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真の働き方改革とは何なのか?パン屋・寿司屋・すき焼き店の3つの事例と食品ロスの観点から

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
青果物は、決められた基準に合う統一の大きさのみが出荷され、B級品は出荷できない。(写真:アフロ)

安倍政権が今国会の最重要法案と位置付けている働き方改革関連法案が可決した。この議論については専門家に任せるとして、食品ロスの観点から、真の働き方改革とは何か、事例を挙げながら考え方を述べてみたい。

世界で生産される食料の3分の1を捨てている

FAO(国連食糧農業機関)が2011年、2013年に報告している通り、世界で生産されている食料のうち、重量ベースでおよそ3分の1に当たる13億トンが毎年捨てられている。先進国のみならず、途上国でも廃棄はある。田畑などでの生産から輸送、製造・加工、卸、小売を通って消費者に至るまでの一連の流れを「フードバリューチェーン」と呼ぶ。このうち、途上国では前半で廃棄が起こりやすく、先進国では後半で廃棄が多い。

SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)(国連広報センターHPより)
SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)(国連広報センターHPより)

2015年9月に国連サミットで採択された、2030年までの持続可能な開発目標、SDGs(エスディージーズ)の12番目のゴールでは、2030年までに、小売と消費レベルでの食料廃棄を半減する目標が立てられている。

SDGsの12番のゴール(国連広報センターHPより)
SDGsの12番のゴール(国連広報センターHPより)

世界各国で、様々な理由で廃棄が起きている。先進国では、これまでの大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄といった考え方を見直す動きがある。特にヨーロッパでその傾向が見られる。

だが、日本では、まだまだ「右肩上がり」のグラフを求め、たとえ廃棄があろうとも売上を伸ばそうとする企業があるのは否めない。

事例1、捨てないパン屋

食品の中でも、パンは廃棄が多い。パン専門店でも、百貨店でも、スーパーマーケットやコンビニエンスストアでもその傾向がある。

そんな中、それを覆したのが広島市のブーランジェリー・ドリアンだ。かつては8人の人を雇い、たくさんの種類のパンを焼いて、たくさん捨てていた。ある時、モンゴル人の友達に「それ、おかしいんじゃないの」と指摘される。「安売りするなり、だれかにあげるなりしたら?」と。その時は「仕方がないんだよ」と答えた店主だったが、ヨーロッパへパン作りの修行に行き、考え方が変わる。彼らは朝から昼までしか働かない。しかも、15時間働いている自分よりも美味しいパンを焼いている。帰国してからやり方を変えた。夫婦二人を基本に、パンの種類を大幅に絞り、北海道産の質の良い小麦粉を使い、その代わり副原料を減らして単価を上げ、リピート買いのシステムも作った。その結果、売上はキープしたまま、休みを増やすことができた。2015年夏からパンを1個も捨てていない。通称「捨てないパン屋」だ。

ブーランジェリー・ドリアンのパン(写真:ブーランジェリー・ドリアンHPより)
ブーランジェリー・ドリアンのパン(写真:ブーランジェリー・ドリアンHPより)

事例2、回さない回転寿司

回転寿司は、あらかじめ一定回数回転すると、廃棄する。経営統合の件で報道された元気寿司は、そんなやり方を見直し、基本的に顧客が注文してから出すようにした。新幹線型の入れ物に寿司を乗せ、レーンを走って客の前まで運ばれる。この形式に変えた全国80店舗以上の店は、売上が1.5倍に伸びた(2017年5月時点)。食品ロスも当然減った。通称「回さない回転寿司」だ。

事例3、100食限定・売り切り御免

飲食店は、朝の買い出し、仕込みから始まり、夜までの長時間労働になりやすい。京都市の佰食屋(ひゃくしょくや)は、百食限定だ。15時ぐらいに閉店する。従業員は、そのあと、まかない(食事)を食べて、翌日の仕込みをして帰宅する。長時間労働じゃないから、家族の介護をしている人も、ひとり親家庭の保護者も、障害のある人も、働き続けることができている。これこそ、持続可能だ。

野菜の切り方を間違えたり、卵にヒビが入ってしまったりしたものは、通常、飲食店では廃棄する。だが、佰食屋は「捨てたら心が痛む」から捨てない。従業員のまかないにする。

京都・佰食屋、3店舗あるうちの1店舗、すき焼きを提供するお店の外観(筆者撮影)
京都・佰食屋、3店舗あるうちの1店舗、すき焼きを提供するお店の外観(筆者撮影)

食品ロス削減は働き方改革そのものだ

上に挙げたどの事例も、食品ロスを減らし、売上をキープし、従業員の休みを確保している。これこそ、働き方改革だ。

農産物も廃棄されている。世界中で栽培されている農産物の多くに規格がある。粒の大きさは揃っていないといけない。ネットに入れて売るオクラはネットから出てしまう大きさではいけない。バナナチップのバナナも規格から外れれば廃棄。たくさんの農産物が、厳格な規格のために捨てられる。自然の農産物が100%規格通りに育たないのはわかっているので、必要量より多めに栽培する。そうしないと、「厳格な規格に合う必要量」が確保できないからだ。

冒頭に述べた、世界の食料生産量のうち、3分の1を捨てているという事実。こんなに捨てるなら、最初から作らなければ、働く人たちはどんなにラクだったか。

「24時間営業やめた“ロイホ”が増収の理由 余裕ある営業時間で接客レベル向上」(プレジデントオンライン)という記事があったが、営業時間を減らして収益が上がるのは当然の流れだと思う。従業員を疲弊させる姿勢は持続可能ではない。

「日本の通勤地獄が労働生産性を下げている?試算損失額は1日あたり1424億円」(ニューズウイーク日本版)という記事もそうだ。モノだけじゃない、従業員こそ疲弊させずに持続可能でなければならない。そのためには、食品はじめ、物を作り過ぎない、売り過ぎないということだ。「足るを知る」。

われわれ消費者も「買い過ぎない」

企業が大量生産・大量販売を止めるには、われわれ消費者も「買い過ぎない」。時には量より質を求める姿勢も大事だろう。

真の働き方改革とは何なのか。それぞれの分野の人に問いかけたい。

参考記事:

働き方改革を実現した京都の飲食店と広島のパン屋の2つの事例

なぜシングルマザーや障害者も働くことができるのか 一日百食限定、京都女性社長の店から働き方改革を問う

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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