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なぜレアルはクラシコでバルサに勝てたのか?アンチェロッティの“策略”と躍動したバルベルデ。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶバルベルデとベンゼマ(写真:ロイター/アフロ)

世界が止まる一戦が、行われた。

リーガエスパニョーラ第9節で、レアル・マドリーとバルセロナが対戦した。マドリーの本拠地サンティアゴ・ベルナベウで行われた試合は、3−1でマドリーが勝利している。

競り合うクンデとヴィニシウス
競り合うクンデとヴィニシウス写真:ロイター/アフロ

近年、マドリーとバルセロナは積極的に補強を敢行してきた。その意味で、欧州でも有数の2チームの激突だった。

マドリーはエデン・アザール(移籍金1億1500万ユーロ)、オウリエン・チュアメニ(8000万ユーロ)、エデル・ミリトン(5000万ユーロ)、フェルラン・メンディ(4800万ユーロ)、ヴィニシウス・ジュニオール(4500万ユーロ)、ロドリゴ・ゴエス(4500万ユーロ)らを獲得してきた。

一方、バルセロナはウスマン・デンベレ(1億500万ユーロ)、フレンキー・デ・ヨング(7500万ユーロ)、 フェラン・トーレス(5500万ユーロ)、ハフィーニャ(5500万ユーロ)、ジュール・クンデ(5000万ユーロ)、ロベルト・レヴァンドフスキ(4500万ユーロ)らを獲得。とりわけ、この夏の大型補強でチームを強化した。

だが両者は万全な状態でクラシコを迎えたわけではない。マドリーはGKティボ・クルトワを、バルセロナは最終ラインのロナウド・アラウホとアンドレアス・クリステンセンを欠いていた。

■シャビのプラン

バルセロナは【4−3−3】を基本布陣としている。昨季後半戦のクラシコ(アウェー/4−0)で大勝した際には、シャビ・エルナンデス監督がアラウホを右サイドバックで起用。快速のドリブラーであるヴィニシウスをストップするためだった。

今回のクラシコでは、セルジ・ロベルトが右サイドバックに入った。 右センターバックにクンデが据えられ、シャビ監督が語るようにカバーを行いながら相手のサイドアタックを止めようとした。

「何かを変える必要がある。昨シーズンは、アラウホがヴィニシウスをよく止めてくれた。このゲームでは、試合に出場した選手がうまくやらなければいけないだろう。しかし、カバーリングも必要で、よりチームとしての仕事になってくると思う。そして、私が気にしているのはヴィニシウスだけではない」というのが試合前シャビ監督の言葉だった。

■中盤の構成

対して、マドリーで重要だったのは中盤だ。

マドリーは今夏、カゼミロがマンチェスター・ユナイテッドに移籍した。その代役には、チュアメニが選ばれた。しかしながら、チュアメニとカゼミロでは、プレースタイルが異なる。

【4−3−3】のアンカーを務める、という意味ではカゼミロ以上の選手はいない。事実、クラシコ前の数試合でカルロ・アンチェロッティ監督はダブルボランチを試していた。

蓋を開けてみれば、マドリーは【4−3−3】でクラシコに臨んだ。だが実際にはモドリッチがバルセロナのアンカーであるセルヒオ・ブスケッツをマーク。守備時には【4−2−3−1】を形成した。

筆者作成
筆者作成

マドリーは「アンカー潰し」を行い、バルセロナに円滑にビルドアップさせないようにした。今季、クラシコ前までにリーガで唯一勝ち点を落としていた開幕節のラージョ・バジェカーノ戦では、この手法で完封されていた。それを踏襲する形だった。つまりマドリーには準備ができていた。

筆者作成
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筆者作成
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基本的にはモドリッチがブスケッツを見る。加えて、カリム・ベンゼマがプレスバックでアンカーを潰しにかかった。縦関係にある2選手が、ひとりの選手を挟み込む形でケアして、バルセロナのライフラインを絶った。

筆者作成
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また、マドリーはフェデリコ・バルベルデが効いていた。

右WGで起用されたバルベルデは、しかし、サイドに留まらなかった。中盤の3選手を助け、さらに自身が中央に寄ることで、大外のレーンを空ける。そこに右SBのダニ・カルバハルがオーバーラップしてきて、効果的にスペースを突いた。

筆者作成
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■バルセロナの交代策

バルセロナは後半、選手交代で試合を動かした。とりわけ、大きかったのはガビ(60分に出場)、アンス・ファティ(73分に出場)の投入だ。

ガビが入り、バルセロナのプレッシングは格段に良くなった。インテンシティが高くなり、トニ・クロース、チュアメニ、モドリッチから自由を奪えるようになった。ガビのように戦う姿勢が、試合を通じてバルセロナには欠けていた。

筆者作成
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また、ガビは「ポケット」をとれる選手だ。ガビのニアゾーンラン、つまりインサイドハーフがスペースに飛び出していくことで攻撃に変化をつけられる。ガビが出場するまで、バルセロナのボール回しは外循環が多かった。

ドリブルするモドリッチ
ドリブルするモドリッチ写真:ロイター/アフロ

そして、ファティだ。バルセロナの唯一のゴールを演出したのは、このカンテラーノだった。持ち前の突破力で左サイドを切り抜き、得点に絡んだ。

しかし、最後はマドリーがカウンターから途中出場のロドリゴがPKを奪取。それをロドリゴが自ら沈めて、ベルナベウのマドリディスタに歓喜を届けた。

PKを決めたロドリゴ
PKを決めたロドリゴ写真:ロイター/アフロ

「昨シーズン、私はクラシコで新しいことをやろうとした。今回は、選手たちを正しいポジションに置こうと思った。個人的には、モドリッチを称賛したい。バルセロナの中盤に対して、本当によくやってくれた」

「バルセロナに勝つためには、完璧な試合を演じなければいけなかった。我々はそれをやってのけた。早い時間に先制できたのは大きかった。そこからゲームをコントロールできた」

これは試合後のアンチェロッティ監督のコメントだ。

マドリーは勝ち点25で単独首位に立った。バルセロナが勝ち点22で2位につけ、マドリーを追走している。ただ、シーズンは長い。タイトルレースの行方は、まだ分からない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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