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【リニア】昨年12月のJR東海への国土交通大臣「指導」 面会概要を入手 「真摯」多用

小林拓矢フリーライター
斉藤鉄夫国土交通大臣(写真:つのだよしお/アフロ)

 昨年の12月19日に行われたリニア中央新幹線静岡工区についての有識者会議で、「大井川水資源問題に関する中間報告」が出た。この中間報告では、JR東海側の水問題に対する対応がある程度見込めたものの、別の観点からの問題が指摘されていた。静岡県や流域市町などとのコミュニケーションが円滑にいっていないというものである。

 この中間報告を受けて、斉藤鉄夫・国土交通大臣は、金子慎・JR東海社長と12月21日に面会した。筆者は、国土交通省に公文書開示請求を行い、当日の面談概要がわかる文書を入手した。当日の斉藤大臣の指示内容は国土交通省ホームページにあるものの、箇条書きとなっており、金子社長の返答まではわかるものとはいえない。

https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001448030.pdf

 以前は面談の際の斉藤大臣の手元にあった、読み上げ原文が簡単に探せられたが、見つけにくいものになってしまった。

 では、どんな指導内容だったのか?

真摯に理解を

 ます、文書は「斉藤大臣と金子社長の面会概要」と題され、「【機密性2】」と右上に記されている。日時は令和3年12月21日(火)。

開示請求により入手した公文書(筆者撮影)
開示請求により入手した公文書(筆者撮影)

 斉藤大臣の話した内容を下記に記す。

 今般、有識者会議におきまして、大井川水資源問題に関する中間報告書がとりまとめられました。昨日、私も福岡座長にお会いし、直接報告を受けました。大井川の水循環に関する事項が総合的に検討されて、中間報告書がとりまとめられたと聞いております。この中間報告書の中で、貴社に対して、特に2つのことをお願いしたいと思います。

 1つは、トンネル掘削に伴うリスク対応とそのモニタリングを実施すること。そして、2つめに、大井川の水利用を巡る歴史的な経緯や地域の方々のこれまでの取組みを踏まえ、地域の不安や懸念が払拭されるよう真摯な対応を継続すべき、という2点である。言うまでもなく、このプロジェクトは、公共性の極めて高い重要なプロジェクトです。その重要なプロジェクトを進めるにあたり、地域の皆様の理解と協力が不可欠です。そのことに、強く、理解を頂き、地域の方々と真摯に、地域の方々と理解し合いながら、真摯に事業を進めて行って頂きたい。

 リスク対応とモニタリングについては、簡単なお願いで済んでいる。もっとも、これは中間報告書を読めばわかる、ということだ。

 問題は、2つ目の「大井川の水利用を巡る歴史的な経緯や地域の方々のこれまでの取組みを踏まえ、地域の不安や懸念が払拭されるよう真摯な対応を継続すべき」ということである。このあたりがJR東海は弱い、ということが厳しく言われている。

 さらに、「このプロジェクトは、公共性の極めて高い重要なプロジェクトです。その重要なプロジェクトを進めるにあたり、地域の皆様の理解と協力が不可欠です」と畳みかけるように言う。「真摯」「理解」を多用するあたり、JR東海の地域へのコミュニケーションに何が欠けているかがわかるようになっている。

 科学的見地でリニア中央新幹線静岡工区に問題はなくても、地元とのコミュニケーションで難を抱えている状態であるということは、有識者会議も斉藤国土交通大臣も認めていることなのだ。

JR東海の答えは

 それに対して、JR東海の金子慎社長は何と回答したか。

 どうもありがとうございました。中間報告を踏まえまして、地域の理解と協力が得られるように真摯に努力をして参ります。

 そう、この「地域の理解と協力」がいまいち得られていない、というところに回答の重点もおかれているのだ。

 実際には、斉藤国土交通大臣は文書を読み上げ、金子JR東海社長はそれを聞き、返事をしたということになった。それだけで、面談は終わった。

 大規模な事業は、地元の理解と協力が不可欠である。とくに、福島第一原発事故以降、地域社会に大きな影響を及ぼす巨大事業へのまなざしは、厳しいものとなっている。もちろん、今回の国土交通大臣の「指導」を受けて、いままで以上に真摯に地元に対して説明をしていかなくてはならない。

 先日、神奈川県の相模原市にあるJR東海のリニア駅予定地近くに、「さがみはらリニアブース」というPR施設ができた。リニア中央新幹線のことについて、多くの人にわかってもらおうとする試みである。市内にリニア中央新幹線工事の残土処分場ができることで、水資源への影響などを懸念する市民から反対の声が出ている状況もある。

 この状況下、市民の理解が必要だということもあってか、PR施設ができた。

 相模原はまだリニア中央新幹線の駅ができるものの、静岡県は水源にばかり影響が出る可能性が高く、駅ができることはない。なおさら過敏になるのもある意味ではしょうがない。

 1月26日には、静岡県は中間報告を受けての県の見解などをJR東海や国土交通省鉄道局に送付した。このままではトンネル着工を認めないということだ。

 おそらく、有識者会議の中間報告後、さらに議論し最終報告を出し、国土交通大臣が裁定して決まればいいほうで、裁判になることも予想される。

 開示請求で手にしたこの公文書により、JR東海のコミュニケーション不足という課題が明らかになった。ここをどう改善していくかが、リニア中央新幹線の開業を実現させるためには必要なことである。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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