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トランプ大統領とNATOー欧州連合の自立のせめぎ合い (3)EUが軍事・防衛の行動計画で大幅に進展

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
ブリュッセルで開かれたNATO首脳会議 (2017年5月25日)(写真:ロイター/アフロ)

シリーズの3本目である。

日本とヨーロッパは、驚くほど似ている所がある。

戦後ずっとアメリカに頼ってきた。市民は平和をこそ望んだ。

しかし冷戦が崩壊して、その後の時代をどう生きるか。特にアメリカとの関係をどうするか。

さまざまな意見があって、揺れている。

日本とヨーロッパの最大の違いは、欧州大陸には欧州連合(EU)があり、主権さえ一部移譲している集団組織があることだ。対して日本は、中国・朝鮮半島・ロシアなどに囲まれて大変孤独であり、ひたすらアメリカを頼っている。

ここにドナルド・トランプという、誰も当選を予測しなかった人物がアメリカの大統領になった。

今を語るには、まずここを出発点としなければならない。

現在につながるEUの「揺れ」をよく描いている記事をみつけたので、以下に翻訳して紹介する。

トランプ大統領当選のすぐ後の、AFPの記事である。約1年半前の2016年11月15日の記事なので、この時からはかなり今は状況が変わっているが、欧州の雰囲気や不協和音、思惑がよく伝わる記事である。

トランプの当選、そのとき欧州は

11月8日、ドナルド・トランプが大統領選に勝利したことは、アメリカ人は欧州の軍事的保護から離脱してしまうのではないかと一部の人を恐れさせた。これとほぼ時を同じくして、欧州連合(EU)は11月15日、防衛を強化するためのロードマップを採択した。

(訳注:欧州の「安全保障と防衛に関する実施計画」のこと。欧州の「防衛パッケージ」のうちの一つ )

ホワイトハウスのポピュリスト候補者の驚きの勝利と、欧州の防衛のための「大きな前進」「この重要な一日」がほぼ同時であったのは、ほんの偶然であるーーそのように思った人は、EUの会合に集まっていた28加盟国の外務大臣と防衛大臣の中には複数いる。

6月23日、英国が国民投票でブレグジットを決めた後、欧州防衛の将来については、すでに議題に取り上げられていたのだ。

「アメリカの大統領がどうであろうと、欧州の戦略的な自主性は不可欠だ。(中略)私たちがそれをできるとしても、3日でできることではない」と、ジャン=イヴ・ル・ドリアン仏国防大臣は述べた(当時。現在は外務大臣)。

NATOと欧州、自立のせめぎ合い

にもかかわらず、欧州のある外交官の解読によると、欧州の防衛について「アメリカ人の離脱がありうるという重要な文脈において(中略)意義深い進歩に満ちたこの良いテキスト(「安全保障と防衛に関する実施計画」)が必要であったという。

ドナルド・トランプ氏は、選挙キャンペーン中、アメリカだけで軍事支出の3分の2を占めるNATO(北大西洋条約機構)へのコミットメントについて、「アメリカが継続の条件を設定できる」と述べた。

この発言は、ヨーロッパ、特にロシアの近隣諸国の間で、ある種の感情をかきたてた。ウクライナ紛争以来、さらにロシアの脅威を感じていた国々である。大西洋同盟は、加盟国のうちの1カ国が侵略をされた場合には、連帯の義務を無視しないことは、何度も確認されている(合計28カ国加盟のうち、22カ国がEU加盟国)。

具体的には「安全保障と防衛に関する実施計画」についての欧州の合意は、「恒久的な」機構の目的について言及している(訳注:PESCOのこと)。EUの軍事と民生のオペレーションを、よりよく計画して実施するためである。現在は、6つの司令センターに17のオペレーションがある。

モゲリーニ上級代表は、9月にブリュッセルに「ただ一つの司令本部」を創設する希望を表明した。彼女は2017年前半には適用できるよう、可能な限り早く加盟国に提案を行う担当である。

アメリカを外したいのに外せない、アメリカを頼りたいのに頼れない?

しかし、NATOとの重複は避けなければならないと、EU加盟国の閣僚たちは警告している。

9月以来、パリとベルリンを頂点とし、次にローマとマドリッド、そしてプラハ(チェコ共和国外相はフランスの外相ジャン=マルク・エロー(当時)と共同署名した)は、EUの能力面での「欠点」を訴えている。軍事行動のキャパシティとミッションのコストの共有が不十分であるというのだ。

前述の欧州の外交官によると「この加盟国の要求は、今後、満たすのに良い理由となる」という。28カ国の合意によって「具体的な解決方法が実施される。命令・指揮の構造をつくるとか、もっと簡単にオペレーションの配備をもっとたやすく予算をつけて行うとか(中略)防衛のすべての面を思い起こさせる完全にグローバルなものだ」と言う。

モゲリーニ上級代表は「私たちは使っていない方法がたくさんありますし、安全保障のポリシーを強化する必要があります。これは市民が私たちに求めていることなんです」と訴えた。

ただし、28加盟国は、より効率的な防衛の方法をめぐって意見が割れたままである。大西洋主義(=アメリカとの同盟を重んじる主義)の加盟国からは歯ぎしりが聞こえてくる。

ブレグジットとNATO

「高くつく新しい司令本部を考えたり、ヨーロッパの軍隊の夢を見たりするかわりに、ヨーロッパが今しなければならないことは、まず自国の防衛に多くを費やすことだ」と、英国の国防大臣マイケル・ファロンは言う(当時。その後セクハラで辞任:訳注)。「これはトランプの選挙に対する最良のアプローチだ」。

英国は、NATOが望む軍事費のレベルを尊重すると強調した。つまり、GDPの最低2%ということだ(訳注:最低2%はトランプ氏の主張)。他の4カ国ーアメリカ、ギリシャ、ポーランド、エストニアと同じように。「もし他の国がもうちょっと軍事費を使いたいというのなら、反対しないがね」」とボリス・ジョンソンは皮肉った

ドナルド・トランプのキャンペーン中の発言に対し、ある英国外交官は「偏見」に対して警告した。将来のアメリカ大統領は「私たちが議論することができる人」であると言うのだが、この点で、トランプはブレグジット聖歌隊の指揮者というべきだろう。(記事翻訳終わり。見出しは筆者)

※このシリーズは完結していて、続編とも言えるもう一つのシリーズも完結しています。

EUが軍事・防衛の行動計画で大幅に進展(1)ーー軍事モビリティ計画とPESCOのロードマップ

5000億ユーロの「コアネットワーク回廊計画」が軍事にー(2)EUが軍事・防衛の行動計画で大幅に進展

EU(欧州連合)「防衛同盟」への道:防衛パッケージ計画の背景(4)EUが軍事の行動計画で大幅に進展

◎もう一つのシリーズ

前編:「欧」と「米」は分離してゆくのか :欧州独自の軍事路線「欧州介入イニシアチブ」にトランプの反応は

中編:「欧」と「米」は分離してゆくのか :欧州の問題。将来EU軍で自立したいのかとPESCOを巡る議論

後編1:「ヨーロッパ人は米軍に守られるのに慣れてしまった」在欧米軍の戦略:欧と米は分離してゆくのか

後編2:フランスは空を、ドイツは陸を牽引:パルリ仏国防相インタビュー紹介:欧と米は分離してゆくのか

◎PESCOの初出。2017年末と2018年初めの記事

参照記事:EU(欧州連合)&ヨーロッパ観察者が見る2017年のニュース・トップ3ー2018年への道(1位を参照)

参照記事:2018年、EU(欧州連合)27カ国はヨーロッパの近未来を決める年となる。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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