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公務員失格な政府与党、ゆ党、官僚たち―入管法改悪案、修正も意味がなく

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
国会前で行われた入管法改悪に反対する集会 ウィシュマさんの遺族達も参加

 入管法改定案*が28日、衆議院の法務委員会で強行採決された。同案は、難民認定申請者を送還できるようにする、帰国を拒む人に刑事罰を科せるようにする等を規定しているが、難民認定率が諸外国に比べ異常に低く、日本人と結婚した人や日本で生まれ育った子ども等にも在留を認めないことが多々ある中で、深刻な人権侵害をもたらすと懸念される。同法案の衆院法務委員会での強行採決が意味するのは、これに賛成した自民党や公明党、日本維新の会、国民民主党の人権に関する姿勢が国際標準に達していないこと、そして、そもそも、法律というものへの理解が極めて低く、立法を担う者として不適格だということだ。他方、立憲民主党の中にも、本法案の修正協議に加わった議員もいたが、そもそもの法案の骨格部分が上記のように非常に問題があった上、修正案も不十分なものであった。

*今回の法案は「改正ではなく、むしろ改悪」との批判も高まっているため、本稿では「入管法改定案」と表記する。

〇法律をつくる者として不適格

 政府与党や、また法務省及び入管(出入国在留管理庁)の根本的な問題として、法律における原則を無視しているということがある。それは、政権に媚びへつらうことから、野党ではなく、与党でもなく、「ゆ党」だと言われるところを遺憾なく発揮し、今回の強行採決に賛成した維新、国民民主も同様だ。ここで言う法律における原則とは、つまり、上位の法は下位の法に優先し、上位の法に反する法は無効だというものだ。また、日本国憲法第98条2項でも、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定されているように、条約や国際法は、国内法に優先する。そして、国連の特別報告者や同人権理事会の恣意的拘禁作業部会という人権やそれに関する法のエキスパートから、入管法改定案は、日本が締約している条約や国際法に反していると指摘されているのだ(詳しくは後述)。本来、政府与党や法務省、入管が上記の様な、条約や国際法をきちんと理解し、遵守するのであれば、入管法改定案が今回のような内容で国会に提出されること自体があり得ないことなのだ。つまり、政府与党及び法務省、入管は、条約・国際法を全く理解しておらず、法律をつくる者として、甚だ不適格であるか、或いは遵守するつもりがないのだろうが、それは上述のように憲法に反する。そして、それは公務員の憲法遵守義務(憲法第99条)にも反する。

〇国連からの指摘の内容

 さて、上述の国連からの指摘であるが、今月18日、国連人権理事会の専門家らは日本政府に対して共同書簡を送り、今回の入管法改定案が国際法、特に市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)に違反する恐れがあると指摘していることが、今月21日に公表された。これを受け、同日、ヒューマンライツ・ナウ、アムネスティ・インターナショナル日本、全国難民弁護団連絡会議などが、都内で記者会見を行った。それによると、主に、

1. 原則収容主義の維持

2. 新設された収容代替措置の問題

3. 司法審査の欠如

4. 無期限収容

5. 子どもの収容に関する問題

6. 難民申請者への送還停止効の解除の問題

 などが指摘されているという。

 順にこれらの解説を紹介すると、まず、1については、入管法改定案が、従来と同じく、難民その他帰国できない事情を抱えた外国人を、非正規滞在というだけで入管の施設に拘束(収容)することを前提とした制度であり続けていることが、身体の自由を原則とし、収容は最後の手段でなければならないとする自由権規約9条、世界人権宣言9条に違反しうることが指摘されている。

2については、在留資格を得られていない外国人(=非正規滞在者)の身内や支援者等が、非正規滞在者の状況等を入管に報告する「監理人」となることで、収容しないで在宅で送還の手続きを進めることを認めるとする、監理措置制度の導入を入管法改定案が盛り込んでいることへの懸念表明だ。監理人の負担が大きく、現実性が無いため、上記1と同じく、自由権規約9条、世界人権宣言9条に違反しうることが指摘されている。また、「そもそも、収容を正当化する理由がない場合には、収容代替措置が適用されてはいけない」とも指摘されている。

3については、入管施設での収容について司法審査がない点について懸念を表明。入管法改定案では、3か月毎に入管が監理措置の必要性を検討するとしているが、人の身体の自由を奪うことの判断は、入管ではなく裁判所が行うべきだとの指摘である。

4については、入管法改定案においても、従来通り、収容期間の上限が定められておらず、無期限収容となる可能性があることについて、共同書簡は懸念を表明。出入国手続きにおける無期限収容は恣意的拘禁にあたり、自由権規約に反することや、収容の期間の上限は法律によって規定されなければならないとも指摘されている。

5については、入管法改定案に、子どもの収容を禁止する規定が存在しないこと等への遺憾を表明しているとのこと。

6については、入管法改定案が、難民認定申請を3回行った者等に対し、難民認定申請者であっても、強制送還を可能とするものであることへの強い懸念だ。送還後に生命や権利が脅かされる可能性があり、拷問等禁止条約3条、強制失踪条約16条、自由権規約7条が保障するノン・ルフールマン原則に反することが指摘された。

 なお、日本の入管改定案について、国連の特別手続を通じて日本政府に書簡が送られたのは、2021年に続き、今回が2度目。2021年3月31日付の書簡において、当時、国会に提出された入管法改定案が国際人権基準を下回るものであるとして深刻な懸念が表明された。それにもかかわらず、ほぼ同じ骨格の法案を今回も法務省・入管、そして政府与党が国会に提出してきたことは、条約や国際法を遵守し、国際人権基準に沿った法案をつくろうという意志をもっていない、ということだろう。そして、それは上述したように、憲法を遵守するつもりがないということであり、公務員失格である。

〇意味をなさない修正案

 入管法改定案をめぐっては、衆院の法務委員会で、立憲民主党、特に同党の寺田学衆議院議員が法案の修正協議に参加した。ただし、上述の通り、入管法改定案の骨格部分が、そもそも国際人権基準に全く達しておらず、いくつかの重要な条約等にも反している中、修正案もほとんど意味をなさないものであった。これについては、入管問題に取り組む有志のネットワークである#FREEUSHIKUが、この問題の第一人者の一人である児玉晃一弁護士監修の下で、修正案が意味をなさず、入管法改定案を廃案にすべきであるかをまとめている。

 それによると、例えば、補完的保護、つまり法務省・入管の解釈による「難民条約上の難民」の定義には相当しないが、国際的保護が必要な事情を鑑みて在留を認めることについて、紛争難民や拷問の恐れ等も入るとの事だが、あくまで付帯決議であると指摘している。付帯決議には法的拘束力がなく、捨て置かれることが多いのだという。具体例としては、2004年の入管法改正で、参院で「被収容者の人権に十分配慮した処遇を行うとともに、仮放免の的確な運用に努めること」との付帯決議が入ったものの、それが全く実効性がないと指摘している。また、難民認定審査で、入管ではなく、第三者機関による審査を行うことを検討すると附則に書かれたことについても、あくまで「検討」するだけであり、検討する義務すらないという問題があると指摘。また、特に寺田議員が強調したのが、現在、非正規滞在者となっている子ども達201人に在留資格を与えることを修正協議合意の条件としたことであるが、そもそも在留特別許可は運用で行えるため、入管法の改定とは関係ないことだと指摘。むしろ、親の在留資格を認めず、子が成人してから、親を送還するという非人道的なことも入管側はやりかねないと危惧している。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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