冷たい洪水から身を守れ 秋の台風水害からは早めの避難を心がけて
川の水が冷たくなる10月。この時期の台風による水害では、洪水の水が冷たくなります。やっとの思いで水から上がっても気温が低く、夏とは違い、震えるような思いで避難所に向かうことになります。そしてこの冷たさ、寒さに長時間さらされると、命を脅かすリスクになります。そうならないためにも、今年の台風14号、例年より早めに避難しましょう。
命を脅かす水温とは
おおよそ17℃です。洪水の水温がこれを割るようだと、その水の中にいることで低体温により命が奪われる可能性が出てきます。この水温より高ければ、一晩くらいの間にわたって我慢することも可能ですが、下回ると一晩など持たなくなります。そして1℃ごとの低下によって残された命が急速に短くなります。
陸で服を着ていても、ずぶぬれになれば同じことが起きます。その場合、気温が20℃だったとしても、服に含まれた水が少しずつ蒸発することによって熱が奪われ、場合によっては服に含まれる水の温度が17℃を割ることもあります。これはその時の湿度によります。
台風14号による各地の気象データ
台風14号の接近に伴う10月9日(金)6時の宮崎市の気象データを見てみましょう。次に示す数値は、windy.comで得ることができます。
宮崎県宮崎市 気温20℃ 湿度93% 風速15 m/s
湿度が比較的に高いので、ずぶぬれ状態での衣服内の水の温度はほぼ変わらずの20℃です。これによって命の危険性はそれほど高くないのですが、風速15 m/sの風にあたることで体感温度は9.6℃となり、屋外ではずぶぬれでなくてもかなり寒いおもいをすることになります。
では、各地の各時間におけるデータを用いて、今回の台風の危険性についてみてみましょう(注)。
10月9日 金曜日
10時 宮崎県延岡市 気温19℃ 湿度91% 風速12 m/s (体感温度8.6℃)
10時 高知県四万十町 気温20℃ 湿度91% 風速9 m/s (体感温度10.8℃)
14時 高知県高知市 気温19℃ 湿度90% 風速3 m/s (体感温度12.6℃)
22時 和歌山県新宮市 気温23℃ 湿度95% 風速17 m/s (体感温度14.1℃)
10月10日 土曜日
2時 徳島県阿南市 気温20℃ 湿度95% 風速11 m/s (体感温度14.1℃)
10時 三重県伊勢市 気温21℃ 湿度94% 風速9 m/s (体感温度12.4℃)
14時 静岡県浜松市 気温20℃ 湿度86% 風速9 m/s (体感温度10.8℃)
18時 埼玉県上尾市 気温18℃ 湿度93% 風速5 m/s (体感温度9.7℃)
以上のデータはすべて高い湿度を示しているため、衣服内の水の温度は気温と比べてほぼ変わらずとなります。したがって、埼玉県上尾市のデータのように気温が18℃となれば、低体温による命の危険のリスクが少々高くなるかもしれません。体感温度は場所によって10℃を割ることになり、風に吹かれる場合には、冬の装いでなければ寒いおもいをすることになるでしょう。
洪水の水温
洪水の水温は、河川の水温に直結しています。全国の河川の水温を知ろうとすると、国土交通省 川の防災情報が最も適していると思われます。各観測所では24時間以内の水温を1時間ごとに計測し、公開しています。直近の水温(10月9日1時)を示すと次の通りです。
福岡県 筑後川久留米大橋付近 20.1℃
愛媛県 吉野川柳瀬ダム基準点 20.1℃
岐阜県 長良川大橋 19.2℃
埼玉県 荒川南畑 18.8℃
良いデータベースなのですが、観測所の数が少なく、さらに場所によっては閉局していてデータが得られない場合もあります。洪水の水温が命を脅かすリスクとなるので、ぜひ水位ばかりでなく、水温の観測も充実させてほしいところです。
夏の思い出がまだ残っていると、「川の水は冷たくて気持ちがいい」というイメージかもしれません。ところが、水温は冬に向かって日を追って低くなっていきます。図1をご覧ください。これは神奈川県の相模川の水温を月ごとに計測した結果です(1)。8月の夏真っ盛りでは水温が最も高くて25℃ほどで「冷たくて気持ちがいい」温度ですが、10月には20℃を割ります。そして年によっては17℃を下回ることもあります。
内陸に入れば、さらに水温は下がります。図2は新潟県魚沼市の魚野川の水温を気温との関係でグラフ化した図です(2)。どちらかというと上流に近いため、日の平均気温が27℃程度でも水温は20℃強までしか上がりません。そして今の時期のように気温が20℃前後となれば、水温は15℃程度まで下がります。こうなると命のリスクが出てくる水温17℃を割ることになり、今の時期の新潟県内陸部の冷たい洪水には、相当気を付けなければならないことがわかります。そして、これは日本全国の内陸部に言えることです。それくらい、今の時期の冷たい洪水には注意しなければならないのです。
早期の避難を心がける
以上のように、今の時期の冷たい洪水に体が浸かると、長時間、体がもたなくなります。陸に上がってもずぶぬれの状態が続けば体温は奪われていきます。そのスピードは夏とは比べ物になりません。そのため、濡れない工夫が重要となります。つまり、とにもかくにも雨が激しくなる前に早期の避難を心がけます。
周辺の冠水が始まってしまったら、自宅2階などに垂直避難します。その際には、防寒具を準備して、ライフジャケットや緊急浮き具も準備します。万が一2階に浸水が始まったら、外の水に流されることに備えて準備をします。冷たい洪水の水温に体がやられないように、防寒具を着込みます。着れば着るほど浮きやすくなるので安心してください。そして緊急浮き具等で浮力を得て、浮きながら救助を待ちます。もちろん、スマートフォンなどで119番などに救助要請することも忘れないでください。
垂直避難にしても、周辺の避難所に避難するにしても、避難=安全ではありません。避難というのは、あくまでも浸水するまでの時間稼ぎです。避難所だって浸水することは東日本大震災の津波でも経験しています。水害では、最後は浮いて救助を待つことも覚悟しなければなりません。ここは勘違いしてはいけないところです。
注 この記事は予報を目的としていません、あくまでも数値を理解するためのシミュレーションです。天気予報については気象庁等が発表する正式な情報を参考にしてください。
参考文献
(1) 相模川の水温 神奈川県ホームページ
(2) 生田理弘ら、水文 ・水資源学会誌 4(1) (1991) 39.