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釣りと水辺の遊びに、安全のひと工夫 マスクの連休は救命胴衣が効果絶大

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
マスクの今年は救命胴衣が絶大な効果を発揮しそう(筆者撮影)

 コロナ禍で釣りが空前のブーム。近所で密を避けて楽しむことのできるアウトドアレジャーです。でも、ゴールデンウイーク(GW)連休中、釣りや水辺の遊びには水難事故がつきものです。マスクの今年は救命胴衣が効果絶大となるシーンもありそうです。

今年の釣りは例年より危険

 連休中に、渓流、ため池、防波堤、磯といった近所に少し足をのばして外の空気を楽しむ人がいることでしょう。このところ、コロナ禍で密を避けることのできる釣りが空前のブームとなっています。その証拠に日本釣用品工業会の予測によれば、昨年も今年も釣用品の売り上げが全国的にアップの模様です。

 今年の釣りで特に怖いのが水中転落です。マスクをしたまま水に落ちると、マスクが濡れて呼吸ができなくなります。転落したらすぐにマスクが外せるように、マスクの今年は救命胴衣の着装が効果絶大となりそうです。

【参考】知ってますか? マスクをしたまま水に転落したら呼吸ができない

ボート釣り ー水温はまだまだ冷たい

 下の参考データ1に示すように、これまでの事故解析により、GW連休中における死亡リスクが高い活動は、ボート釣りだと判明しています。なにかしらをきっかけに釣り中にボートから転落し溺れてしまう事故、すなわち落水が目立ちます。現場は海ばかりではありません。湖でも発生しています。

 ボートで活動する時には法律で決められた救命胴衣を着装します。ところが、救命胴衣で浮いているだけでは命が助からないのがGW連休中の落水事故の特徴です。4月から5月にかけては、気温は高いのですが、水温がまだ十分に温まっていません。暑くて薄着になる人もいます。

 落水したら、救助されるまでに人が命を長らえることのできる水温の限界は約17度。参考データ2のグラフをご覧ください。冷水に人が浸かった時の肌表面の温度変化を示しています。厚着をしていれば水温が低くてもなんとかもちこたえますが、水着のようにほぼ裸だと水が冷たすぎて体がもちません。

 すぐに緊急通報(海岸や湖は119番消防、海上は118番海上保安庁)できるように携帯電話を防水パックなどに入れて首から吊り下げて、万が一の落水事故では水面で携帯電話を操作できるようにします。

ため池釣り ー這い上がれない

 ため池では、波も流れもない安心感から、ついつい立ち入り禁止場所に救命胴衣を着装せずに入ったりしてしまいます。大人ばかりでなく、子供同士で入り込むこともあります。

 ため池では子供をはじめとして若い人が亡くなる傾向が強くなります。多くのため池では壁面が斜面となっており、一度落ちると自力で這い上がれなくなります。たとえ救命胴衣を着装していても、上陸することはできません。上陸できなければ、次第に体が冷えて低体温となり、命を失うことになりかねません。図1はブラックバス釣りの若い男性が落ちて溺れた、ため池の現場写真です。一見すると這い上がれそうに見えますが、這い上がれませんでした。

 犠牲者は一人とは限りません。釣り仲間が最初に落ちた友達を助けようと飛び込み、全員が上陸できずに溺れたりもします。救助死です。2017年5月6日に大分県で発生した水難事故では、18歳と23歳の男性が溺れて亡くなりました。

 GW連休中のため池の水温は場所によっては10度くらいのところもあります。低体温はかなりのスピードで進みます。誰かに発見されるまで気長に待つわけにはいきません。落水事故では、水面から119番通報できるように携帯電話を肌身離さずに携行します。

【参考】4月21日は救助死した夫の命日 妻は語った「家族にとっては、美談じゃない」

図1 ブラックバス釣りに来ていた若い男性がこのため池の手前の岸付近で溺れた。一見すると這い上がれそうなのだが(筆者撮影)
図1 ブラックバス釣りに来ていた若い男性がこのため池の手前の岸付近で溺れた。一見すると這い上がれそうなのだが(筆者撮影)

