開始し、山陽電気鉄道は29日からの繰り上げ状況を発表した。JR西日本は28日から、大阪環状線などの終電繰り上げや減便を行う。近鉄では終電の繰り上げや特急列車の減便を行い、南海電鉄・京阪電気鉄道では終電を繰り上げる。また京阪では「プレミアムカー」のサービスを中止する。阪神電気鉄道では土日祝の昼間の急行を減便する。神戸電鉄でも最終列車の繰り上げを行う。

南海電鉄は5月22日にダイヤ改正を予定している。それまでにいったんダイヤはもとに戻るのか?
南海電鉄は5月22日にダイヤ改正を予定している。それまでにいったんダイヤはもとに戻るのか?写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 関西圏では大阪府・京都府・兵庫県に「緊急事態宣言」が出され、それぞれに人の動きが活発である状況から、対応する決断が早かった。また関西圏では「相互乗り入れ」が少ない現状もあり、各事業者で対応を決めることが可能となった。

 いっぽう関東圏では、JR東日本が終電の繰り上げや減便などを検討しているものの、どうなるかはいまの段階ではわからない。報道では、通勤電車を中心に減便などを行うという。しかも関東圏で「緊急事態宣言」となっているのは東京都だけだ。都内だけで完結するJR東日本の路線は少なく、ほかの鉄道事業者も同じだ。そんな中で減便などははたして効果があるのか。どうしていいのかわからない、というのが関東の鉄道事業者の本音だろう。

今回の「緊急事態宣言」では減便や「終電繰り上げ」は必要なのか

 3度目の「緊急事態宣言」となり、「ああまたか」という雰囲気が人々の間にはただよっている。このゴールデンウイークは、昨年よりも列車の予約状況がいい。帰省や旅行をしようとした人たちもいたはずだ。大規模な払い戻しの動きは見られないので、多くの人が出かけることになるだろう。呼びかけすらないのだ。

 26日の朝には、多くの人が普通に出勤していた。たいていの人は、ゴールデンウイークとはいえカレンダー通りに働き、休む。ことしは5月1日から5日までの連休となり、旅行などには都合がよかっただろう。

 また6日から7日にかけても減便するということになっているが、このあたりはふつうに多くの人が仕事などで移動することになることが予想される。

 何度も続く「緊急事態宣言」の中で、多くの人はコロナ禍の中でどう人は移動するべきか学んでしまった。それが感染拡大の一因になってしまっているにもかかわらず、どう動くかだけについての作法は習得している。また、ある程度は動いてもいいと考えるようになっている。

緊急事態宣言の中でも人々はふつうに通勤している
緊急事態宣言の中でも人々はふつうに通勤している写真:つのだよしお/アフロ

 後手のコロナ禍への対応に、政治や行政は信頼を失っている。

 そんな中で人は動く。夜間の会食などはしなくなったため、終電を繰り上げてもあまり変わりはない。しかし昼間は動くため、減便をしたらかえって鉄道は混雑する。ちぐはぐである。本来ならば帰省や旅行の中止を呼びかけてもいいが、それもない。

「ああまたか」の中で、政治や行政の意向を見つつ、乗客のことも考えなければならない各事業者は、困り果てている。しかもその中で、車両の運用や乗務員のシフトなど、検討しなければならないことは山ほどある。鉄道事業者にとっては大きな手間だ。そういうことを政治や行政は知っているのか。

 政治や行政は、コロナ禍においてあまりにも鉄道を振り回しすぎた。しかも、信頼していない政治や行政の言うことを人々は聞くのだろうか? その矛盾の中に追い込まれた鉄道は、どう対応するのがいいか難しい。

 鉄道の運行を減らす、ということではたして人々に「動くな」というメッセージを与える力になるのか。もうメッセージは通じなくなっているのでは。

追記 記事公開後、14時ころJR東日本は「緊急事態宣言に伴う一部列車削減等のお知らせ」を発表した。平日の4月30日、5月6日・7日は朝夕の本数を削減して運行する。東京メトロ・京王電鉄・小田急電鉄・東急電鉄・東武鉄道・京成電鉄・京急電鉄も同じ日の本数削減を同じころに発表。はたしてこれらの日、職場は臨時の休日となるのか。それによりこの措置の成否は分かれる。列車が窮屈になるか、それでも問題がないかは、当日にならないとわからない。特に5月の6日・7日。立場の異なる複数の語り手からのばらばらのメッセージが混乱を一層加速させるだろう。

追記2 東京都交通局も夕方になって対応を発表。ひととおりの関東圏事業者が緊急事態宣言での鉄道運行方針を決めた。なお、緊急事態宣言延長時にどうするかは、わからない。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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