司馬遼太郎、小津安二郎、小松左京から日本国家のあるべき姿を探る
フーテン老人世直し録(195)
睦月某日
正月に片山杜秀著『見果てぬ日本』(新潮社)を読んだ。片山氏にはこれまでも『未完のファシズム』、『国の死に方』などの著作で刺激を受けたが、本書は司馬遼太郎、小津安二郎、小松左京の3人を取り上げ、その戦争体験とそこから導き出された思想、そして現在の日本国家の在り方を論じてこれまた刺激的である。
片山氏が最初に取り上げるのは日本を代表するSF作家小松左京である。その著作『日本沈没』はあまりにも有名で映画でも大ヒットした。また大阪万博や花と緑の博覧会のプロデューサーとしても知られ、科学の進歩による日本の未来を考えた人である。
小松左京は満州事変の年に生まれ14歳で終戦を迎えた。物心ついてからずっと戦争の中にいる。中学生になると勤労動員に駆り出され、辛い労働も日本の勝利を信じて働いた。広島に原爆が落とされた時、大学生の兄からそれが最終兵器であると教えられたが、敵が完成させたのなら日本も間もなく完成させると信じていた。
しかし戦後になって総力戦の内実が非合理な精神主義だけだった事を知らされる。日本人にはギリギリの苛烈さに耐え生き残りを模索する力がない。地続きの国境線を持つ大陸国家には民族皆殺しを覚悟する歴史があるが、日本人にはやり過ごせば何とかなるという島国特有の「甘えの構造」がある。
本気の総力戦をやらなかった日本国家に対し小松は、戦後日本は科学文明に立脚する平和主義的産業国家としてギリギリの総力戦をやらねばならぬと考える。それが小松のSF文学を生み出す。だから『日本沈没』は日本人を極限に追い込み、島国が沈没する事で日本人はようやく世界に羽ばたく。他の代表作『復活の日』も『さよならジュピター』も日本人には苛烈な試練が課される。
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