磯釣り・防波堤釣り・貝採り ー戻り流れにもっていかれる

 磯や防波堤下の消波ブロックには細かな隙間があります。大した高さの波でなくても、長い波長の波が来ると、磯やブロックが波をかぶり、その海水が引いていく時に隙間に流れが集中して、強い力の引き波が発生します。ここに引きずりこまれると、いっきに沖に流されます。戻り流れです。

 磯釣りで岩場に立っていたり、ブロックにおりて釣り、貝採り、海藻摘みをしていたりすると、戻り流れにやられることがあります。特にGW連休中に貝採り中に流されて命を落とす事故が頻繁に発生しています。救命胴衣を着装していないことが比較的多く、致死率の高い事故となっています。

渓流釣り場 ー浅い水深でも溺れる

 山奥に入れば、新緑の中で渓流釣りが簡単に楽しめる釣り場が数多くあります。図2に示すように家族連れで楽しむことができるほど手軽ですが、救命胴衣が準備されていなかったり、準備してあっても装着せずに釣りを楽しんでいたり、それが例年のシーンです。

 ところが今年はマスクをしたまま釣りを楽しむ人が大多数です。いつもなら落ちてもそれほど水深はそれほどなく、顔を出せばすぐに呼吸できました。でもマスクをしたまま落水すると、すぐにマスクが濡れて、瞬時に呼吸ができなくなります。パニック状態になり、浅いのに溺れます。一回の呼吸の失敗で命を落とすのが水難事故です。

 救命胴衣で浮いて、慌てずにマスクをすぐに外します。とにかく時間的な余裕を作れば濡れたマスクに命をとられることはありません。

図2 渓流を使った釣り場。渓流釣りが家族連れで楽しめるほど手軽感があるものの、マスクの今年は救命胴衣を着装したい(筆者撮影)
図2 渓流を使った釣り場。渓流釣りが家族連れで楽しめるほど手軽感があるものの、マスクの今年は救命胴衣を着装したい(筆者撮影)

近所の水辺の遊びにも注意

 コロナ禍でステイホームして、近所の水辺くらいに行って息抜きしていれば大丈夫でしょうか?いえいえ、人の行動範囲の中に水辺があれば水難事故がおこります。 

用水路 ー水量が多い

 図3は、今年の4月初旬に発生した幼児の用水路転落事故の現場です。桜の樹木が並び、水路の法面には短い草が生えていて、ピクニックにもってこいの場所に見えます。

 でも、農作業が盛んになるGW連休中は田畑に水を届けるために用水路の水量が増えています。実際に過去9年間のGW連休中に幼児3人から高齢者3人までが落ちて溺れています。「小さな用水路で浅いから大丈夫」ということはありません。不用意に水路に近づいてはダメです。

【参考】こんな小さな用水路で、なぜ人は次々と溺れるのか?富山の用水路の現状から

図3 幼児が転落して溺れた事故の現場。水路には不用意に近づかないようにしたい(水難学会提供)
図3 幼児が転落して溺れた事故の現場。水路には不用意に近づかないようにしたい(水難学会提供)

山 ー落ちると沢がある

 もう少し家から離れて、山菜採りや山登りはどうでしょうか。水辺とあまり関係なさそうですが、この9年間で山菜採りで2人、トレッキング等で4人が犠牲になっています。崖から転落して沢に落ちて溺れています。

 特に雪解け水で増水している地域では、要注意です。GW連休中は水量が多いばかりでなく、水温が極めて低く、浸かると生存可能時間が1時間以内という川もあります。

【参考】濁流ニモマケズ 日本一の大河を氾濫から守る改修事業

河原でのバーベキュー ー川が「おいで、おいで」する

 バーベキューで河原に集まり、暑さにつられてついつい川に入って溺れる事故もGW連休に多く発生します。川が「おいで、おいで」と誘っているかのようです。

 2015年5月2日に発生した水難事故では、バーベキュー中に来ていた家族のうち、川に入って溺れた12歳の男の子を助けようとした母親が溺れて亡くなりました。男の子は無事でした。楽しかったはずのレジャーが一転し災いとなりました。昨年のコロナ禍でも海よりも川に人が集まり、多くの人がバーベキュー中に不用意に川に入って溺れて亡くなっています。

