JR東日本「利用の少ない線区」残すにはどの数字に着目する? 収支か、営業係数か、輸送密度か
旧国鉄時代に、「輸送密度(平均通過人員)が4,000人/日未満」の線区はバス転換か第三セクター化が提案されていた。分割民営化されJRに移行した後も、そのまま残り続けた線区があったが、当時は問題がなくても民営化後に利用が減った線区も多く現れた。
JR西日本やJR北海道など、JR東海以外のJR旅客会社は、線区の経営状況について情報を公開している。7月28日にはJR東日本が利用の少ない線区の経営状況を開示したことで、閑散線区の現状がわかるようになってきた。
その際の基準が「輸送密度2,000人/日未満」である。国鉄末期の基準よりゆるやかではあっても、そのころに残った路線が現在この基準を満たさないところが多くなってきた。加えて、道路の整備なども進み、代替交通も確保できるようになっている。
厳しいJR東日本
東北から信越、関東地方までをカバーするJR東日本は、路線網が広大なため、経営の厳しい線区が多い。2,000人/日を満たさないのは、コロナ禍前の2019年度の実績でも35路線66区間だった。
JR西日本がことし4月に発表した実績では、17路線30区間だった。中国山地や山陰地方で厳しい状況の路線が見られ、ネット上では「こんなに人が乗らない路線が多かったのか!」という声が見られた。
それよりも多くの路線で経営状態が悪い状態に置かれているのがJR東日本で、今回の発表でそれがわかった。
JR東日本は、東京圏での通勤輸送と新幹線での長距離輸送を経営の柱とし、そこで得た利益で地方の鉄道事業を維持するという構造になっている。もちろん、エキナカ事業や不動産事業で得た利益でも地方の鉄道事業を支えている。
地方の人口減少や、高規格道路の整備などが進み、1987(昭和62)年に国鉄が分割民営化された当時よりもJR東日本の地方路線は利用されなくなっていった。
JR西日本よりもJR東日本のほうが路線網は広大であるということを差し引いても、2,000人/日の対象となった区間には、現在でも特急列車が走っている路線どころか、長距離の貨物列車が走っている路線まであり、見直しのやり方次第では鉄道網そのものを毀損してしまうという状況になっている
気になるのが、県境を間にはさむ区間の経営状態である。目立つところについて述べる。
まずは羽越本線の酒田~羽後本荘間だ。2019年度で輸送密度977人/日、営業係数1,204円、27億1100万円の赤字となっている。近畿から東北地方を結ぶ日本海縦貫線では、奥羽本線の東能代~大館~弘前間、羽越本線の新津~新発田間、村上~鶴岡間が輸送密度2,000人/日未満である。
上越線にも気がかりなところがある。水上~越後湯沢間だ。2019年度で輸送密度1,010人/日、営業係数1,352円、15億7200万円の赤字だった。
これらの路線は貨物などが利用し、路線によっては特急が走っているところもある。重要度の高い路線だ。その路線の経営状態が悪いということになっている。
ローカル線で県境を越える区間の経営状態はさらに悪い。県境区間は利用者が少ないという実態は以前からあったものの、これがわかりやすく数字となって現れた格好だ。しかしそこを廃止してしまうとネットワークとしての鉄道が機能しなくなってくることは確かだ。
ここからは、気になる数字を見ていきたい。
輸送密度、営業係数、赤字……厳しいのは?
まずは明らかに輸送密度が厳しいところを見てみる。2019年度では、久留里線の久留里~上総亀山間が85人/日、花輪線の荒屋新町~鹿角花輪間が78人/日、陸羽東線の鳴子温泉~最上間が79人/日となっている。コロナ禍に見舞われた2020年度は飯山線の戸狩野沢温泉~津南間が77人/日、北上線のほっとゆだ~横手間が72人/日、久留里線の久留里~上総亀山間が62人/日、只見線の只見~小出間が82人/日、花輪線の荒屋新町~鹿角花輪間が60人/日、山田線の上米内~宮古間が80人/日、陸羽東線の鳴子温泉~最上間が41人/日となっている。
この中で、路線の末端部分といえるのは久留里線の久留里~上総亀山間だけである。そのほかは山田線を除き県境区間で、只見線のように別区間を復旧させたところまである。
次に営業係数を見てみよう。営業係数とは100円の収入を得るためにかかる費用のことで、2019年度に営業係数10,000円以上のところは、久留里線の久留里~上総亀山間で15,546円、花輪線の荒屋新町~鹿角花輪間で10,196円である。2020年度になると、飯山線の戸狩野沢温泉~津南間が13,945円、久留里線の久留里~上総亀山間は17,074円、花輪線の荒屋新町~鹿角花輪間が14,499円、磐越西線の野沢~津川間で17,706円、陸羽東線の鳴子温泉~最上間で22,149円と採算の悪い線区が増えている。
輸送密度の低いところと、営業係数の低いところは割と近い関係になっている。県境区間のところで営業係数がコロナ禍で上がったところが多いのは、わざわざ鉄道を乗り通すような人、正直なところ鉄道ファンがアクティブに動かなくなった影響が大きいのではないかとさえ考えさせられる。
いっぽう、赤字の厳しいところを見ると、別の要素も見えてくる。2019年度では赤字額が20億円を超えるのは、羽越本線の村上~鶴岡間で49億900万円、同じく羽越本線の酒田~羽後本荘間で27億1100万円、そして奥羽本線の東能代~大館間で32億4200万円、同じく奥羽本線の大館~弘前間で24億3700万円、さらに津軽線の青森~中小国間で21億6400万円となっている。2020年度は羽越本線の村上~鶴岡間で52億5500万円、同じく羽越本線の酒田~羽後本荘間で27億2000万円、そして奥羽本線の東能代~大館間で32億9000万円、同じく奥羽本線の大館~弘前間で24億4800万円、さらに津軽線青森~中小国間で21億4000万円となっている。
人が乗らない路線の厳しさが輸送密度や営業係数の数字に現れるいっぽう、大きな赤字を出しているのは重要度の高い路線だという構造になっている。営業係数の高い路線を削っても、JR東日本の全体的な経営の厳しさを大きく改善することには必ずしもつながらないのである。津軽線の青森~中小国間は、確かに赤字こそ大きいが貨物輸送上なくてはならない路線である。
輸送密度の低い路線を見ると、かつては特急や急行が走っていた路線もある。地域をまたぐ路線は、鉄道ネットワーク上必要なはずだが、高速バスなどに代替されたということがいえる。
久留里線の久留里~上総亀山間以外、残すかどうか判断の分かれる路線は多い。なくすと鉄道ネットワークが機能しなくなる。いっぽう、赤字の大きな路線は、必要性の高いところばかりである。こここそ運行事業とインフラ管理を分離する「上下分離」の考え方が必要だ。