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新首相は日本経済を復活させられるのか?人口減少社会では財政出動によるバラマキは無意味

山田順作家、ジャーナリスト
経済財政政策はほとんど同じ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■候補者はみな大規模な財政出動を主張

 自民党総裁選挙の候補者4人の経済政策に共通していることがある。それは、4人が4人とも大規模な財政出動に賛同していることだ。財政出動をすれば日本経済は復活する。そう、4人とも信じているのだろう。

 9月23日、経済財政運営がテーマのオンライン討論会が行われたが、高市早苗氏が「なんとしても下支えする時期だ。相当、大胆な財政出動を考えている」と言うと、ほかの3人もほぼ同じ考えを披露した。

 河野太郎氏だけは異なるのではと思われたが、それでも「(需要と供給の差を示す)GDPギャップを埋める財政出動はやらなければ」と追加経済対策に意欲を示したのである。

 しかし、ここに大きな問題がある。財政出動というのは、政府支出を増やすこと、つまり政府がもっとおカネを使うということだから、その財源を示さなければ政策とは言えない。ところが、候補者4人とも財源についてはまったく触れなかった。

 驚いたのは、高市氏がプライマリーバランス(PB)の一時凍結を、ここでもまた言い出したことだ。これに、野田聖子氏も同調し、少子化対策への投資を理由に「PBを気にせずやらないと手遅れになる」と述べた。野田氏は、出馬前までは財政再建を主張していたが、出馬後はそれを封印してしまった。

■「国の借金は国民の財産」という夢物語

 大規模な財政出動、PB凍結に関しては、野党も同じである。立憲民主党の枝野幸男代表は、いち早く9月7日に、政権交代を実現した場合の7項目の政策を打ち出したが、そのメインは財政出動による生活支援金、給付金の支給だった。枝野氏は、とりあえず30兆円規模の追加予算を組むと明言した。

 不思議なことに、与党も野党も、議員たちの頭の中には、日本の財政が危機に瀕しているという認識が存在しないようだ。最近は「国の借金は国民の財産。いくら国債を発行してもいい」という、世界のどこの国でも聞いたことがない理論を言い出す議員までいる。

■財政危機を無視した国債の大量発行

 現在の日本は、国家予算の4割を国債に頼っている。国債は言い換えれば国の借用証である。つまり、国債を発行することは借金を増やすことである。ところが、感覚が麻痺してしまったのだろうか、毎年、国債の大量発行による赤字予算が組まれ、その結果、国と地方の長期債務残高は今年度末には1200兆円を超えようとしている。なんと、GDPの2.4倍である。

 立民の枝野代表は、9月27日、消費税を5%に下げたうえ、年収1000万円以下の世帯の所得税を1年間ゼロにするという考えを表明した。そうして、「分厚い中間層を取り戻し、明日の不安を小さくすることが大事だ」と訴えた。財政出動に加えて、大幅な減税までやるというのである。

 枝野氏はまた、「儲かっている超大企業や大金持ちに応分の負担をしていただく」と言い、大企業や富裕層に対する課税強化で格差是正を図ることを強調した。

■持つ者から富を奪うポピュリズム

 自民党総裁候補4人の政策も、野党の政策も、このようにほとんど同じである。ただし、財政出動とは言っているが、なにに使うかを検証してみると、その多くが単なる「バラマキ」である。生活困窮世帯に10万円を配る、子供手当を拡充するなど、国が国民におカネを配ることばかりだ。

 とすれば、それは誰かから奪ったおカネでほかの誰かを助けることに過ぎない。つまり、おカネで票を買うポピュリズムであり、そのおカネは自分のものではなく他人のおカネだから、政治的な詐欺である。

 高市氏は、これまで自身が尊敬しているという英国のサッチャー元首相の言葉「金持ちを貧乏にしても、貧乏人は金持ちにはならない」を何度も引用してきた。しかし、この言葉の意味を本当に理解しているのだろうか?

 持っている者から富を奪い、それを持たざる者に配っても、経済は成長しない。国は豊かにならない。分厚い中間層などできるわけがない。

■財政出動は必要だがバラマキは効果なし 

 財政出動は必要である。

 いまの日本が、「失われた30年」の後に「コロナ禍」に見舞われていることを思えば、国をあげてこの経済低迷から脱出を計らねばならない。財政出動はそのために、どうしても必要だ。

 しかし、どこにおカネを投入するかは、十分に吟味するべきだ。単に「分厚い中間層をつくる」などということのために、低所得層を援助しても、その効果は一時的なもので終わる。

 財政出動をするなら、それはバラマキであってはならない。経済を成長させ、企業活動から個人消費にいたるまで経済を活性化させるものでなければならない。いわゆる生産的な政府支出を拡大させ、研究・技術開発、人材育成などに予算を効率的に振り向けることが必要だ。昨年、鳴り物入りで行われたアベノマスク、GoTo トラベルのような政策は、単なるコロナ禍の救済バラマキで、あまりに非効率。税金の無駄遣いと言うほかない。

 もちろん、どんな使い道にせよ、財政出動をした年だけを見ればGDPは増える。しかし、それは単年度だけの話で、持続的な経済成長は起こらず、1人あたりの国民所得、給料はまったく増えなかった。

■毎年40〜50万人が減れば需要も減る

 最近、なぜかあまり議論されなくなったが、日本経済をデフレ地獄に落とした真犯人は、人口の減少である。日本が人口減少社会に転じたために、デフレ経済が定着してしまったのだ。

 日本の人口は、総務省が6月25日に発表した「2020年(令和2年)国勢調査人口速報集計結果」によると、1億2622万7000人。5年前の2015年と比べると、86万8000人も減少している。人口の減少は2009年をピークに12年連続している。ただし、これは在留外国人も含む人口なので、日本人人口に限ると、ピークは2005年調査の約1億2573万人となる。

