バレンタインデーにはチョコレートのフルコースを
2016年のバレンタインデー
1月も中旬に差し掛かってくると、食関連の話題は世界最大級のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」が主役となり、それが終わった2月からは、ほぼバレンタインデー一色となります。
フランスの「ジャン=ポール・エヴァン」や「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」、ベルギーの「ゴディバ」「デルレイ」「ピエール・マルコリーニ」、スペインの「カカオサンパカ」、スイスの「リンツ」「ブロンデル」など、海外の有名な高級チョコレートショップが堅調であることはもちろん、初上陸の海外ブランドも注目されています。
また、全国のバレンタイン催事場に展開するスペインの「ルクスショコラ」、東急百貨店 東横店に出店するアメリカの「イヴァン・ヴァレンティン」やフランスの「ヴォワザン」、新宿高島屋にはスイスの「デュ・ロンヌ」が日本へ初めて登場します。
有名なチョコレートショップも、初上陸のチョコレートショップも、本命であったり、大切であったりする人へのプレゼントに相応しいことは間違いないでしょう。前者は万人受けし、後者は通好みと使い分けることができます。
2016年のトレンドはどうかと言えば、ショコラコーディネーター市川歩美氏の記事によると、ショコラティエのこだわりを表現できる「Bean to Bar」や体にも優しい「ヘルシー&ビューティー」が注目されているということです。前者は垂直統合を行うことによってチョコレートの質を高めて他と差別化を図るということ、後者は今の時代において最も女性ウケする2つのキーワードをチョコレートも獲得しようとしているということであり、栄養価の高い「ローチョコレート」が増えてきていることとリンクしていると、私は考えています。
変わり種のチョコレート
バレンタインデー商戦で主流となるのは、確かに先に挙げたような本格的なチョコレートでしょう。しかし、チョコレートを専門としていないショップも含めて、色々と興味深いチョコレートも注目されています。
寿司を模した「ロイスダール」の「魚河岸ショコラ」、毎年話題となる「神戸フランツ」の「カーマニア」シリーズが特にユニークでしょう。高級店でも色々な試みが行われており、ルレデセールの会員である青木定治氏の「パティスリー・サダハル・アオキパリ」からはタコ焼きに見立てた「TAKOYAKI ショック ショコラ」、ヒルトン東京「パティセリーFILOU」ではセクシーな唇形の「リップチョコレート・ロリポップ」、パレスホテル東京「スイーツ&デリ」では色鉛筆にしか見えない「クレヨン・コロレ」が登場します。
また、フルーツタルト専門店として広く知られている「キル フェ ボン」でさえも8種類のチョコレートケーキを用意した「2016 ショコラWeek!」を開催したり、多くの著名人から愛され、高級ガトーショコラの代名詞となっている「ケンズカフェ東京」の「ガトーショコラ」が高価でありながらも爆発的に売れたり、大行列が名物となっているラスクの「ガトーフェスタハラダ」でバレンタインデー商品を販売してほとんどが品切れになったりと、非チョコレートショップ、および、非ショコラティエでも、バレンタインデーで世間の耳目を集めています。
バレンタインデーのレストラン
さて、では、このバレンタインデーの時期に、レストランはどういった動きを見せているのでしょうか。
以下のように分類することができます。
- 2人用のコース
- チョコレートを使ったスイーツ
- メッセージ付き
- お土産
- ハートをモチーフ
順番にみていきましょう。
「2人用のコース」とは、2人分の料金を合わせたプランや、2人で仲良く食べられるようなシェアを意識したコースとなります。前者は女性が支払うということでお得な値段に設定してから、後者は2人の距離を縮められるから、ということで人気があります。
「チョコレートを使ったスイーツ」は例えばコースの最後のデザートがフォンダンショコラであったりチョコレートを使った特別なデザートであったりするということとです。最もオーソドックスなので、インパクトはちょっと弱くなります。
「メッセージ付き」というのは、デコレーションでメッセージが描かれていたり、食べ物とは関係なく単にカードが添えられていたりするものです。他のパターンと組み合わされることが多いです。
