回転寿司スシローに続いてラーメン店でもペロペロ事件! 飲食店で迷惑行為が行われるワケと課題は?
回転寿司店で迷惑行為の動画
昨年は、回転寿司店での迷惑行為の動画が物議を醸しました。
他の人がオーダーした寿司をとったり(投稿者は後に自作自演だと弁明するも真偽は不明)、回っている寿司に対して、ワサビをのせたり、唾液を付着させたり、手で触れたり、湯飲みや醤油さしを舐めたり、醤油さしに口をつけて直に飲んだり、回っているフライドポテトをつまんで食べたり、醤油をわざとテーブルにこぼしたりと、様々な問題行為を行う動画が公開されては炎上しました。
その中でも、大きな社会問題にまで発展したのが、いわゆる「スシローペロペロ事件」。
2023年1月29日に、高校生の少年が岐阜県にある回転寿司店の「スシロー」で醤油ボトルの注ぎ口を舐めたりするなど迷惑行為を行い、その動画をSNSに投稿しました。器物損壊容疑で書類送検されただけではなく、イメージを低下させたとして、運営するあきんどスシローが6700万円もの損害賠償を求めて提訴。結果的には和解に至りましたが、メディアでも連日取り上げられたことは記憶に新しいところです。
ラーメン店での迷惑行為
この「スシローペロペロ事件」を彷彿させる事件が、ラーメン店で起きました。
2024年1月上旬に、北海道の専門学校生が「ラーメン山岡家」でテーブルに置かれているウォーターピッチャーの蓋を舐め、その動画を投稿。本人は既に特定されており、店舗は被害届を提出する方向で動いています。さらには在籍している専門学校が「指導うんぬんを超えたマナーの問題」として退学の処分を下しました。
「ラーメン山岡家」は、2023年にも被害を受けています。男性客がテーブルに置かれた調味料用のニンニクを口に入れてから容器に戻すという、迷惑行為が投稿されました。
ペロペロ事件を含む、飲食店での迷惑行為と動画投稿が跡を絶ちません。こういった外食テロはとてもインパクトが大きく、あきんどスシローの親会社であるFOOD & LIFE COMPANIESは、1月31日の取引開始から株価が大幅下落し、時価総額168億円が毀損されました。
限度を超えた迷惑行為は、飲食業界全体に悪い影響を及ぼします。
食の安心と安全
飲食店にとって最も大切なことは何でしょうか。
私はミシュランガイドで星を獲得しているレストランや注目のファインダイニングなど、美食やガストロノミーに関する記事をよく書いています。しかし、おいしさを語る前に担保されるべきものは、安心と安全です。
飲食店をオープンするためには、飲食店営業許可を取らなければなりません。
飲食店は、食品衛生法施行令において定められた許可が必要とされる32業種のうちのひとつ。飲食店を営業するには必ず、所管の保健所から、飲食店営業許可をもらう必要があります。
食品衛生法とは
食品衛生法とは何でしょうか。
食品衛生法とは、飲食による健康被害の発生を防止するための法律です。
健康被害とは主に食中毒のこと。食中毒が起こらないようにするため、飲食店の営業について、店舗の構造や運営について、ルールを定めたり、指針を示したりしています。
飲食店は法律に則って、健康に被害を及ぼさないように細心の注意を払わなければなりません。ひとたび食中毒を起こしてしまえば営業が停止され、評判は地に落ち、立て直すことは困難。食中毒とまでいかなくても、今事案のように、食品衛生を損なう行為が行われたら、飲食店に対する安心安全のイメージが大きく毀損されることは確かです。
迷惑行為を行った人は、法律で定められた飲食店の食品衛生を意図的に損なわせたという意味でも、法を犯していると断罪されてよいでしょう。
表現方法が制限される
飲食店は、ただ単に料理を食べたり、ドリンクを飲んだりする場所ではありません。食をメインとしたエンターテインメントでもあります。
回転寿司は日本発祥の画期的な発明で、世界にも進出。本場の寿司が食べられること、さらには、回転するのがユニークであるということから、回転寿司は訪日外国人にも非常に人気があり、日本で楽しみたい食文化のひとつとなっています。しかし、「スシローペロペロ事件」が起きてからは、回転レーンの使用が縮小されたり、限定的となったりしました。
