小室圭さんの説明文書に納得できない人が多いのはなぜか:お金と結婚恋愛と天皇家の心理学
■小室圭さん、全28枚の文書発表
秋篠宮家の長女眞子さまとの結婚が延期となっている小室圭さんが金銭トラブルに関して説明した文書(4/8公表)。トラブルと言われている金銭問題は、借金ではないこと、先方が返さなくてよいと語ったことなどが長文で説明されています。複数の弁護士にも相談の上で、今まで沈黙していたとも書かれています。
宮内庁長官は、「非常に丁寧に説明されている印象だ」と述べていると報道されていますが、ネットや世間の評価は、思わしくないようです。
■小室圭さん発表文書へのネット上の反応
このニュースを報じたヤフーのコメント欄には、次のようなコメントが並んでいます。
「こんな事はまずはきちんと返済してから述べる事だと思いますけどね」
「ダメだわこれ。国民感情の炎に油を注いだだけ」
「借金じゃないのなら、その後の遺族年金は不正受給」
「屁理屈に過ぎない。共感できない」
「ただの言い訳にしか聞こえない」
「どんな理由があろうと、借りたお金はしっかり返済し、感謝すべき」
「ますます小室氏への不信感が高まった」
「相手を思う気持ちが全く感じられない」
「小室さんが結婚辞退すれば良い」
ほとんどが否定的コメントです(ヤフコメ欄は、ある方向に意見が流れると他の意見のコメントはしずらい面もありますが)。
■マスコミ、有名人の反応
「『返してもらうつもりなかった』(という録音データ)、小室圭さんが公開した“無実”の決定的証拠」(女性自身)
「“言い訳&反論”力説でケジメとなるか」(日刊ゲンダイ)
「小室圭さんの経緯説明文書の矛盾と失敗」(デイリー新潮)
「共感・理解できなかった。事態改善を望む」(日本維新の会、音喜多駿参院議員)
「弁護士のアドバイスが悪いか、小室さんの屁理屈」(元大阪市長、橋下徹弁護士)
「国民への義務感や責任感を持った人であってほしかった」(元宮崎県知事、タレントの東国原英夫さん)
「小室圭さんの超ロング文書は0点」(元衆院議員、横粂勝仁弁護士)
肯定的、否定的意見はありますが、否定的意見の報道の方が目立ちます。その方が、多くの読者、視聴者の共感を得られやすいからでしょうか。
今回の文書発表前に週刊朝日が行った調査でも、結婚に反対が97パーセントでした(3/20報道)。
■小室圭さんの説明に人々はなぜ納得できないのか
詳細な事実は不明であり、ここでは論じません。ただ、なぜ人々が理解納得できないのかを考えたいと思います。
お金が支払われたのは双方が認める事実です。これが借金なのか贈与なのかですが、理屈で言えば、借用書もありませんし、借金と認定されるのは難しいのでしょう。返済義務はないという主張は、それほど間違ってはいないとも言えるでしょう。
しかし、多くの日本人は法的な借金かどうかよりも、「善意のお金」であると感じ、相手が返してほしいと言っているのなら返すべきであり、しかも感謝を述べるべきだと感じるのでしょう。それが、誠意ある人間の態度だと。
この種の問題は、それほど珍しくはないようです。もめた場合は、たとえば半額を借金返済ではなく解決金として支払うようなこともあるようです。
多くの日本人は、契約や法律よりも、気持ちの問題を重視するのでしょう。誰かと廊下でぶつかったときには、「安易に『ごめんなさい』などと言えば自分の非を認めたことになるので謝罪はしない」などと、私たちは考えません。
非がなくても謝れる人が人格者だと感じるでしょう。その謝罪の言葉を録音しておいて、相手に損害賠償を請求などしたら、全く共感されず世間からのバッシングを受けるでしょう。
婚約中であれば、「あげる」「返さなくてよい」と言っても、婚約が破棄されれば、返してほしくなるという気持ちも、わからなくはないと感じる人もいるでしょう。
心理学的には、人間には「心のさいふ」があると言われています。普段なら簡単には使わないお金でも「婚約者のため」と感じると、それ用の心のさいふのひもは大いに緩みます。しかし、婚約者でなくなれば、通常の金銭感覚が戻り、400万円は大金であり、返してほしいと思うのも無理はありません。
このような心理学(行動経済学)の理論を知らなくても、何となく心情的には理解できるので、返してあげてほしいと思う人も多いのでしょう。400万円というお金は、婚約者ならいざ知らず、他人にあげる金額ではありません。
理屈は気持ちの土台として必要ですが、多くの日本人が求めているのは、理屈っぽい説明ではなく、気持ちとか誠意ある態度なのでしょう。
■日本人とお金
どの国、文化の人にとっても、お金は大きな意味を持ちますが、日本人はまた特別の感覚を持っています。
アメリカだと子供がレモネードを売ってお金を儲けるのは良いことですが、日本なら叱られるでしょう。お金のことを口にしたり、考えるだけでも、子供らしくないと言われることもあります。
社会心理学的な研究によると、お金は能力や社会的地位の象徴にもなりますが、日本では「お金は諸悪の根源」といった感覚もあります。労働は尊いけれど、不労所得は汚いという感覚もあります。
