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有楽町の帝劇地下2階の「都そば」が10月末で終幕

坂崎仁紀大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト
有楽町の帝劇ビル地下2階にある「都そば」(筆者撮影)

帝劇ビルの建て替えにともない閉店に

 有楽町の帝劇ビルの地下2階にある立ち食いそば屋「都そば」が2024年10月末をもって閉店する。帝劇ビルは隣の国際ビルとともに建て直しが計画されており、帝劇も2025年には一旦終了となるとか。その一環として、地下街にある飲食店はすべて閉店となる予定だという。

 有楽町を利用する立ち食いそばファンにとって、最近は受難の時代となっていた。駅東口やガード下にあった「後楽そば」は2016年5月、北口すぐにあった「新角」は2017年6月に閉店と人気店が相次ぎ姿を消した。最後の砦が帝劇の「都そば」だったというわけである。

2025年閉館となる帝劇ビル(筆者撮影)
2025年閉館となる帝劇ビル(筆者撮影)

「都そば」発展の歴史:関東から関西へ

 「都そば」は少し変わった歴史を持つ。昭和37年頃、有楽町の日劇ホール(今の有楽町マリオン)があった所のすぐ横で創業した。

 その後、駅そばが大人気となり、私鉄電鉄駅内のそば店として店舗を増やしていった。京成線以外では、東急線では武蔵小杉・自由が丘の「田園」や自由が丘の「めん亭四季」として営業。京王線では「陣馬そば」として営業していた。

 駅以外でも日本橋や神田、秋葉原など都内を中心に系列店を出店し、多い時には35店舗位あったそうだ。

 一方、昭和42年に「都そば」は東京から大阪に進出し大成功を収めた。しかも駅そばではなく街中の立ち食い店として人気を博し、今でも40店舗ほどが元気に営業中である。

帝劇ビル地下2階(筆者撮影)
帝劇ビル地下2階(筆者撮影)

関東エリア最後の店が「帝劇店」

 現在、関東の「都そば」は悲しい状況となっている。最盛期から徐々に店舗を減らしていった。最近では京成勝田台駅店は2023年6月に、京成高砂店は2024年3月に閉店し、関東エリアに残る店は帝劇店だけとなっていた。そして、2024年10月末には関東エリアで「都そば」は消滅することになる。

いつもの「都そば」(筆者撮影)
いつもの「都そば」(筆者撮影)

「都そば帝劇店」にさっそく訪問してみると…

 さて、お世話になってきた「都そば帝劇店」に2024年10月17日、午前9時半過ぎに訪問してみた。いつもと変わらない帝劇ビルに入り、いつもと変わらない店の外観だ。ただ、閉店のお知らせが貼ってある以外はいつもの日常的雰囲気。

 入店するとすぐに湯気の向こうにいる大姐さんと茶瓶姐さんから元気な「いらっしゃーい」の挨拶が飛んできた。

 2人が揚げたかき揚げ天、春菊天、ごぼう天、いか天、えび天、コロッケなど自家製の天種がショーケースに並ぶ。つゆは関西風と関東風を選ぶことができる。

閉店のお知らせ(筆者撮影)
閉店のお知らせ(筆者撮影)

カウンターには稲荷すしやおにぎり(筆者撮影)
カウンターには稲荷すしやおにぎり(筆者撮影)

メニュー(筆者撮影)
メニュー(筆者撮影)

いか天、えび天、コロッケ(筆者撮影)
いか天、えび天、コロッケ(筆者撮影)

かき揚げ天(筆者撮影)
かき揚げ天(筆者撮影)

手のひら型の春菊天(筆者撮影)
手のひら型の春菊天(筆者撮影)

かき揚げ天そばに春菊天を追加し関西つゆで、稲荷すしも追加注文

 今日はかき揚げ天そばに春菊天を追加し関西つゆで、稲荷すしも追加で注文した。すぐに完成となりカウンターに運んで七味をかける。関西風つゆは関西出身の茶瓶姐さんの作だけあって、出汁がじんわりと利いた透き通ったつゆでなかなかうまい。春菊天は枝ごと揚げる「手のひら型」のタイプ。かき揚げ天は玉ねぎがおどるような躍動感あるタイプ。稲荷すしはしみしみのお揚げが厚めでうまい。

かき揚げ天そばに春菊追加と稲荷すし(筆者撮影)
かき揚げ天そばに春菊追加と稲荷すし(筆者撮影)

関西風のつゆがうまい(筆者撮影)
関西風のつゆがうまい(筆者撮影)

粋な挨拶に昔の記憶がよみがえる

 食べ終わって食器を返却口に持っていくと、大姐さんからこんな素敵な泣ける言葉をいただいた。大姐さんは自由が丘の「田園」の時からお世話になっている。

「どう?うまかった?この味を記憶にとどめておいてね。ありがとうね」

この店を記憶にとどめる(筆者撮影)
この店を記憶にとどめる(筆者撮影)

 店を出て地上に戻れば、今日も新しい人気の舞台が帝劇で上演されている。つい最近では「千と千尋の神隠し」が上演され大勢の観客でごった返していた。

 「都そば帝劇店」は10月末で終幕となる。自分の記憶に残っている帝劇ビルも、そして駅前の有楽町ビルも新有楽町ビルも建て替えでその姿を消していく。若い時から老年になるまで付き合ってくれた「都そば」には感謝しかない。私にとっては「千と千尋の都そば」だと思う。建て替え後に戻ってきてくれることは期待しないことにした。大姐さんと茶瓶姐さん、渡辺社長もお元気で。ロンググッドバイ「都そば」。

今日も素敵な上演が(筆者撮影)
今日も素敵な上演が(筆者撮影)

都そば帝劇ビル店

住所 東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル B2F

営業時間 7:30~14:30

定休日 土日祝   

大衆そば研究家・出版執筆編集人・コラムニスト

1959年生。東京理科大学薬学部卒。中学の頃から立ち食いそばに目覚める。広告代理店時代や独立後も各地の大衆そばを実食。その誕生の歴史に興味を持ち調べるようになる。すると蕎麦製法の伝来や産業としての麺文化の発達、明治以降の対国家戦略の中で翻弄される蕎麦粉や小麦粉の動向など、大衆に寄り添う麺文化を知ることになる。現在は立ち食いそばを含む広義の大衆そばの記憶や文化を追う。また派生した麺文化についても鋭意研究中。著作「ちょっとそばでも」(廣済堂出版、2013)、「うまい!大衆そばの本」(スタンダーズ出版、2018)。「文春オンライン」連載中。心に残る大衆そばの味を記していきたい。

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