ブッフェも心配です。自分で料理などを取るブッフェは、ブッフェ台がプレゼンテーションであり、好きな時に好きなものを好きなように取れるという、非日常的な空間。ただ、迷惑行為を予防しようとすれば、今のスタイルを維持できなくなります。
ファインダイニングも同様。最近ではカウンターガストロノミーが人気となっており、キッチンとダイニングの距離がとても近いです。食材や仕上がったものを、客のひとりひとりに見てもらったり、触れてもらったりすることもあります。このような空間で迷惑行為が起きれば、大変なことになるでしょう。
利便性が損なわれる
影響を受けるのは、表現方法だけではありません。
カジュアルな飲食店では、テーブルに色々なものが置かれており、セルフサービスのスタイルをとっています。今事案のウォーターピッチャーは、その代表的なもののひとつであるといってよいでしょう。
それ以外にも、割り箸や爪楊枝、ティッシュペーパーやウェットティッシュといった備品から、ラーメン店であれば胡椒や辣油、牛丼店であれば紅生姜、うどん店であれば天かす、蕎麦店であれば刻みネギなど、口に入れるコンディメントもあります。
ファミリーレストランのドリンクバーやセルフサービスのコーヒーショップでは、グラスや紙コップ、砂糖やクリームを用意。カジュアルなダイニングであれば、カトラリーがテーブルに置かれています。
迷惑行為を予防しようとすれば、こういった共用物は完全に安心安全を担保できないので、撤去するしかありません。撤去されれば、スタッフに持って来てもらうことになりますが、客にとっては利便性が損なわれ、飲食店にとってはスタッフの負荷が高まってしまいます。
撤去しないとすれば、防犯カメラを設置したり、監視スタッフを置いたりして、注意するしかありません。しかし、全ての迷惑行為を発見したり、抑制したりすることは難しく、コストも余計にかかってしまいます。
他の客が被害を受ける
表現方法=プレゼンテーションが制限されたり、利便性が損なわれたりすれば、誰が被害を受けるのでしょうか。
当然のことながら、飲食店は損害を受けますが、飲食店を利用する客も不利益を被ります。プレゼンテーションが制限されて、ダイニングシーンがつまらなくなったり、自由に使えるコンディメントなどの共用物が置かれなくなって不便になったりするからです。
一部の客が迷惑行為を行うことによって、他の客が大きな迷惑を被りますが、ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)の問題と構造的に似ています。
ノーショーやドタキャンを行う一部の常識外れの客がいるために、飲食店は損害を受けます。これをカバーしようとすれば、全体的に価格を上げるしかありません。つまり、マナーがなっていない客のために、しっかりとマナーを守っている客が余計なお金を支払って穴埋めすることになるのです。
迷惑行為をするほんの一部の客によって、他の大多数の客が間接的に被害を受けています。
飲食店は身近にある馴染み深い場所
では、どうして飲食店で迷惑動画が撮られるのでしょうか。
食は人にとって最も身近な文化であり、飲食店は馴染み深い場所です。撮れ高の高い写真や動画が撮れ、様々なSNSにすぐ投稿できます。つまり飲食店は、簡単にコンテンツを制作してSNSに公開できるスポットになっているのです。
SNSに投稿する人の多くは、オススメの店を紹介したり、おいしかったものを掲載したりと、飲食店の一助になっています。一部には、ファインダイニングや予約困難店に訪れていること、もしくは、シェフやオーナーと一緒に撮影することによって、自分自身を喧伝している人もいますが、飲食店にとってプラスになりませんが、マイナスになっているわけではありません。
問題になるのは、飲食店への影響や第三者からの視線に考えが及ばず、とにかく目立ちたいという人です。そういった人が、今事案のように、自分だけが面白いと思う迷惑行為を平然と行って、自ら動画を投稿しているように感じます。
犯罪まがいの迷惑行為
「スシローペロペロ事件」も今回も、被害届が受理されるような、犯罪に値する行為です。
