巨大ブラックホール同士が衝突した瞬間の「音」がヤバイ
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「ブラックホール同士の衝突音がヤバイ」というテーマで動画をお送りしていきます。
ブラックホールとはその重力が大きすぎて、そこから光でさえも逃げだせない天体です。
ブラックホールのすぐそばに星が近づくと、強い重力で星がばらばらに壊され、吸い込まれていきます。
吸い込まれていく星のガスはブラックホールの周りを高速で回転し、降着円盤というガス円盤を形成します。
降着円盤の中では高速で運動するガス同士の摩擦によって超高熱が発生し、強いX線を放射します。
●ブラックホール同士の衝突
それでは、ブラックホール同士が衝突すると一体どのようなことが起きるのでしょうか?
ブラックホールのほとんどは、大質量の星が進化の末に行きついた姿です。
太陽の質量の30倍以上の星がその最期に超新星爆発を起こすと、星の内部が潰れてブラックホールになります。
非常に明るい大質量の恒星の多くは連星系を成しているという観測結果があります。
連星系のそれぞれの恒星がブラックホールになると、ブラックホール同士の連星系ができます。
連星系のふたつのブラックホールは、らせん状の軌道を描きながら互いに落ち込んでいきます。
両者が近づくにつれ、周りの空間のゆがみが増し、ついには合体して1つのブラックホールになります。
合体直後のブラックホールは激しく振動し、エネルギーを失いながら次第に落ち着いていきます。
●重力波とは
ブラックホールの衝突の過程では、強い重力波が発生します。
重力波とは、時空のゆがみが波として伝播していくものです。
アインシュタインの一般相対性理論によると、重力は時空のゆがみとして理解されます。
地球は太陽の周りを回っていますが、太陽の質量によってその周囲の時空がゆがみ、そのゆがみによって地球は重力を受けています。
質量をもつ物体が運動すると、それに伴って時空のゆがみが波となって光速で伝わっていきます。
重力波が通過すると空間が伸び縮みします。
しかし、重力はとても弱いため、重力波の効果は非常に小さなものです。
例えばダンベルを振り回すだけでも重力波が発生しますが、そのパワーはとてつもなく弱いです。
太陽をめぐる惑星や恒星同士の連星でさえ、人類が検出できるレベルの重力波を発することはありません。
重力波が検出される可能性が高いのはブラックホールや中性子星などの非常に高密度な天体同士の合体の瞬間です。
ブラックホールの合体については、私たちの銀河系では100万年に1度の頻度で発生すると考えられています。
非常にまれな現象ですが、この大イベントは10億光年離れた場所で起きたとしても検出可能です。
その範囲には何百万もの銀河があるので、1年に数回はこのイベントを観測できるという見積もりになります。
●ブラックホール衝突時の音
人類が初めて重力波イベントを捉えたのは、2015年9月14日のことでした。
この日、LIGO(レーザー干渉計重力波天文台)の2つの観測所でほぼ同時に重力波が観測されました。
この信号は地球から約13億光年離れた場所で起ったブラックホールの合体による重力波であることが確認されたのです。
LIGOは、観測された重力波を音波に変換し、それを一般公開していたので、紹介していきます。
最初に2回流れる低い音は、音波の周波数がブラックホール衝突によって発生した重力波の周波数と完全に一致しています。
その次に2回流れる高い音は、人間の可聴域に合わせて周波数を高くしたものです。
ほんの一瞬の出来事ですが、ブラックホール衝突の瞬間に近付くにつれ、ブラックホール同士の距離も近付き、音波の周波数は上昇し高い音に、振幅は大きくなり大きな音になっているのがわかります。
LIGOが観測した重力波信号は時間にしてたったの0.2秒程度でした。
この0.2秒の重力波信号を解析することで何が分かったのでしょうか?
観測された重力波の波形は、大きく3つの段階に分けられます。
最初はインスパイラル期と呼ばれる、2つのブラックホールがお互いの周りを公転している段階です。
重力波を放出しつつ、そのエネルギー損失によってお互いに落ち込んでいきます。
すると公転周期は早く、重力の効果は強くなるので、より高い周波数、大きな振幅の重力波を放射することになります。
結果として、時間とともに周波数と振幅が増大して特徴的な波形が現れます。
2つ目の段階は、合体期と呼ばれます。
2つのブラックホールが合体し、非常に大きな重力波を放射する瞬間です。
最後はリングダウン期と呼ばれ、合体によって新しくできたブラックホールの振動が、重力波を放射してエネルギーを失いながら落ち着いていく段階です。
観測した重力波の波形から、2015年9月の重力波イベントは、それぞれ太陽質量の36倍と29倍のブラックホールが合体し、太陽質量の62倍のひとつのブラックホールができた現象であることが判明しました。
相対性理論によると質量はエネルギーに変換可能です。
失われた太陽3個分(地球100万個分)の質量は、重力波のエネルギーとして一瞬にして放出されました。
この重力波のエネルギーは、地球から現在の距離で465億光年以内の観測可能な宇宙の中にある全ての星や銀河が放つ光のエネルギーの、さらに10倍以上大きいエネルギーとなります。
まさに異次元の天体現象です。
また、合体の直前には、ブラックホールが光の速度のおよそ60%もの速度で運動していたこともわかりました。
●ペルセウス座銀河団BHの音
併せて、銀河団の中心にある超巨大ブラックホールが奏でる音も紹介します。
そもそも「音」とは一般的に、物質(媒質)を伝わる波です。
私たちは地球の空気を伝わる波を音として聞いています。
宇宙空間には地球大気のような波が伝わる媒質が存在しないため、音は伝わらないというのが一般常識になっています。
先ほど紹介したブラックホール合体時の音も、周波数は完全に一致していますが、観測された重力波の波形を音波に変換したものです。
ですがNASAは、この一般常識を「誤解」であるとしています。
例えば何百もの銀河が集まった巨大な銀河の集団「銀河団」では、地球の大気ほどではないものの非常に高密度でガスが存在していて、これが音が伝わる媒質になるそうです。
特に地球からペルセウス座の方向に約2億2200万光年彼方にある「ペルセウス座銀河団」では、その中心にある超巨大ブラックホールから放たれた圧力波が周囲にある大量の超高温ガスを媒質として伝わっています。
これは非常にマクロなスケールの音波と捉えられます。
ただし何万光年単位という本当にマクロなスケールでのガスの密度の濃淡を音波と捉えているので、あまりに低い音過ぎて本来であれば人間には聞こえません。
そのため人間の耳にも聞こえるよう、音の高さを非常に高めています。
今から実際に公開された音を流しますが、かなりおぞましい感じの音なので、少し閲覧注意です。
この音は、チャンドラX線観測衛星が解明した、銀河団中心のブラックホールから見た方角ごとのガスの濃淡を音波として捉えて、実際に聞こえる音に編集した上で公開されています。
先述の通り元々は人間の耳には聞こえないほど低い音ですが、57-58オクターブ上げて聞こえる音にしています。
1オクターブ上がると周波数は2倍になるので、これは元の音の2^58倍、つまり28京8000兆倍も周波数を上げていることになります!
そしてこの音波が周囲のガスに伝わることで、ガスの温度が過去10億年という長い間にわたって、実に3000万度という超高温に保たれています。
これだけ高温だからこそ、ここから放たれたX線によってガスの濃淡が判明し、人間の耳に聞こえる実際の「音」として私たちが楽しめているわけです。