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緩やかなカフェのような雰囲気が心地よいフランチャイズ店「伊藤松吉商店高円寺店」

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
「伊藤松吉商店高円寺店」オリジナルの「鶏チャーシューそば」(筆者撮影)

 高円寺界隈には「桂」という渋い立ち食いそば屋があったが、2018年10月の台風被害で閉店してしまった。現在は北口駅前にある「名代富士そば」、環七沿いにある「江戸丸」、そしてもう一軒新高円寺寄りの高円寺南にある「伊藤松吉商店高円寺店」が営業を続けている。今回は「伊藤松吉商店高円寺店」を紹介しようと思う。

伊藤松吉商店高円寺店は新高円寺駅から5分

 場所は東京メトロ丸ノ内線新高円寺駅を出て、青梅街道から高南通りをJR高円寺駅方向へ進んだ右手。新高円寺駅から5分、高円寺駅から7-8分の立地である。

 11月初旬、初訪問してみることにした。店の外観はガラス張りで一見カフェのような作りである。店内は入って左にカウンターがあるゆったりとした構造である。

東京メトロ丸ノ内線新高円寺駅(筆者撮影)
東京メトロ丸ノ内線新高円寺駅(筆者撮影)

青梅街道から高南通りへ(筆者撮影)
青梅街道から高南通りへ(筆者撮影)

高南通りをしばらくいくと右手に(筆者撮影)
高南通りをしばらくいくと右手に(筆者撮影)

マンションの1階に広い店が現れる(筆者撮影)
マンションの1階に広い店が現れる(筆者撮影)

店内は横に広く入って左がカウンター(筆者撮影)
店内は横に広く入って左がカウンター(筆者撮影)

高円寺店はフランチャイズ(暖簾分け)方式で開業

 入店すると店主の岡野勤さん(55歳)が笑顔で迎えてくれた。創業は2017年とまだ新しい店である。岡野さんは2014年創業の中落合にある「伊藤松吉商店」で修業し、運営会社「レブロン株式会社」の支援を借りてフランチャイズ(暖簾分け)方式で開業したという。

岡野勤店主は55 歳でナイスキャラクターの持ち主である(筆者撮影)
岡野勤店主は55 歳でナイスキャラクターの持ち主である(筆者撮影)

「茹麺」「関東風の濃いめのつゆ」「揚げ置き天ぷら」

 ゆで太郎のような今どきの「生麺茹で立て」のフランチャイズ展開をしている店と異なり、「伊藤松吉商店」は「茹麺」「関東風の濃いめのつゆ」「揚げ置き天ぷら」という、昭和時代を彷彿とさせる立ち食いそばを提供している。「朝は車で移動中の職人さんなどが来てくれて、速攻でちゃっちゃと食べて出かけていくので、早く提供する必要があり、茹麺を使っている」と岡野店主はいう。

天ぷらは自家製で種類も豊富でしかもワンコイン以内

 カウンター上のガラスケースには自家製天ぷらが並ぶ。頃合いを見て追加で揚げて補充している。ねぎは各自自由に入れるスタイル。中野駅前北口にある「かさい」のように生しょうがもカウンターに並ぶ。

春菊天やかき揚げが並ぶ(筆者撮影)
春菊天やかき揚げが並ぶ(筆者撮影)

紅生姜天やごぼう天も並ぶ(筆者撮影)
紅生姜天やごぼう天も並ぶ(筆者撮影)

生しょうがもそろっている(筆者撮影)
生しょうがもそろっている(筆者撮影)

 メニューをみると「かき揚げそば」「春菊天そば」「紅生姜天そば」は420円と、昨今の値上げラッシュの中でもワンコイン以内。麺が半分の「ミニ」(260円)と良心的なメニューもある。

すごく豊富なメニュー(筆者撮影)
すごく豊富なメニュー(筆者撮影)

