鉄道会社での顔認証技術はどう活用すべき? 防犯とプライバシー問題、それとも「顔パス」か
顔認識、あるいは顔認証の技術は、近年多くの場所で活用されている。セキュリティのための技術として注目される一方で、個人のプライバシーとの兼ね合いも課題になっている。
波紋を呼んだ報道が、最近『読売新聞』であった。
駅防犯に出所者などの顔情報を登録して検知
9月21日付『読売新聞』朝刊は、JR東日本は7月から、顔認識カメラを使用して刑務所からの出所者などを検知する防犯対策を行っていると報じた。過去にJR東日本の駅構内で重大犯罪をし、服役した人や、指名手配中の容疑者、不審な行動をとった人を検知するという。
この報道が出た後、出所者や仮出所した人の検知を取りやめると発表した。
もともとJR東日本は、7月6日に東京オリンピック・パラリンピックのテロ対策などを理由に、顔認識カメラを導入し、不審人物や指名手配中の容疑者の検知を行うと公表していた。JR東日本の駅構内で重大犯罪をした人については公表していなかった。これについては「被害者等通知制度」で検察庁から情報提供を受けることになっており、登録者はまだいなかった。
報道を受け、出所者などの行動の制限や、プライバシー権の制限に当たるという指摘が多くあった。容疑者や不審者の顔検知は続けるという。
このことについては、ネットではさまざまな意見があった。多くは、JR東日本の顔検知の方針に賛成するものである。そういったことが行われないと安全に駅を利用できない、という理由が中心となっている。
筆者は、防犯対策として駅構内で顔検知技術を使用することは、一民間企業の枠組みを超えていると考える。不審人物の検知は監視にしかすぎず、指名手配中の容疑者の顔検知についても、ある種の中立性を要求する「公共交通機関」としては、過剰であると考えられる。もちろん、容疑者を逮捕しようとする警察側が街中に監視カメラを多く設置している現状を理解できないわけではないのだが、鉄道会社にそこまでの対応を要請するというのは無理がある。「公共」イコール「国」でも「警察」でもなく、「公共」という言葉の扱う領域はもっと広い範囲のものである。これが社会的合意を得にくい、というのは仕方がない。
顔認識、あるいは顔認証の技術は、もっと有用性のあるところで使うべきではないだろうか。防犯対策こそ、その権限を持っている警察に任せることが大事だ。鉄道には鉄道警察隊もおり、鉄道での防犯対策に力を尽くしている。ここは業務の役割分担こそ大事にすべきであり、JR東日本が防犯をになうというのは無理がある。
いっぽう、顔を認識する技術を鉄道らしい目的で活用する鉄道会社もある。
改札を「顔パス」は可能なのか?
JR東海は9月30日、顔認証技術を活用したサービスの実現可能性を検証するため、東海道新幹線の品川駅と名古屋駅の一部改札機で、「顔パス」技術の実証実験を、一部社員を対象に、11月12日から開始すると発表した。
実験では一部の改札口を使用する際、顔認証で一部社員かどうかをチェックし、登録してある人かどうかを確認する。なお今回は、ICカードによる利用判定も行い、事前予約した利用日と区間の情報で改札機の入出場可否を判定する。
今回の実証実験では、一般の乗客が顔認証の範囲内を通過した際にも顔認証を行い、顔画像を取得し顔の特徴量を算出する。これらのデータは即時削除される。
なぜこのような実証実験を行うのか。JR東海の発表によると、現在は割引証の提出や証明書の提示が必要な利用者限定商品のネット販売やチケットレス化を行い、顔認証による改札機通過の実現可能性を検証するために必要なデータの取得や課題の抽出を行うためだという。「ジパング倶楽部」や障がい者割引、学割などが想定される。
むしろこちらのほうが、鉄道会社としての顔認識、あるいは顔認証技術の活用として適切である。
顔認証技術を使用した鉄道の乗車システムは、パナソニックと山万が実証実験を行っている。山万ユーカリが丘線の全6駅の改札に認証システムを導入し、本人確認を行って改札を通す。9月15日に実証実験が開始された。システムは路線検索大手ジョルダンのチケット管理システムを使用する。
あらかじめ顔画像などを専用のスマートフォンアプリに登録し、改札を通る。山万ユーカリが丘線では交通系ICカードは使用できず、これまでは紙のきっぷを買うしかなかった。
またこの地域の路線バスでもタブレット型の顔認証システムを導入しているため、同様のシステムが使用できる。
公共交通機関の顔認証システムの利用については、こちらのほうが適切なのではないか? 乗客の利便性を高めるために新しい技術を活用すると考えるほうが、技術の使い方としてポジティブなのではないだろうか。