西洋ではチップの習慣がありますが、日本ではお金を裸のまま人に渡すのは失礼という文化もありました。お礼を渡すのも、現金は失礼であり、品物や商品券で渡そうとする習慣もあります。
民俗学的には、お金にはケガレがあるという発想もあります。
このような日本文化の中で、今回の「金銭トラブル」は、国民の大きな不快感を生み、さらに今回の説明文も、この国民感情をなだめるものにはならなかったのでしょう。
事実はどうであれ、「お金にきたない」というイメージを持たれてしまえば、その人の評価は低下し、そして今回は、普段はあまり問題視されない結婚一時金の1億5千万円のことまで、やり玉にあがっているのでしょう。
日本人も、もちろんお金は欲しいのですが、同時に複雑な感情を持っています。お金のことと人間関係の両立は、日本人ならではな難しさもあるでしょう(「お金の使い方と評判の心理学:気前良くふるまうと評価が上がる?共感性の高い人はお金がたまらない?」Y!ニュース個人有料)。
■天皇の心理学
調査によれば、普段は天皇家のことに関心のない人々も、天皇陛下の崩御、天皇家のご結婚、大きな行事などがあると、やはり天皇家に関する意識が高まります。
天皇陛下も現人神(あらひとがみ)ではなく、人間であり、人権があります。秋篠宮様もおっしゃるように、結婚は本来二人の合意においてのみ成立するものでしょう。とはいえ、国民が天皇家に求めるイメージはあります。
結婚だけでなく、人は職業も住む場所の自由に選べる権利を持っていますが、たとえば天皇家の女性が、大阪に引っ越し、女お笑い芸人になると言ったら、国民は困惑するでしょう。
天皇家のみなさんは、和歌やクラシック音楽をたしなみ、大学院での研究テーマも、あまり激しい論争にならないようなテーマを選んでいいらしゃると言われています。
上皇后美智子様も、明治時代以降初めての民間出身でいらっしゃり、「テニスコートの恋」とも呼ばれましたが、大企業の社長令嬢でした。
雅子様、紀子様は、もう少し経済的には庶民的ではありますが(それでも外務省事務次官のお嬢様と学習院大学名誉教授のお嬢様)、多くの日本人が天皇家にふさわしいお方と感じたことでしょう。
(ちなみに、紀子様は学習院大学心理学科のご出身。ご婚約中に、日本社会心理学会の研究大会で私と同じ発表教室にいらっしゃいました。その部屋のテーマは「天皇の社会心理学」でした。ご結婚後は、そのようなテーマに参加されることは難しかったでしょうが。)
天皇陛下の妹、紀宮(のりのみや)(黒田清子)様の結婚相手も、秋篠宮様の友人で幼少時から面識のあった方であり、国民は大いに祝福しました。
つまり、自由恋愛とはいえ、やはりそこには予定調和があったことでしょう。皇室担当のマスコミに方にお聞きすると、宮内庁職員は決して天皇家の方々を縛るようことはしていないそうですが、様々なサポートの中で、戦後の天皇家においても、国民の多くが祝福するご結婚がなされてきたのでしょう。
しかし今回は、そのような予定調和が崩れてしまいました。「お金に汚い男性と神聖な天皇家の純真な眞子さまとの結婚」と感じてしまえば、祝福できないと思ってしまうのでしょう。
■恋愛と結婚の心理学
恋愛はロマンス、結婚はリアリズムです。恋愛は楽しいものですが、楽しい恋愛が必ずしも幸せな結婚にはむずびつきません(心理学の研究)。
庶民であっても、結婚となれば、様々な事情を勘案して決めるでしょう。しかし、二人が結婚したいと言っいるのなら、親が無理に止めるのは法的にも道義的にも問題があります。
親や親せきが反対したままの結婚になれば、「あの人は私たちの結婚を反対した」といつまでも言われかねません。
そして、二人の恋ごごろは、反対されるほど燃え上がります。これを「ロミオとジュリエット効果」と呼んでいます。見つかれば半殺しの目に合うのに、ジュリエットに会いに来てくれたロミオ。このような状況下で、ジュリエットは「ロミオの愛は強く本物だ」と感じるのです。
こじれにこじれてしまった小室さんと眞子さまとの結婚問題。戦後の天皇家は、新しい日本の家族像の象徴としての役割も果たしてきました。今回の問題も、どの人にとっても幸福な結果を望みたいものです。
☆補足4/12:新しいページをアップしました。
→「小室圭さん 「解決金」支払に人々が納得できなのはなぜか:謝罪と感謝と印象変化の心理学」
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参考
碓井真史・纓坂英子「天皇に関する大学生の意識調査」(日本社会心理学会第30回大会)
渡辺伸子・佐藤有耕「お金に対する態度に関する心理学的研究の動向」(筑波大学心理学研究)
新谷尚紀「民俗信仰を読み解く なぜ日本人は賽銭を投げるのか」 (文春新書)
国分康孝「恋愛の心理―男と女が向かいあうとき、すれちがうとき 」(三笠書房)
斎藤哲雄「天皇の社会心理―社会調査にみる民衆の精神構造 」(彩流社)