医療インバウンド:グローバルな医療市場で持続的に利益を得るには、妥当な価格設定は欠かせないであろう。
1.医療インバウンド
観光業界をはじめ、インバウンド需要には多くの事業が注視している。日本政府観光局によると、2017年の訪日外国人観光客は前年比の20%弱増の2,869万人で、その消費額は4兆4,161億円に上る。2年後に迫る東京五輪の開催時には、訪日客数4,000万人、その訪日消費額は8兆円と掲げている。インバウンドのマーケットの拡大は日本経済に大きな恩恵をもたらしている。
その流れは医療界にも及んでいる。日本国内での診療を望む外国人患者の受入促進に取り組む医療インバウンド。だが、果たして日本の医療のレベルは世界にどこまで周知されているのだろうか。インバウンドの実現、その先立つものとして、我が国の優れた医療レベルを各国に伝えることが重要であろう。それぞれの国のニーズに応じて、日本の医療サービスを提供することで、世界に理解してもらうこと。アウトバンドが、インバウンド実現の大きな一歩となる。
2.医療渡航支援企業とJapan International Hospitals
海外における医療・介護拠点を構築し、そこから新興国の医療関係者との人的ネットワークを築き上げ、日本への医療渡航に繋がるPRを行う。医療渡航のプロモーションとコーディネート事業者の確保を柱に、日本での診療を望む渡航受診者の受入れに繋げていくインバウンド。これをアウトバンドとの両面からのアプローチを行う。その事業に向けて2018年度の国の予算額にも5.7億円が国際ヘルスケア拠点構築促進事業に投じられた。
図1 医療インバウンド体制
出典)経済産業省「渡航受診者の受入支援(インバウンド)」より抜粋
(http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/iryou/inbound/index.html (2018年11月4日閲覧))
実際にインバウンドのコーディネートには、国から認証をうけた医療渡航支援企業が行う。その主な認証基準には、経済産業省や観光庁で登録した医療滞在ビザ身元保証機関であり、医療渡航支援に必要な宿泊・交通の手配を適切に行えることを示す旅行業登録が求められる。また実績も問われている。海外在住の外国人の治療行為に関する国内医療機関への受入実績が、年間150名以上(2年間平均)があることが条件となる。渡航受診者の受入先にはリスト化されたJapan International Hospitalsがある。これら医療機関は、渡航受診者を受け入れる組織的な意欲があり、インバウンドを担当する部署および担当者の設置が条件となる。そこで標準的な医療、先進医療、健診及び検診を中心に提供する。
3.医療の公定価格
このとき浮き彫りになった課題として、価格設定がある。日本の医療費は、診療報酬制度に基づいた公定価格で定められている。これまで外国人患者が支払う価格は、この公定価格と同等の設定をしている医療機関もあれば、外国人患者への医療サービスを国民皆保険制度の対象外にあたる自由診療として扱う医療機関もある。このような費用の設定の相違には、外国人患者が支払う価格に関する体系的な整理はこれまで行われてこなかったことに起因する。
実際に価格設定を検討する場合に、どのような業務が外国人患者を受入れたときに発生するかを確認する必要がある。このとき、外国人患者の受入れには言語や文化の違いによるトラブルなど、様々なリスクが存在し、かつ訪日前から帰国後に渡り、通訳、移動手段、宿泊の手配などの幅広いサポートが求められる。その業務は、下記に示すように問合せから受入れを決めるまで、来日前の準備と諸手続き、来日中の院内調整に分かれる。これらの業務に、事務スタッフ、医師、看護師、検査部門の医療スタッフに加え、国際医療コーディネート事業者や医療通訳などが係る。そこには「医療費原価」「受入支援サービス原価」「通訳等の付加価値」、各段階のコストの合算が価格設定のベースとなる。このとき、医療機関が収益を確保し、かつ、外国人患者が納得できる価格を提示するためには、医療機関が負担すると想定される原価より高い価格が求められ、かつ外国人患者が支払ってもよいとされる価格よりも低い価格に設定することが望ましい。
図2 医療における価格設定
出典)平成22年度医療サービス国際化推進事業「外国人患者受入れ 価格設定参考資料」より抜粋
医療の国際展開を促進するための取組は、世界の健康課題に貢献しながら、日本の経済成長に資するものであり、国を挙げて取り組むべき施策である。その一つとしてのインバウンド。この医療インバウンドを成功に導くためには、外国人患者の満足度や納得感を高める価格設定を実現すると同時に、医療機関が持続的に利益を生み出す価格の設定。この妥当な設定が、グローバルな医療市場で持続的に利益を得ていくためには欠かせない事案であろう。