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女優・白石聖の透徹した魅力 2021年ブレイク期待女優の底には「魔性」が見える

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Paylessimages/イメージマート)

眺めていたい女優・白石聖の魔性の根源

白石聖はずっと眺めていたい。

そういう女優である。

白石聖主演の配信ドラマが地上波の深夜にも放送されていた。

『時をかけるバンド』。

白石聖は女性三人バンドのボーカル&ギター役である。

バンドじたいが時をかけているわけではなく、未来から三浦翔平がやってきてバンドをプロデュースする。

残りのバンドメンバー役は大原優乃と長井短で、それぞれ引っ込み思案な性格と、マイナス思考のキャラなので、白石聖が前に出ていく役どころだ。

白石聖は、前に出るときと、後ろに下がっているときで、気配が変わる。

彼女の魅力はそこにある。

前に出ると細く見える。

引いて佇んでいると少し丸っこさが出てくる。

このふたつの表情に引き込まれていく。

比喩的に言うなら、前にでるときは、人と人とのあいだをすりぬけていこうとしていて、後ろに下がっているときはすべてを受け入れているように見える。

“男子”が惹かれていく要素がたっぷりである。

ドラマ『I“s』で見せた圧倒的な魅力

2018年のスカパーでのドラマ『I“s』(アイズ)はまさにそういう役どころだった。

主人公の男子高校生(岡山天音)が想いを寄せる美少女の同級生役である。

教室のこっち側から、ただ美しいと見つめる対象である。

いろんな所作をこちらからただ見てるだけのとき、彼女は常にいろんなものを受け入れてくれそうに見える。男子高校生はそういう妄想をする。

そしてドラマは、いくつかのアクシデントを経て、実際にそういうふうに動きだす。イケメンでもモテ男でもない主人公になぜか「鑑賞の対象だった美少女」のほうから近づいてきて、二人は仲良くなっていく。

そういう妄想をリアルにしたドラマで、彼女は圧倒的な魅力を発揮していた。

「見つめられる存在」としての白石聖が放つ力は、いろんなものを薙ぎ倒していくような力を持っている。

『だから私は推しました』で見せた透徹した存在感の地下アイドル

2019年のNHKのよるドラ『だから私は推しました』でもそうだった。

これはなかなかスリリングなドラマだった。

ふつうのOL(桜井ユキ)が地下アイドルにはまっていく姿を追って、見てる者もまた何かに引きずり込まれる感覚になっていった。とても優れたドラマだったとおもう。

何といっても「メヂカラ女優」の桜井ユキの印象が残るが、彼女が追いかける地下アイドルを演じていたのが白石聖だった。彼女の無垢そうな佇まいが印象深い。もちろん地下アイドルだから内部にはいろんな闇を抱えている。

白石聖が演じたのは、「地下アイドルのなかでも人気がない女の子の役」だった。透き通るような存在だったが、地下アイドルじたいにはさほどのファンがおらず、そのなかでも人気がないとなると、応援しているのはほんの数人になる。

限定的なファンはおたがいに顔見知りになり、情報交換しあう。

そういうマニアックなファン同士の交流と反目を描いたドラマでもあった。

象徴的偶像そのものと化す白石聖

ここでの白石聖の役割は、まさにアイコン(象徴的偶像)そのものだった。

「推し」ている人たちの心情がリアルに描かれ、「推される対象」としての彼女は、そのステージ上(およびライブ通信)で、ただの「消費対象」として存在するばかりである。

そういう「見られるだけの役」というのは、白石聖にうってつけなのだ。

彼女の役は引っ込み思案で、人見知りが強く、歌がヘタで、踊りもみんなと合わなくて(よく一人ずれていた)、でもアイドルになりたいという想いだけは強いというもので、かなり内側に闇を抱えている。でも一見無垢そうに見えるという存在でもある。

