カマキリの洗脳に失敗して干からびた寄生虫ハリガネムシ
ハリガネムシは、カマキリの脳を操って入水自殺させることで有名な寄生虫だが、たまには洗脳に失敗することもある。先日、小金井市の野川の川辺で見つけたハラビロカマキリは、川まであと一歩のところで力尽きたようで、その腹部からは2匹の干からびたハリガネムシがぶら下がっていた。
虫の息(虫なのでいつでも虫の息だが)のカマキリは、必死の形相で川辺の木の幹にしがみ付いていた。ハリガネムシのうち1匹は、カマキリの腹部を突き破っており、その壮絶な光景は、十字架のキリスト様のようにも見え、ある種の荘厳ささえ感じさせた(大げさ)。
ハリガネムシは、カマキリを水に飛び込ませることで水中へと脱出→水中で産卵→孵化後の小さな幼生をカゲロウの幼虫(水生)などが体内に取り込む→そのカゲロウなどの成虫(陸生)をカマキリが捕食→ハリガネムシはカマキリの体内で成体まで成長、という過程をたどる。この面倒なハリガネムシの一生のサイクルが、今回はカマキリの力不足で断ち切られてしまったのだ。
そのサイクルの完成を助けたのが昆虫記者。干からびたハリガネムシの全身をカマキリの腹から引き出し、水を満たした容器に入れておいたところ、しばらくしてハリガネムシは生気を取り戻したのだった。
その後川に放してやったハリガネムシの子孫に、いつの日か出会えるかもしれない。「あんな気味悪い寄生虫を見て、何が嬉しいのか」と思う人もいるだろうが、怖いもの見たさという言葉もある。「怖くても、気味が悪くても、また見てみたい」というホラー映画ファンの気持ちは、昆虫記者には良く分かる。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)