年明けの安倍総理は内憂外患を抱えて東欧に旅立った
フーテン老人世直し録(348)
睦月某日
安倍総理は12日から6日間の日程で東欧6か国訪問に旅立った。北朝鮮問題で連携を確認するためだという。これまで日本の総理が一度も訪れたことのない国に行くことで長期政権を維持する総理の余裕を見せたいところだろう。しかし年明けの政治の動きは安倍総理にとって決して好ましいものではない。
メディアは相変わらず「安倍一強」ともてはやすが、おそらく安倍総理が描いていたシナリオとは異なる展開が内外で急速に起きている。余裕の外遊を見せるどころではない。むしろ内憂外患を抱えた外遊に旅立ったと見た方が良い。
昨年の安倍総理はまず1月に就任したトランプ米国大統領に取り入ることに専念した。それに好都合だったのが米国を挑発し続けた北朝鮮の核・ミサイル開発である。北朝鮮は昨年だけで16回に及ぶミサイル発射実験と6度目となる核実験1回を行った。ミサイルは全米を射程圏内に収める能力を持つに至った。
これに対し武力行使も辞さない構えのトランプ大統領を積極的に支持し、また米国からの兵器購入に大盤振る舞いを見せることで安倍総理はトランプ大統領を喜ばせた。それによって世界で最も数多くトランプ大統領と会談を重ねる総理になることが出来た。
トランプ大統領との親密さを後ろ盾に安倍総理は、日中平和友好条約締結40周年を迎える今年の目標を中国との関係改善に置き、日中韓サミットや日中首脳同士の相互訪問を実現して北朝鮮問題のカギを握る中国との協力関係強化に乗り出す考えだった。
中国の習近平政権からも関係改善を求めるサインがあった。南京大虐殺から80周年の昨年12月に行われた追悼式典に習近平国家主席は出席したが演説を行わなかった。年末に自民・公明両党の幹事長が訪中し習国家主席と面会した時には中国共産党機関紙「人民日報」が一面に載せて関係改善に前向きな姿勢を見せた。
そして北朝鮮情勢は安倍政権の国内政治にもプラスに働くはずだった。安全保障環境が厳しさを増すほど憲法9条改正の環境も整うと見られるからである。実は2015年の解釈改憲によって既に自衛隊は憲法改正などしなくとも地球のどこでも米国の戦争に協力することが可能である。
従って米国に平和憲法を変えさせる考えはない。むしろ平和憲法を守らせて米国頼みにしておく方が都合が良い。日本国民に染みついた「9条守れ!」は米国にとって日本を従属させる「魔法の言葉」である。だから安倍総理は9条をそのままにし「自衛隊」を憲法に書き加えると言い出した。
「9条守れ!」の国民に迎合し形ばかりの改正でお茶を濁そうというわけだ。しかしそれでも9条改正となれば反発する国民はいる。それを言いくるめるには北朝鮮危機が目の前にあった方が良い。だからトランプ大統領の強硬路線は安倍総理にとって好都合だった。
北朝鮮と国境を接する中国とロシアはもちろん、西側の首脳が押しなべて武力衝突のリスクを排除し外交手段で解決すべきと主張する中、安倍総理だけが強硬路線を支持したのは形だけでも憲法改正を実現し歴史に名を残したい欲望の現れである。
昨年末まではそうした流れだった。ところが元日に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が年頭の辞で平昌オリンピック参加の意思を表明したところから流れに変化が生まれた。オリンピックを成功させたい韓国の文在寅政権は直ちにこれを歓迎し、9日に南北閣僚級会談が急きょ設定された。
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