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「青春18きっぷ」存廃騒動 なぜネットを揺るがす大問題になったのか?

小林拓矢フリーライター
各地の普通列車には「青春18きっぷ」利用者が多く乗る(写真:イメージマート)

「青春18きっぷ」の発売が、6月18日に発表された。普通列車乗り放題で知られるきっぷである。

 発売が発表される1週間ほど前から、ネットでは「この夏の『青春18きっぷ』は発売されるのか?」という疑問がいろんなところで湧き起こっていた。

 無理もない。なくなるかもしれないという話は何度も出てきており、この春の発売の際の告知には、春の「青春18きっぷ」の予定しかなかったのだから。

 例年、「青春18きっぷ」の告知をする際には、春・夏・冬をまとめて行ってきた。

 そのパターンが、今年は崩れた。

 それゆえに、「青春18きっぷ」はなくなるのではないか? という疑問を、多くの人に抱かせることになった。

「青春18きっぷ」廃止の状況証拠は?

 たしかに、「青春18きっぷ」廃止に至るだけの根拠となることは、多少なりともある。3月のダイヤ改正で、北陸新幹線の金沢~敦賀間が開業し、行きにくい路線が増えたことや、津軽線の一部が以前の豪雨でバス代行になり、廃止がほぼ確定している状態で、津軽二股駅と奥津軽いまべつ駅を利用する「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」をどうするか検討しなければならないことなど、「青春18きっぷ」にとって難題となっている状況が相次いでいる。

 そもそも、前身の「青春18のびのびきっぷ」が1982年3月に発売されたころに比べると、鉄道路線網の置かれた状況は大きく異なっている。この時代は客車による長編成・長距離の普通列車が多くの地域で走っていた。また、新幹線の並行在来線が第三セクターになる、という状況もなかった。そもそも、各地に長大な路線網を国鉄が有していた。

 その後、各地の路線網は消え、短編成・短距離の普通列車を乗り継がないと遠くまで行けないようになり、主要な路線も整備新幹線の延伸で「青春18きっぷ」をほぼ使用できないようになっていった。

 このあたりを考えると、「青春18きっぷ」の使い勝手は悪くなっているといっていい。

 それでも「青春18きっぷ」は発売された。

「青春18きっぷ」は、追加投資がほぼ不要

「青春18きっぷ」は、既存の普通列車に乗ってもらう、というきっぷである。地域によっては「青春18きっぷ」を使って乗る人のために増結をするということはあるかもしれないが、ほとんどの場合は「青春18きっぷ」対応の車両や人員を増やすということはなく、追加でなにかしなければいけないことはない。

 以前は臨時列車・団体列車用の車両を利用して「ムーンライト九州」などの夜行快速列車を運行したこともあったが、「ムーンライトながら」の運行終了後、そういった列車は見られなくなった。

「青春18きっぷ」利用者をターゲットにしたかつての夜行快速列車
「青春18きっぷ」利用者をターゲットにしたかつての夜行快速列車写真:イメージマート

 したがってもう、「青春18きっぷ」の利用者のためにJRがなにかする、ということは特段ないのである。

 それでも、「青春18きっぷ」の利用者は多い。数十万枚単位で売れるという話もある。数十億円の収入をJRグループにもたらすことになる。単にきっぷを発券するだけで、そんなに稼げるという商品である。必要なのは、きっぷ用の紙だけだ。

 JR各社にとって、おいしすぎる商品ではないだろうか。

「青春18きっぷ」の売り上げは、利用状況や路線の距離によってJR旅客各社に分配される。となるとこのきっぷは、置かれた状況が厳しい路線への補助にもなっているということもいえるのである。とくに、経営がしんどいとされるJR北海道やJR四国にとっては、馬鹿にできないものである。

「青春18きっぷ」の売り上げは厳しい状況のJR北海道にとって救いになっている
「青春18きっぷ」の売り上げは厳しい状況のJR北海道にとって救いになっている写真:イメージマート

発表時期の問題

 この夏の「青春18きっぷ」は、発売の発表が遅れたということは確かで、それがさまざまな憶測を生んだというのは正直なところである。筆者は、この夏の「青春18きっぷ」は発売されないのではないか、と思ってこのきっぷについての問い合わせメールをいくつかのJR広報担当者に17日の夕方に送った。すると、翌日18日になって発売が発表になり、プレスリリースを送っていただいた。例年は7月1日発売のところが、7月10日発売となったことくらいしか、違和感があるところはなかった。

 おそらく、細かいところの調整をしていたために発表が遅くなったのであって、存続か廃止かを議論していたのではないと考えられる。発券すればするほどもうかるきっぷであって、億単位の売り上げは馬鹿にできない。

 ただ、冬の「青春18きっぷ」については未確定な部分があり、発売のスケジュールはまだわからない。

 JR全体で調整しなければならないことが多々あり、それゆえに今回の発表は遅れ、冬もどうなるか未定、というところはある。

 次回からは、なるべく早く「青春18きっぷ」発売の告知を、JR各社には出していただきたい。

「青春18きっぷ」は、廃止したら反発も強く、巨額の売り上げを失うものである。JR各社にとっては、残したいもののはずだ。

 ネットでの大騒動は、廃止されたときの反発をすでに予感させるものがある。多くの人が「青春18きっぷ」を実際に使うので、そのために騒動になったといえる。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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