内面に少し触れると、強く突き刺さってくる部分がある。

まあ、白石聖本人が「圧倒的な美少女としてのビジュアル」を持っているのに地下アイドルとして人気ないというのはちょっと無理めな設定だったんだけど、「引いた存在」として、白石聖の魅力がたっぷり詰まっていたとおもう。

主演ではないが、白石聖がとにかく印象的なドラマであった。

『恐怖新聞』では恐怖におののく女子大生役

2020年夏にはドラマ『恐怖新聞』で主演した。

つのだじろうの昭和の名作漫画を実写化したドラマで、深夜ドラマらしい不思議世界を展開していた。

白石聖が演じるのは「恐怖新聞」が届いてしまう女子大生役。少し先に事故で死ぬ人の情報が載った新聞が届けられる。

日常生活に魔が忍び込む恐怖を描き、ふつうの生活が禍々しく変わっていくシーンが続く。

主人公が常に驚いているシーンが印象に残る。

いままでの「ずっと眺めていたい白石聖」とは違った姿を見せていた。

第5話では何の説明もなく、いきなり徳川時代の商家での話が展開され、みんな時代劇姿で登場してきて意味がわからなかった。白石聖は「お告げ」をきくことのできる妖しげな女性で、着物姿の白石聖には妖艶さが滲みでる。彼女の魔性が垣間見えてくる。

ただドラマの作りじたいが「ちょっと時代劇をやってみたかった」という製作側の含み笑いのようなおかしみが拭えず、どう対峙していいのかわからないまま見ているうちに、その回の最後にふっと現代に戻っていた。(前世を体験したという設定だった)。

『恐怖新聞』の白石聖は、受身ではあるが、でもかなり「動く」女性だった。

恐怖から逃げようとしている女性だが、『だから私は推しました』の地味なアイドルとはビジュアルが対照的だった。

これが、あの地下アイドルやってた白石聖なのか、と最初は像が結びにくかったくらいである。

この振れ幅が、白石聖の魅力である。

そしてひょっとしたら、ブレイクスルーしにくいポイントなのかもしれない。

「見つめられる存在」の進化を見せた『あのコの夢を見たんです』

2020年秋、テレビ東京のドラマ25『あのコの夢を見たんです』では第8話のヒロインとして登場した。

これは美少女路線からまっすぐ先にある「清楚で美人で仕事のできる女性の上司」役だった。

これも「妄想型」のドラマであり、というか「妄想そのものを具現化したドラマ」という珍しい作品だった。「見つめられる存在」として、しかも大人の役となると、凄まじさが混じってくるように感じて、強く心に残った。

高校生や大学生役が多かった彼女が、企業の一線で働く幹部女性を演じていたところが新鮮で、ひたすらぼんやりと見つめてしまった。

大人になると、孤高さが際立ってくる。

それを見ているだけで、高潔な気分になっていく。

まこと勝手な心理ではあるが、でもそうなってしまう。不思議な感覚である。

だから「ある立場が守れなくなりそうな瞬間」を演じると、白石聖の魅力はより強く輝きだすように感じる。

つまりもともと孤高だから、そこから抜けるだけで、ドキドキするのだ。

『あのコの夢を見たんです』8話は、白石聖の魅力を十全に理解し、そこを広く見せてくれたドラマだった。

やがて「魔性の女」となるはずの白石聖

彼女は、心に決めたことが表情に現れたとき、とても強く見える。

その表情がつづくと、でもそこから切なさが漂ってくる。

切なそうで、でも何か包みこんでいく気配は、彼女が動き出すと、うしろに下がる。

強さと切なさは同じ底から出ている。

この両面はいわば「魔性の女」と呼ばれる要素そのものである。

ただ、彼女の魔性は、まだ発動されていない。そう見える。

その前段階の少し混沌とした不思議な魅力を見せている段階である。

魔性に火がつけば、燎原に広がるごとく一気に多くの心をつかんでいくのではないだろうか。

ブレイクが待ち遠しい女優である。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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