セットメニューやサイドメニューが豊富

 しかもセットメニューやサイドメニューがお得で充実している。「かき揚げそば」420円で「かき揚げ丼セット」570円。「カレーそば」520円で「カレー丼セット」570円とセットがすごくお得な設定である。「スパムにぎり」は朝9時には売り切れる人気サイドメニューだとか。

セットメニューやサイドメニューがお得で充実(筆者撮影)
セットメニューやサイドメニューがお得で充実(筆者撮影)

フランチャイズでも独自メニューの開発もOK

 中には1日5食限定の「鶏チャーシュー蕎麦・うどん」(470円)や「なす・豚しゃぶポン酢そば・うどん」(520円)などの高円寺店オリジナルのメニューも並ぶ。

 岡野店主に聞くと「フランチャイズでもメニューに縛りがあるわけではなく、そのあたりは自由にできるのでありがたい」とのこと。もちろん基幹品の仕入れは共同だが、昨今の物価高で野菜などの仕入れについては独自裁量で行えるという。

高円寺店オリジナルのメニューも並ぶ(筆者撮影)
高円寺店オリジナルのメニューも並ぶ(筆者撮影)

緑色の鮮やかな「春菊天そば」を注文してみた

 人気メニューは「かき揚げそば」、「げそ天そば」、「春菊天そば」、「肉そば」だとか。そこでさっそく「春菊天そば」を注文してみた。岡野店主は手際よく麺を湯通しして、大きめのどんぶりに移し、つゆをかけて春菊天とわかめをのせて流れるように完成させた。

 まずつゆをひとくち。いわゆる関東のつゆである。濃すぎることはないが返しも出汁も十分に主張している。そばは大手製麺の茹麺だがコシもあり量も多い。そして春菊天はかりっと歯ごたえも香りもよく、つゆ・天ぷら・そばのバランスがよい一杯である。

緑色のあざやかな春菊天(筆者撮影)
緑色のあざやかな春菊天(筆者撮影)

若い世代に人気の「肉うどん」は肉がたくさん

 また2日後に再訪し、若い世代に人気だという「肉うどん」(470円)を注文してみた。すぐに登場したそのどんぶりの中身をみると、豚バラ肉がずいぶん多いという印象だ。カウンターにある生しょうがを少し落として絡めながら食べてみた。豚バラ肉はよく返しつゆで煮込まれており十分なうまみが感じられる。うどんとつゆとの一体感が素晴らしい。薬味の生しょうがが、いいアクセントになっている。

豚バラ肉がずいぶん多い「肉うどん」(筆者撮影)
豚バラ肉がずいぶん多い「肉うどん」(筆者撮影)

店の緩やかな雰囲気が心地よい

 食べながらカウンターから外をみると、高南通りの並木道が見渡せる。そんなカフェのような雰囲気で、飄々とした岡野店主と世間話をしながらそばを手繰るのが、なんだかすごく心地よい。最後に岡野店主から挨拶をいただいた。

「伊藤松吉商店高円寺店をいつも御贔屓にしていただきありがとうございます。朝から忙しいお客様にも早く安く旨いそばを提供できるように頑張っております。パンチの利いたつゆとおいしい天ぷら、オリジナルメニューやセットメニューもたくさんそろえております。是非お越しください」

 「伊藤松吉商店高円寺店」オリジナルの「鶏チャーシューそば」はでかい鶏ムネが5切れも入った食べ応え十分な一品だった。

 今度は是非とも「伊藤松吉商店」人気のかき揚げ、豚肉、生たまごがのった「松吉そば」を食べに来ようと思う。

オリジナルの「鶏チャーシューそば」はボリュームのある一品(筆者撮影)
オリジナルの「鶏チャーシューそば」はボリュームのある一品(筆者撮影)

「伊藤松吉商店高円寺店」

住所  東京都杉並区高円寺南2-14-2

営業時間 月火、木~日 6:00~15:30

定休日  水

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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