「お土産」は「チョコレートを使ったスイーツ」 と似ていますが、こちらは持ち帰り用になります。コースに加えてチョコレートのお土産も提供するので、当然のことながら値段は少し高くなります。しかし、ドラマティックなシーンが最後に設けられるので、なかなか心憎い演出になることと思います。
最後の「ハートをモチーフ」はチョコレートとは関係がありませんが、好意や愛を伝えるために、ハートを模った料理やデザートが提供されるというものです。チョコレートを使わずとも実現できるので、かなり手軽な表現方法かも知れません。
チョコレートの料理
以上のように見てきましたが、レストランにおけるバレンタインデーの対応は先程のどれかに当てはまるものがほとんどであり、だからこそ少し退屈なものとなっています。それだからこそ、一昨年は「ホテル×メーカーの新しいコラボレーションの形」でグランドプリンスホテル高輪「ル・トリアノン」とロッテのコラボレーションを、昨年は「バレンタインに媚薬を」でシャングリ・ラ ホテル 東京「ピャチェーレ」の媚薬をテーマとしたコースを取り上げたのです。これらは前述のパターンに当てはまらず、とても斬新でした。
では、今年はどうなのでしょうか。今年は徹底的にチョコレートにこだわった「ホテル、グランド ハイアット 東京」に注目したいです。グランド ハイアット 東京では、イタリア料理「フィオレンティーナ」ではチョコレートを使ったパスタを、ステーキの「オーク ドア」ではチョコレートを使ったフルコースを提供しています。
フィオレンティーナ
- カカオで煮た仔牛すね肉のラグーとカカオを練りこんだパッパルデッレ
オーク ドア
- ローストしたエビとマサラスパイス バナナ ミルクチョコレート ピーナッツ
- ココアパウダー入りのカブのスープと、ココアクルトン
- 煮込みサーモン ホワイトチョコレートを加えたカリフラワーピューレ キャビア ココアもしくはココアをまぶしたテンダーロインステーキ ビーツ ホースラディッシュクリーム ヘーゼルナッツ ダークチョコレート
- チョコレートスフレ バニラアイスクリーム
フィオレンティーナのパッパルデッレもラグーとチョコレートを合わせた面白いメニューですが、オーク ドアはどの料理にもチョコレートが使われており、それでいて構成できているところはとても評価できるところでしょう。
当然のことながら最後のデザートは最も自然にチョコレートが感じられ、親しまれた味に仕上がっているはずですが、それ以外の前菜や主菜でもチョコレートらしさを感じさせ、かつ、デザートのチョコレートに負けないくらいの存在感を示さなければならないからです。それだけに、各料理で工夫が施されています。
ローストしたエビとマサラスパイスは、チョコレートと相性のよいバナナが使われており、これがエビとの橋渡しをしていると言えるでしょう。チョコレートと相性のよいピーナッツを散らし、チョコレートはブロック上にしてポップな感じを表現しています。
煮込みサーモンは52度で15分間と、低温調理を施しており、サーモン本来の味わいを極力残した味わいにしています。サーモンの食味は淡いので、甘くてマイルドなヴァローナ社のホワイトチョコレートによく合っているのです。
オーストラリア産のテンダーロインステーキはココアが塗されているので、ビターで主張の強い味わいになっていますが、削られたヘーゼルナッツとココアの風味が実によく合います。
チョコレートを使うのでも、単にソースの隠し味にするのではなく、ブロック状にしたり、ピューレにしたり、ココアを塗したりと、様々な使い方をしているところに工夫が感じられるでしょう。チョコレートの強弱で言うのであれば、前菜が強、スープが弱、魚料理が弱で肉料理が強(どちらかを選択)となっており、バランスもよくなっています。
バレンタインデーのために急遽申し合わせたようなチョコレートを少しだけ絡めたメニューに比べると、このコースに料理人の気持ちや手間暇が割かれていることが分かることでしょう。
バレンタインデーでレストランの奮起を
2016年のバレンタイデーは日曜日なので、割合で鑑みると、義理チョコレートが減少して、本命チョコレートや自分用チョコレートが増えていくと思われますが、チョコレートブランドはすでに飽和状態になっており、一般の消費者、特に男性にとっては、もう何が何のブランドだか分からなくなっているのではないでしょうか。そういったこともあってか、実際のところ、「ぐるなび」の調査によると、チョコレートよりも肉を食べたいという男性が多くなっているだけに、レストランがこれまで以上にバレンタインデーの料理に力を入れ、他と差別化を図れるようになるとよいと思っています。
関連リンク
元記事
元の記事はレストラン図鑑に掲載されています。