 つまり、日本は2005年以降、人口減少社会に転じ、近年では年間40〜50万人の人口を失っている。

 これだけたくさんの人が毎年いなくなるのだから、需要が増えるわけがない。消費が落ち込み、それとともにモノ、サービスの値段が下がっていくのは、自然現象と言えるだろう。

 すでに、今後の人口予測に関して、多くの研究機関が発表している。それらによると、日本の人口減少は止まらず、2040年には1億1000万人を切り、2053年には1億人を割り込む。そうして、今世紀の終わりには6000万人を切ってしまうという。

■それでもリフレ派は積極財政を主張

 人口減少とともに深刻なのが、生産年齢人口の減少だ。日本の生産年齢人口の減少は、1995年に始まり、この年の全人口に対する割合が69.8%だったものが、2017年には60%を割り込むまでになった。このままいくと、2065年には51.4%となり、日本では2人に1人が働いていない状況が訪れる。

 生産年齢人口とは、簡単に言うと働き手の数。総人口が減り、働き手も減るのだから、需要が増えるわけがない。デフレ解消など夢物語である。しかも、高齢化がどんどん進んでいる。高齢化が進めば、1人当たりの消費額は減る。高齢者は、現役世代に比べておカネを使わない。

 それなのに、これまでの政権は、この問題に真剣に取り組まず、総需要を喚起すれば経済は回復するとして財政出動を繰り返してきた。

 金融緩和と財政出動による「積極財政」を主張するリフレ派と呼ばれる人々は、アベノミクスでは財政出動が少なかったと指摘している。そのため、次の政権はさらに大規模に財政出動をすべきだと主張している。

 じつは、総裁候補4人のなかで、この人口減少問題をもっとも真剣に捉えてきたのは、野田聖子氏である。主に少子化という視点から、「日本のいちばんの有事は人口減少」と、これまで何度も訴えてきた。

■人口減少社会では生産性の向上は難しい

 人口増によって労働力人口が増加して成長率が高まることを「人口ボーナス」と呼びんでいる。この反対の現象が「人口オーナス」だ。

 日本は、この人口オーナスに直面し、経済成長が止まり、ここ30年間、ずるずると低迷してきた。そして、コロナ禍で明らかになったように、デジタルを含め多くの面で先進国と言えないところまで転落してしまった。

 生産年齢人口が減っても、1人あたりの生産性を向上させればいいという意見がある。しかし、人口減少社会で生産性が向上したという例はほとんどない。ヒト、モノが減るのと同じように、アイデア、イノベーションも減るからだ。

 人口減少を止めなくとも、現状の人口が維持されれば、デフレ圧力は弱まる。また、人口構成が若返れば、イノベーションが生まれ、生産性の向上に結びつく。

 しかし、いまの日本は、人口減少と高齢化が進む一方になっている。

■いくらおカネを増やしてもモノは売れない

 たとえば、A社は、これまで毎月1000個自社製品を販売してきた。それに合わせて、生産能力を整え、ビジネスを行ってきた。しかし、この製品が以前より売れなくなり、毎月の販売量が900個に落ち込んでしまった。それで、A社では生産コスト、販売経費などを切り詰め、製品の価格を下げた。これが、デフレである。

 政府はこのデフレを解消するためには需要を喚起するほかないと、財政出動し、企業に補助金を出したり、消費者におカネを渡したりすることを始めた。たしかに、そうすれば、一時的に販売は回復する。

 しかし、1000個売れていた製品が900個になったのが、人口減少、つまり消費者が減ったことにあるとしたら、この財政出動はデフレの解消にはならない。900個しか売れなくなったのは、買い求める人が900人に減ったからであって、買うおカネがなくなったからではないからだ。

 需要を喚起させるための財政出動は、人口が増えている社会だから有効なのであって、人口減少社会では効果はたかが知れている。しかも、持続性がない。

■移民受け入れるにせよ、日本には時間がない

 日本で人口減少が最初に警告されたのは、1970年代に急激な出生率の低下に見舞われたときである。それが、1990年に1.57となると、「1.57ショック」と言われ、以来、政府は少子化対策を進めてきた。

 しかし、今日まで成果はまったく上がっていない。もはや、日本人のなかで人口を増やすことを諦め、次善の策として、欧州諸国がやったように移民によって人口を維持するほかないように思える。

 ところが、政府は移民を増やすことには二の足を踏み続け、国民もいまだに移民を厄介者扱いにしている。

 今回の総裁候補のなかにも、また野党においても、移民受け入れに積極的な人はいない。安倍前政権は受け入れ反対だったから、そう簡単には転換はできないだろう。

 しかし、移民を受け入れるにしても、もう日本には時間がない。30年以上も経済衰退を続け、一生懸命働いても給料が上がらない国に来ようとする移民は、今後、どんどん少なくなるからだ。

■人口減少をどう解消するかの政策論争を

 現在、言われているのは、10月4日に臨時国会で首相の指名投票が行われて新首相が誕生すること。そしてその後、新内閣が発足し、すぐに解散。総選挙は「10月26日告示、11月7日投開票」あるいは「11月2日告示、11月14日投開票」ということ。

 こうしたなかで、はたしてどれだけ政策論争が行われるだろうか。財政出動によって、国民におカネを配る。そんな単縦なポピュリズム選挙をやっていたら、日本経済はますます衰退するだけになる。

 日本の将来を思うなら、人口減少をどう解消するのか、この1点に絞って、政治家はあらゆる知恵をしぼって、国民に政策を示すべきだろう。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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