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病院で診てもらえない…「皆保険制度が崩れた」コロナと戦う医師に聞く③

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:イメージマート)

宇都宮市で新型コロナウィルスの治療に年365日体制で対応してきた「インターパーク倉持呼吸器内科クリニック」の倉持仁院長が11月、東京都心部にもクリニックを開く。「その時々で、必要と思うことに取り組んできた」と語る倉持院長。

筆者は、院長と同じ1972年生まれ。院長の発言は炎上することもあるが、筆者はむしろ院長の地域コミュニティでの取り組みや、クリニックの働き手支援に関心を持っている。また、院長はTwitterや著書でコロナ戦記を記してきた。筆者も、2020年に子育て家庭や教育現場がどのような状況にあったか記録・報道して本にまとめており、100年に一度の出来事を後世に伝えることも大事だと思っている。2020年から起きたことと、倉持院長の取り組みを振り返るインタビューを連載で紹介する。

2回目はこちら

「診なくていい」世界が変わった

【今年、コロナがインフルエンザ等と同じ5類になってどんなことが起きているのでしょうか】

【倉持】2類・5類っていうのは、県がどう病気の人を管理するかという法律なだけで、それと「皆保険制度」は全く別の話なんですね。保険料を払っていて、適切な医療を受けたい人は受けられるのが、日本の皆保険制度のルールなはずなんです。

【私は夏に、子どもからうつってかかったんですけど、何件かの医療機関で診てもらえなかったんです】

【倉持】普通の風邪だって普通に診ているのに、なんでコロナをちゃんと検査してちゃんと診ないの? 当たり前のことが、なされなくなってしまった。第3波が終わった辺りの年明けに、医師会長や政府もそうですけど、「お医者さんはコロナを診なくていい」という通達とか会見があったんですね。最初は「われわれは医者だから、診なきゃいけないんだろうな」と思う医師が大半だったんです。

 皆保険制度の応召義務というんですが、請われたらタクシーの乗車拒否と一緒で、医師って断ってはいけないんですけど、診られなければ断ってもいいというスタンスを、厚労省を含め明らかに認めたんですよ。それまでは、断って裁判になると、医師側が悪いってほぼ100%そうなってたんですよ。よほどのことがない限りは。だけど、そういう通達が出てしまって、それが当たり前になって、世界が変わったんですね。うちは診ないです、みたいな状況が当たり前になった。

時間があったのに改善されなかった

【私の場合ですが、薬局の抗原検査キットでマイナス、風邪薬も効かない。「熱があるんですけど」って電話すると「発熱外来の枠はいっぱいです」って大きい病院でもクリニックでも言われ、少し離れた病院に行く途中に倒れまして。発熱外来の枠は、病院が決めるのですか】

【倉持】そうです。自分たちができる能力に応じて、例えば患者さんの動線を分けるとかですね。都心部のビルで診療している病院は、スペースがなくて、待合室は一緒にしかできない。他の患者さんにうつったら困るから来ないでねっていう考えは、その立場から言えばそうなのかもしれない。でも、新たな感染症が出てきて、医療制度を維持するために、受けられる体制を国が構築しようとしたかっていうと、何もやってこなかったんですよね。

 国側に立っている専門家の人たちがいろいろ話し合った結果、基本的に国民にお願いをする、そういうやり方を取ってきたんです。医療機関も、診られるスペースや場所を作る時間が、コロナ禍の3年半~4年あったのに、作れなかったんです。結果、指定感染症法のルール、つまり県知事が管理し、皆保険制度にもオーバーラップされたんですね。保険料を普通に払っている人たちが、容易に受診できない状況を招いている。

 地方に、そういう普通のことは委譲していますよね。コロナも流行するようになって、地域差がすごく出るようになったんです。海外でもそうですけど。東京でははやっているけど、札幌と沖縄ははやっていないとか、沖縄ではやっていることだから沖縄で何とかすればいいし国が動く問題じゃないでしょうみたいなルールになって。1人の人が受診できないと言っても、そこの医療圏の問題でしょう、医療圏で解決してくださいって。同じことを繰り返しているんです。

【5類になってからとその前で、患者さんの数はどうですか。9月(取材時)の今は、流行していると言えるのでしょうか】

【倉持】流行しています。軽ければ受診しなくていいというお触れがみんなに回って、健康に対する意識が高い人は早く受診しますが、そうでない人は受診しなくなっている。流行はしているんですが、受診者の数で言えば、去年の半分ぐらいです。受診しない人が周りにうつすこともあり得ます。

 それから、マスクする・しない論争ってずっとしていたじゃないですか。ワクチン効く・効かない論争もそうですし。PCR検査は意味ない・意味ある論争もありました。

【それぞれに先生の考えがあって、発信していますよね。説明していただけますか】

(つづく)

倉持院長プロフィール 1972 年栃木県宇都宮市生まれ。東京医科歯科大学医学部医学科卒業。2015年に呼吸器内科専門のクリニックを立ち上げ、敷地内の別棟に発熱外来を作る。サーズ、新型インフルエンザ等を経験し、栃木には工場があり海外との往来も多いためだった。他に、働き手のために院内保育園を開設、市の病児保育事業もしてきた。

コロナ禍では2020年12月に自院でのPCR検査を開始。その後、PCR検査センターを5箇所に設置(宇都宮・那須塩原・浜松町・大宮・水戸)。2021年3月 コロナ軽症〜中等症専用病棟を10床設置。2021年8月 コロナ患者専用の外来点滴センター開設。2022年4月コロナ接触者用臨時外来(テント、後にバス)設置。著書に『倉持仁の「コロナ戦記」 早期診断で重症化させない医療で患者を救い続けた闘う臨床医の記録』

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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