小学生の通学時における交通事故の予防〜通学路の「旗当番」について考える〜
数日前、ある新聞社からNPO法人 Safe Kids Japanに、下記のような問い合わせがあった。
小学生の通学路の見守り活動をする間の、兄弟児(主に未就学児)の安全性について取材を進めています。地域によって、未就学児の帯同が許可されている場合、されていない場合があるようです。いずれの場合も、保護者が子どもの安全を危惧しています。
このため、
・未就学児にひとりで留守番をさせる危険性
・交差点付近で、未就学児を連れた保護者が見守り活動をすることの危険性
・見守り活動の必要性の有無
について、お話を聞かせてください。
この見守り活動(以下、旗当番)にどう取り組んだらいいのだろうか。Safe Kids Japanでは、この問い合わせに対し、下記のように回答した。
通常、事故による子どもの傷害予防について考えるときは、3つのアプローチで検討を行います。
それは、
1 製品や環境の改善(Environment)
2 法律や規則(Enforcement)
3 教育や啓発(Education)
の3つで、それぞれの頭文字をとって「3E」と言われています。
この「旗当番に未就学児を帯同するか否か」という問題を「3つのE」で考えてみます。
1 製品や環境の改善(Environment)
・信号を歩車分離にして児童の安全な横断環境を確保する
・横断歩道付近にイメージハンプを設置し、自動車がブレーキを踏まざるを得ない状況を作る
※参考「いくつ見たことある?立体に見える路面標示『イメージハンプ』」(GAZOOのウェブサイト)
・道路をジグザグ状にし、自動車のスピードダウンを図る
2 法律や規則(Enforcement)
・当該エリアを「ゾーン30」に指定する
※参考「ゾーン30とは?」(警視庁のウェブサイト)
・当該エリアを通学時間帯に限って進入禁止にする
・旗当番実施者を児童の保護者ではなく、地域のシニア層など「未就学児のケアに日常的に関わる必要のない人」に変える
・未就学児、介護の必要な人、障がいがある人などをケアする必要がある場合は、旗当番を免除する
3 教育や啓発(Education)
・当該エリアを通行する車両に啓発用のリーフレットを配布する
・児童への交通安全教育を徹底する
などが考えられると思います。
今回の問い合わせに対し、具体的な課題(下記)に照らし合わせてお答えいたします。
◆未就学児にひとりで留守番をさせる危険性
疫学的なデータはありませんが、過去の報道などを調べていただきますと、保護者が少しのあいだ家を空けたすきにベランダから転落して死亡、ひとりになった子どもがライターで遊んでいてカーテンに火が燃え移り子どもが焼死、といったケースを見つけることができると思います。未就学児をひとりで家におくことは避けなければなりません。
日本では、未就学児が「お留守番ができる」「ひとりでお使いに行ける」ことを評価する傾向がありますが、多くの先進国では、これらは虐待(ネグレクト)と見なされます。国や州によって異なりますが、事故や犯罪から子どもを守るため、少なくとも8歳頃まで、厳しいところでは14歳頃まで、24時間保護者または保育者の監視下におかなければならないという法律があります。
◆交差点付近で、未就学児を連れた保護者が旗当番をすることの危険性
こちらも疫学的なデータはありませんが、帯同した未就学児が、交差点の周囲で走り回る、転ぶ、車道に飛び出す・・・といった行動をとることは火を見るより明らかで、きわめて危険です。帯同は禁止する必要があります。
◆旗当番の必要性の有無
上記の「3E」の「1」と「2」を実施することで、旗当番の活動そのものを廃止していくことが望ましいと考えます。しかし、「1」「2」のうち、予算のかかる案や、関係機関との調整といったハードルがあるものは今すぐに実施することは困難ですから、比較的簡単に実施できる「2」の中の「見守り活動を地域のシニア層などにお願いする」「未就学児や高齢者をケアする必要のある人は免除とする」といった対応をされてはいかがでしょうか。
ちなみに「3」はほとんど効果がないと思われます。
まとめ
子どもの事故死の3〜4割を交通事故が占めており、交通事故の予防は最優先で取り組む課題である。ITARDA(交通事故総合分析センター)のデータをみると、小学校1年生が自動車に轢かれて死亡することが多いことが知られている。
※参考「交通事故分析レポートNo.121 小学一年生が登下校中に遭った死傷事故」(交通事故総合分析センターのウェブサイト)
そこで、通学路の旗当番が必要とされている。しかし、今回問い合わせがあったように、旗当番そのものの危険性についても考慮する必要がある。
現在いろいろな場で子育て支援の必要性が指摘されている。すでに実施されている地域も多いが、シニア層のボランティア活動として、シニアの皆さんを中心に、この活動を展開してもらうとよいのではないかと考えている。