「熱中症」は室内でも要注意〜なぜ「高齢者」は冷房を使わないのか
暑い日が続き、各地で熱中症によって亡くなったり病院に運び込まれる患者が増えている。熱中症で救急搬送された人のうち、65歳以上の高齢者が半数近くを占め、発症場所は約40%が住居(敷地内)となっている。もちろん農作業中や敷地内の屋外で熱中症になる人も多いが、高齢者が屋内で熱中症になるケースも無視できない。なぜこのようなことが起きるのだろうか。
高齢者が屋内で熱中症に
消防庁によれば、2018年の夏季(5〜9月)に熱中症で救急搬送された人の数は全国で9万2710人で過去4年間(2014年までは6〜9月の3ヶ月の累計)で最も多かった(※1)。
今年はどうだろう。2019年は5月下旬に熱中症患者が急増し、5月20〜26日の1週間で2128人となっていたが、その後は平年並みで梅雨明けが遅かったせいもあり、4月29〜7月28日までで1万8078人となっていてまだそれほど多くはない(※2)。
だが、梅雨明けから日本列島全体が猛暑に襲われ、猛暑日が連続している。それにつれ、熱中症の疑いで救急搬送されたり亡くなったりする人も増えているようだ。
2018年の夏は梅雨明けが早かったせいもあって平均気温も高く、夏季全体としてみると記録的な猛暑になった。同じ年の救急搬送された人を年齢別でみると、48.1%が65歳以上の高齢者だ。また、熱中症を発症した場所では、敷地内全ての場所を含む住居が40.3%で最も多く、2位の仕事場10.8%を大きく引き離している。
2018(平成30)年の熱中症の年齢区分別の救急搬送人員のグラフ(左)と発生場所ごとの項目(構成比)の円グラフ(右):総務省消防庁「平成30年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」2018年10月25日より
つまり、高齢者が自宅で熱中症にかかることが多いというわけだが、どうしてこうしたことになってしまうのだろうか。
身体の水分の割合が低い高齢者が多く脱水状態になりやすいことがありそうだ。体温を調節する機能が衰えてきた高齢者は、気温を感知する皮膚や中枢神経がうまく働かなくなっていることも考えられる(※3)。また、皮膚の温度の感受性に性差があるかどうかについては議論があるが、どうも男性よりも女性のほうが優れているようだ(※4)。
さらに、加齢によって発汗の機能が低下すると汗(温熱性発汗)をかきにくくなって気化熱による体温調節が難しくなる。その上、外気温の上昇を感知して皮膚の血管を拡張させる機能が低下し、心拍数も減ってくる。血流量が減少することで、皮膚の血管からの放熱効率も悪くなると考えられる(※5)。
高齢者にありがちな傾向として、あまり水分補給をまめに行わないことが指摘されている。喉が渇いたという感覚が衰えるためと考えられているが(※6)、発汗量が減少しているとはいえ、高温下で水分補給がなされないと脱水症状になりやすくなる。
高齢者はエアコンが嫌いなのか
こうした生理学的な理由から高齢者が熱中症にかかりやすいことがわかるが、なぜ住居で熱中症にかかってしまうのだろうか。冷房をかけ、室温を下げることは熱中症の予防につながるが、前述したように温度の感知機能が低下しているので暑さを感じにくくなり、冷房をかけ忘れてしまうのだろうか。
過去の調査研究によれば、冷房を苦手と感じる高齢者は多いようだ。また、2011年に起きた東日本大震災と原発事故による節電意識が依然として残っているとの指摘もある(※7)。ただ、震災後、深刻な電力不足が起きてエアコンなどの空調システムが作動しにくくなった日本(東北地方・関東地方)でどの程度、熱中症を含む熱関連死亡率が変化したかを調べた研究によれば、総じてリスクはむしろ減っていた(※8)。
一方、高齢者はエアコンの設定温度を高めにする傾向があり、暑いから薄着になり衣服内の湿度を下げるというようなことにあまり意識が向かないのではないかという研究もある(※9)。衣服を含めた環境が高温多湿になり、気化熱による体温調節が効かなくなって熱中症にかかりやすくなるというわけだ。
そもそも高齢者には、熱中症は屋外でかかるものという意識の強い人が多い。日本の住居は戸建てか集合住宅か、築年数、周囲の環境などによってエアコンの効き方も異なる。
また、暑くてもエアコンをつけて寝ることが身体に悪いと思い込んでいる高齢者も少なくない(※10)。住居内でもかかる危険性があることを周知し、熱中症に対する予防意識を高めていく必要がありそうだ(※11)。
熱中症は予防が大切だ。とにかく水分と塩分を小まめに補給し、エアコンをつけたり冷水シャワーを浴びるなどして体温の上昇に気をつけ、睡眠不足や過度の飲酒を避けるようにしたい。
めまいや立ちくらみ、大量の発汗、頭痛、吐き気など、体調がすぐれなくなったら自分で治そうとせず、すぐに医療機関を受診すべきだ。
