広告を出すならYouTube型ではなく「龍が如く」型を目指そう
7月8日、株式会社ガイエは「プロダクトプレイスメントに関する認識、実態把握調査」の結果を発表した。
調査では「テレビCM」「Web・インターネット広告(動画以外)」「動画広告(YouTube、TikTokなど)」「合成画像を広告要素として商品・商材をシーン内に入れる広告」「映画館などで本編前などに上映される広告」の5つの広告それぞれに対し、15歳~69歳の視聴者が持つ印象を調べた。すると、32.3%もの視聴者がYouTubeやTikTokなどの動画広告を、22.7%が動画以外のWeb・インターネット広告を「不快である」と感じたようだ。
2021年度のYouTubeの広告収入は、実に288億ドルにまで達しており、年々勢いを増している。一見すると好調に見える事業だが、実際には視聴者を不快にさせているのだから、新たな広告手法が現れたときには一気に縮小する可能性がある。実際、テレビや映画などと異なり、視聴中に予見なく何度も広告を差し込んでこられると、結構イラっとする。だからYouTube Premiumに誘導もできるのだろうが、それはもはや広告ビジネスではない。
一方、「合成画像を広告要素として商品・商材をシーン内に入れる広告」については、10.4%しか不快と感じないようだ。ようするにコンテンツ内に商品を登場させる広告のことだが、これは5つの広告のうち、最もネガティブな印象を受けないことになる。しかも、商品や企業の認知度向上に関して、YouTubeなどの動画広告と同等のスコアをたたき出しているのだ。もしも既存のインターネットメディアの動画広告市場を破壊するのだとしたら、このあたりから生じる手法が最有力候補であろう。
弱点はある。現状最も有力な広告はテレビCMであり、例えば商品や企業の認知度向上に関しては35.6%と、動画コンテンツ内に合成した広告の16.5%と比べると大きな差が開いている。また、広告が不快だと感じた視聴者も11.2%であるから、広告効果はテレビCMのほうが高い。これは、テレビを視聴する層が比較的高齢であることも理由の一つだが、インターネット広告の効果を高めなければテレビCMには追い付けないこともまた、事実である。
ところで近年では、イノベーションとデジタルは密接に結びついている。どうやら広告の分野においても、デジタルによるビジネス変革が生じる気配がありそうだ。概況について述べることで、何か新しいアイディアを創出する機会となれば幸いである。
プロダクトプレイスメント
映画やテレビ等の映像コンテンツ内に、広告や商品情報を入れ込む手法は従来頻繁に使われている。これをプロダクトプレイスメントという。1950年代半ば頃から活用され始めた手法であり、例えば映像の背景に商品を配置したり、主人公に身につけさせたりして、企業や商品の認知と魅力の向上を促す。
例えばアニメ業界ではよく見られ、おそらく最も有名なのは『ポパイ』のホウレン草であろう。コミックは1929年、アニメは1930年代から始まったのだが、当初はホウレン草以外の野菜も食べていた。それもそのはず、『ポパイ』のスポンサーは全米ベジタリアン協会であり、菜食を促すためのキャラクターだったからだ。いつしかパワーの源がホウレン草に定着し、ポパイの人気とともにホウレン草の魅力も向上した。
日本でも『エヴァンゲリオン』に登場するヱビスビールや獺祭などは、同手法の一種である。また、ジブリ映画でも高畑勲作品の『火垂るの墓』ではサクマ式ドロップスやカルピスが、『おもひでぽろぽろ』ではプーマやバービー人形、銀座の千疋屋や熱海の大野屋などが登場する。ジブリの場合はストーリーにも食い込んでくるため、広告効果が高かったことが推察できる。
アニメなどは、製作の前にスポンサーを募っておかなければ、映像内に広告を入れ込むことはできない。しかしゲームの場合では、後で広告を差し込むことも可能となる。例えば、リアルに再現された街並みを主人公が闊歩するアクションアドベンチャーゲーム『龍が如く』などは、最初にメインストーリーさえ組んでしまえば、後から再構成が可能である。ドン・キホーテや富士そばのように街中に店舗を配置してもよいし、RIZAPのようにサブストーリーを取り入れてもよい。
同様の考え方は、CGの活用により映画でも徐々にみられるようになった。ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが製作した映画『スパイダーマン』では、ニューヨークの実在の建物がCGで再現されているが、映画内では屋外広告が実際の広告とは別のものに差し替えられている。米国の判決では、これは商標権の侵害ではなく、言論の自由の範疇と認められている。
このような、撮影後の映像に広告を差し込むデジタル技術を、デジタル・プロダクトプレイスメントやデジタルプレイスメントという。この技術が発達すれば、対象のスポンサーに対して広告コンテンツをイメージさせやすくなり、また制作終盤に最新の商品広告へと差し替えることも可能となる。あるいは、ファンが許すかどうかはさておき、過去の映像に手を加えることもできる。かなり柔軟な広告運用が実現されるのが、デジタルプレイスメントなのである。
個人のアイデンティティに着目せよ
技術の発達により、映像コンテンツ内にあまりにも自然に商品情報が差し込まれたとき、広告効果が低くなってしまうのではないかという懸念がある。
上記の調査でも「合成画像を広告要素として商品・商材をシーン内に入れる広告」は、広告が不快でない一方、商品やサービスを人に共有したくなる割合は8.5%、買ってみたくなる割合は7.7%と最低であり、情報が詳しく伝わる割合については6.5%と、他の広告に比べて著しく低い。まさにこれは、たんに画像の中に差し込んだことで生じた問題であり、周囲に溶け込んでしまい、意識されなくなったことが原因である。
解決策は講じてきた。つまり、ポパイやエヴァンゲリオン、龍が如くなどと同様の手法をとればよいのである。強いポパイは子供たちのヒーローであり、パワーアップの秘訣はホウレン草を食べることだ。ミサトさんのヱビスビールはエヴァの世界に入り込むための飲料であり、真っすぐな漢である桐生一馬のようにサラリーマンたちは振る舞いたいのである。
人が何かを所望するのは、それを知っているからではなく、何らかの欲求を満たしたいからである。現実の自分とは異なる理想を目の当たりにしたとき、どうにかしてそれに近づこうとする。燃費のかかるフェラーリはエコカーよりも高価であり、芸能人御用達のバッグは職人の作製するバッグよりも売れてしまう。人は確固たる自分を築きたいのであり、自分自身の価値を高めてくれるものを欲しがるのである。
夏目漱石の『三四郎』には「日本より頭の中の方が広いでしょう」という一節がある。デジタル世界は、少なくとも我々の認知する宇宙よりも遥かに広い。ゆえにまた、どこまでもビジネスの可能性が広がっているのである。デジタルプレイスメントの技術は今後も発達していく。メタバースやデジタルツインといった概念もまた、広告ビジネスの発展とともに深化していくのである。