海岸 -砂浜から海に引きずりこまれることも

 水に入らないからと言って安心はできません。2014年5月4日に新潟県上越市で発生した水難事故では、砂浜海岸で遊んでいた子供3人と大人2人が溺れて亡くなりました。一度に5人もの命が失われたら、大惨事です。

 この事故では、砂浜を大きく駆け上がってきた波が戻り流れとなり、まず3人の子供がそれに引っ張られました。距離にして30 mくらいを5秒から10秒くらいの速さで流されました。陸上短距離オリンピック選手の走りに匹敵します。そして、子供たちを追いかけて大人2人が砕波に突っ込み、すぐに姿が見えなくなりました。結果的に救助死となりました。

 波が砂浜を駆け上がってくるようなら、すぐに砂浜から退避するようにします。

【参考】瞬殺的戻り流れ ほぼ3秒で溺れる だから荒れた海には近づいてはダメ

まとめ

 GW連休中は、毎年のように水難事故が繰り返されています。マスクの今年は、落水したらいつもの年よりも命にかかわると思って間違いありません。「水に落ちたらマスクを外す」と覚えておいてください。

参考データ1 この9年間のGW連休中の水難事故

 晴天が続き少し汗ばむような日が続くGW連休。メディア情報にて公表された死亡水難事故だけでこの9年間に44件、49人が犠牲になっています。お盆前後の期間中の水難事故と比べても遜色ない数に上ります。

 2012年から2020年にかけてのGW連休中の水難事故のうち、報道された事故について一覧に示します。発生年月日、年齢、性別、溺水時の行動の順番で示します。

用水路等

20180508  6 女 散歩

20180429 84 女 散歩

20150429  3 男 水遊び

20140508 65 女 散歩

20140506  2 男 散歩

20140429 84 女 散歩 

河川

20200505 18 男 BBQ

20180504 74 男 不明

20180508 75 男 登山

20170506 19 女 水遊び

20170506 84 女 山菜取り

20170505  9 男 トレッキング

20150502 40 女 BBQ 救助死

20140510 14 男 山菜取り

湖・ため池 

20190504 18 男 BBQ

20170509  6 男 ボート釣り

20170509 73 男 ボート釣り

20170506 18・23 男2 釣り 救助死

20160507 74 男 パラグライダー墜落

20150505  7 男 水遊び

海浜

20200428 ? 男 ワカメ採り

20190506 69 男 貝採り

20190506 67 男 ボート釣り

20190503 25 男 ダイビング

20190428 80 男 貝採り

20190428  7 男 不明

20190428  6 男 釣り

20190428 36 女 シュノーケリング

20180504 16 男 散策

20180429 61 男 貝採り

20170503 81 男 ボート釣り

20170502 56 男 ボート釣り

20170430 81 男 貝採り

20170501 68 男 救助死 

20160508 45 男 ボート釣り

20160508 77 男 漁

20160503 65 男 転落

20150505 67 女 貝採り

20150504 53 女 ダイビング

20150504 70 男 貝採り

20150425 57 男 サーフィン

20140506 63 男 釣り

20140504 子供3 大人2 散策 救助死

20140429 78 男 貝採り

参考データ2 衣服有無による肌近傍水温の変化

図4 水温10.2度の水中における裸体状態と厚着状態との肌近傍における水温の変化の一例。裸体では冷たさに耐えきれず2分で実験中止となった(筆者作成)
図4 水温10.2度の水中における裸体状態と厚着状態との肌近傍における水温の変化の一例。裸体では冷たさに耐えきれず2分で実験中止となった(筆者作成)

 図4のように裸体では落水とともに肌近傍水温が急激に低下し、体も急速に冷やされます。一方、厚着していると服と肌の間にたまった水が体温で温められます。時々動くことでその水が衣服の外の水と交換すると水温が下がりますが、すぐに体温で温められます。このデータはある条件下での数値であって、普遍性のある結果を示すものではありません。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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