以前は「イタズラ行為」と表現されており、行為が矮小化されることに危惧を覚えていました。しかし、いくつか刑事事件化されたことによって、イタズラと称されなくなったのはよい傾向です。
最近では「迷惑行為」と表現されることが多いですが、それでもまだ行為が続くようであれば、適切な表現ではないのかもしれません。「犯罪まがいの迷惑行為」と断じて、絶対に許されない恥ずべき行為であると伝えるべきではないでしょうか。
本人が自ら投稿した動画にもかかわらず、報道の際にあえて顔をぼかすのも抑止力を減少させているように思えてなりません。
飲食業界の毅然とした対応が必要
大手飲食店予約サービスのTableCheck(テーブルチェック)による調査では、2024年1月15日から21日までの飲食店の1店舗当たりの1日の来店人数週平均は35.2人で、前週比7.3%増と4週ぶりに増加。平日の客足は前週比8.1%増、週末は同6.2%増と、週末の客足は2023年の年末と同水準にまで達しています。
・コロナ禍における飲食店の来店・予約件数推移/TableCheck(テーブルチェック)
飲食店の状況が回復してきているだけに、飲食業界に対する安心安全のイメージが低下し、客足に影響が及ぶことがあれば、とても残念です。
犯罪まがいの迷惑行為を受けたら、飲食店は警察に被害届を提出してもらいたいと思います。飲食店にとって最も重要な安心安全を担保するという姿勢を示すためにも、しっかりと声をあげて厳罰を求めていくことが極めて大切です。
今事案では、当初から被害届を提出する方針だったのが、適切な判断だったと思います。
日本の食文化
日本の食文化は、魚の生食や発酵文化、引き算の料理理論から、寿司や天ぷら、しゃぶしゃぶやすき焼き、鉄板焼やお好み焼きといった専門料理の多さなど、世界の中でも非常に特徴的です。醤油やワサビといった調味料、黒毛和牛をはじめとする和牛、魚介類の干物、日本酒やウイスキーなどの酒類と、世界から評価されている食材や食品もたくさんあります。
2013年には「日本人の伝統的食文化」として「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録。2022年の農林水産物・食品の輸出額は過去最高額の1兆4148億円に達しました。最新の集計によれば、2023年1月から11月における農林水産物・食品の輸出額は1兆2775億円となっており、2022同期間比で2.8%増となっているので、さらに伸張することになりそうです。
日本にはたくさんの飲食店があり、食べログによると、東京だけでも10万店を超えるほど。ミシュランガイドでは、東京は世界で最も多くの星をもつ都市です。美食国でありながらも、いつでも好きな時にふらりと入り、手頃な価格でおいしいものを食べられる店が多いのも魅力です。
日本の食文化は世界に誇れるものであり、少子高齢化の中で、我々の子孫が発展していくためには、より重要度を増していきます。
したがって、日本の未来を担う若者を育成していく専門学校が、日本の食文化を毀損するような件の生徒をすぐ退学処分にしたことは、納得できることです。
食育の必要性
食育基本法は2005年に制定されました。その主な目的は、様々な経験を通じて食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てることです。
2021年には第4次食育推進基本計画が発表されました。
「生涯を通じた心身の健康を支える食育の推進」と「持続可能な食を支える食育の推進」をより連携させていくとしており、SDGsにより力を入れていき、その重点事項として<「新たな日常」やデジタル化に対応した食育の推進>が挙げられています。
食育基本法で掲げている「デジタル化」はDX化という側面が強いですが、デジタル社会における、飲食店をはじめとした日本の食文化への理解やリスペクトも盛り込むべきです。日本の食文化を体現する飲食店で、犯罪まがいの迷惑行為が頻発しているだけに、中長期的な視点に立って、日本人のアイデンティティに日本の食文化をしっかり組み込むことも、喫緊の課題であるように思えてなりません。