子育て中の不倫…その先に、人生の選択を問う映画「Red」
公開中の映画「Red」で、夏帆さん演じる主人公の塔子は、エリートの夫とかわいい娘と暮らす裕福な主婦。妻夫木聡さん演じる、昔付き合っていた鞍田に再会して、恋に落ちてしまいます。
●正しさを求められる女性たち
それまでの塔子は、身ぎれいにして、義母に言われるままに手の込んだ食事を用意し、子どもに笑顔を向け、夫に奉仕していました。一般的に、そういう母親は少なくないですし、深く考えずとも穏やかに暮らしている人、家事や育児に喜びを感じる人もいるでしょう。
もし、「本当は、夫に協力してほしい」「私の希望はどうなるの」と不満が顔を出しても、「生活費を出してもらっているし」「子育てしながら働くのは、厳しい」「子どもはかわいいから」と飲み込む部分もあり、ジレンマを抱えながらも母親業を務めます。あの手この手でガス抜きをして、無難に生きていくのが、賢いやり方であると考えるのです。
「Red」原作の直木賞作家・島本理生さんは「妻や母親としての正しさばかり求められるわりには、幸福の答えがない女性の人生をどのように選択していくか。そんなシンプルで根本的なことがずっと置き去りにされてきた日本の女性に、今一度『私』とはなにかを問いかける作品」と語っています。
●「働く必要ある?」夫の無神経
間宮祥太朗さん演じる塔子の夫は、「家庭のことは妻がやって当然」という態度で、「働きたい」という塔子に対し、「なんで?働く必要あるの?」と言ってしまいます。父親としてたまには頑張ってほしい場面でも、「一番大切な仕事って、母親だろう?」と突き放します。悪気なく、こういうことを言う夫って、珍しくありません。ただ最終的には、塔子が働くことも認めるし、義母も子育てのサポートをしてくれて、悪い人たちではない。一生、分かり合えない部分はありますが…。
塔子は素敵な奥さんを演じ、自分を殺していたのでしょう。働き始めた塔子は、アイデアを認められたり、親しい仲間ができたり、生き生きしていきます。そのあたりまでは、働く母親として、筆者も共感して見ました。けれど、職場が一緒の鞍田との仲が深まっていき、子どもとの生活にほころびが出てくるあたりから、引っかかりを感じてしまいました。
塔子の行動は「子育て中の不倫」ということになるわけで、我が子より恋愛を選択する親も実際にいますし、「行動には移さないけれど、それぐらい激しい恋愛をしてみたい」と思う人もいるでしょう。でも、塔子の選んだ生き方を見ると、単純に親の手が必要な年齢の子どもに対して、かわいそうなのです。平和に生活していきたければ、理性を働かせて軌道修正し、「正しくないとされる生き方」は、選ばないだろうと考えてしまいました。
●「個人の生き方を問う映画」
自分にとっては息苦くても、「正しいとされる生き方」を選ぶのが正しいのかー。実は、塔子の生き方に拒否反応が起き、心をかき回されることこそ、「自分がどんな生き方をしているか、したいか」を客観的に見るきっかけになるのかもしれません。
三島有紀子監督は、「社会、世間に尺度を置いている人が多いように思うんです。(中略)そういう流れの中で、ラブストーリーというエンターテインメント性にのせて、自分は何者で、どう生きたいのかという個人の生き方を問う映画にできたらと考えた」と語っています。塔子の行動の賛否ではなく、その先にある「生き方の選択」が、この作品のテーマなんだなと理解しました。
一方で塔子の同僚役で登場する柄本佑さんは、「現実にはやってはまずい事、だけどちょっとどこかで憧れてしまうというところもある。だからそれを僕たちが演じ、皆さんに見ていただき、憧れて、2時間、この恋愛を味わってもらえるといいなと、映画はそういう夢のあるものなんだと思います」とコメントを寄せています。ファンタジーとして見る、という視点もまた、いいですね。