貧困化が進み、エアコンが買えない人や世帯が増えているのも問題だろう。また、独居老人など、周囲の人間関係と隔絶した生活を送っている高齢者は、自分で気付かないうちに熱中症の症状を悪化させることもある。熱中症の背後に、こうした社会経済的な要因が見え隠れしていることにも留意したい。
※1:総務省消防庁「平成30年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」2018年10月25日
※2:総務省消防庁「熱中症情報:熱中症による救急搬送人員(7月22日〜7月28日速報値)」
※3-1:Han-Wei Huang, et al., "Influence of age on thermal thresholds, thermal pain thresholds, and reaction time." Journal of Clinical Neuroscience, Vol.17, Issue6, 722-726, 2010
※3-2:Slava Guergova, Andre Dufour, "Thermal sensitivity in the elderly: A review." Agent Research Reviews, Vol.10, Issue1, 80-92, 2011
※4-1:L Schellen, et al., "The influence of local effects on thermal sensation under non-uniform environmental conditions- Gender differences in thermophysiology, thermal comfort and productivity during convective and radiant cooling." Physiology & Behavior, Vol.107, Issue2, 2012
※4-2:Yoshimitsu Inoue, et al., "Sex differences in age-related changes on peripheral warm and cold innocuous thermal sensitivity." Physiology & Behavior, Vol.164, 86-921, 2016
※5:Anna E. Stanhewicz, et al., "Blunted increases in skin sympathetic nerve activity are related to attenuated reflex vasodilation in aged human skin." Journal of Applied Physiology, Vol.121, Issue6, 1354-1362, 2016
※6-1:P A. Phillips, et al., "Reduced osmotic thirst in healthy elderly men." Regulatory, Integrative and Comparative Physiology, Vol.261, Issue1, 1991
※6-2:N S. Stachenfeld, et al., "Mechanism of attenuated thirst in aging: role of central volume receptors." Regulatory, Integrative and Comparative Physiology, Vol.272, Issue1, 1997
※7:田中英登、梅田奈々、「高齢者における夏季の 冷房使用状況と冷房使用時の生理的反応と温熱的快適性に及ぼす気流の影響」、日本生気象学会雑誌、第51号、第4巻、141-150、2015
※8:Yoonhee Kim, et al., "Heat-Related Mortality in Japan after the 2011 Fukushima Disaster: An Analysis of Potential Influence of Reduced Electricity Consumption." Environmental Health Perspectives, 6, July, 2017
※9:上田博之ら、「高齢者の熱中症予防に向けた夏季日常生活下における温熱環境の月別調査」、日本生気象学会雑誌、第54巻、第4号、135-145、2018
※10:萱場桃子ら、「夏期における高齢者の夜間のエアコン使用に関する研究」、民族衛生、第79巻、第2号、47-53、2013
※11:谷田恵子、森舞子、「地域在住高齢者の熱中症予防に関する知識と行動に関する質問紙調査」、兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所、2019