最後まで奇妙だったSMAP解散報道──徹底的に独自取材を避けるテレビ局
マスコミと世論の温度差
お盆の日本を大きく騒がせたSMAP解散の正式発表から、数日が経過しました。その結果を残念に思う声が各所から上がっています。一方ネットでは、スポーツ新聞やテレビ局などの報道に対する強い批判・不満も多く見られます。それは、報道の論調があまりにもジャニーズ事務所側に偏っているという内容です。
その批判・不満にはうなずけるところも多々あります。今回もそうですが、1月の解散騒動の際も、どう見ても独立を志向した4人にとって不利となる報道が多く見られたからです。たとえば、以下がそうです。
これは『SMAP×SMAP』での“謝罪会見”から2日後の記事です。4人を“造反組”としたり、幹部からの圧力をほのめかしたり、かなりの偏りが見られます。まるで4人を脅し、業界人に釘を刺すようにも読めます。
同時にそこからは、世論を強くコントロールする意図もうかがえます。SMAPファン以外のひとには、まるで4人が悪者のように感じられるかもしれません。
こうした論調の記事が、サンスポだけでなく一連の報道の火付け役となったスポーツニッポンや日刊スポーツなどでも見られます。それは、今回の正式発表についての報道でも同様です。
マスコミとジャニーズの共犯関係
スポーツ新聞でこうした報道が続く理由は、それほど複雑なものではありません。その情報源の多くが、おそらくジャニーズ事務所だからです。「SMAP解散」という大ネタをリークしてもらうかわりに、事務所の姿勢は批判できないのです。そこには、「情報を売る商売」としての経済合理性はあると言えます。
しかしそれは、報道を生業とするマスコミとしては原則的にあってはならない姿勢です。それは内容があまりにも偏っているからではなく、リークされた情報をしっかりと分析したうえでフェアに判断した様子がうかがえないからです。
もちろんスポーツ新聞にとって、メインコンテンツはスポーツ報道です。芸能ネタはあくまでもサブ的な扱い。スポーツ紙は芸能を“報道”としては軽んじており、それゆえ芸能プロダクションにとっても御しやすいわけです。両者には、お互いプラスとなる共犯関係にあるわけです。
SMAP解散報道では、テレビ局もスポーツ新聞の報道に追従しました。テレビ局は、まるで思考停止するかのようにスポーツ新聞の内容を紹介し続け、それをもとに論調を組み立てました。事態を独自に検証するような姿勢ははあまり見られません。ワイドショーでは、ふだんはやっている当事者への直接の取材などはいっさいせず、まるでスポーツ新聞にすべての意見を代弁してもらうかのようです。
無論これは、テレビ局にとってSMAPをはじめとするジャニーズのタレントが、彼らのコンテンツ(番組)にとって重要なプレイヤーだからでしょう。なかには、スポーツ新聞の芸能記者を呼んで解説してもらう番組もあるように、テレビ局サイドは突っ込んだ話をあまりしません。SMAP解散を伝えながらも、積極的に報道としての役割を果たそうとしていないのです。
「情報源ロンダリング」
こうしたスポーツ新聞とテレビ局との間では、「情報源ロンダリング」とも言うべき現象が生じていることも推察できます。冒頭で紹介したサンケイスポーツの記事もそのひとつでしょう。そこでは、『SMAP×SMAP』での“謝罪会見”の舞台裏が以下のように説明されていたからです。
この記事では「複数の関係者」とあるので、ジャニーズ事務所以外の情報源も考えられます。となると、番組の裏側を伝えるこの内容なので、状況的にもっとも可能性が高いのは当然テレビ局です。
また、サンケイスポーツを運営する産経新聞社は、「フジサンケイグループ」の一角です。日頃から協力関係を築いているグループ会社です。となると、この記事はフジテレビか製作会社の関テレのスタッフを情報源としている可能性が高いのです。
たとえば、私自身も過去にフジサンケイグループのある媒体の仕事で、政治に関する記事を書いたことがあります。そのとき、編集部からは当然のように産経新聞の協力を仰ぐように指示され、実際に電話取材をしてその内容を記事に落とし込みました。
ここで注視しなければならないのは、こうしたサンスポの報道をフジテレビが紹介する循環も生じていることです。実際にこの日(1月20日)の朝、フジテレビの『めざましテレビ』ではサンスポの内容を伝えています。
つまり、
[フジテレビ内部の情報源]⇒[サンスポ記事]⇒[『めざましテレビ』]
という奇妙な循環が生じていると推察できます。そこでは情報源をひた隠す、「情報源ロンダリング」が考えられるわけです。
もちろん、マスコミが情報源を秘匿することは珍しくなく、それは必要なことでもあります。特に問題の告発などでは、それによって情報源に不利益が生じたり、あるいはプライバシーを著しく傷つけられたりすることがあります。ですから、情報源の秘匿自体を否定することはできません。
ただし、『めざましテレビ』は、その前日の1月19日には『SMAP×SMAP』会見の舞台裏を映像も含めて報道しています。今回の一連の報道では珍しく、独占取材をしているのです。加えて、両番組は相互に協力できる関係もあると言えるわけです。
ですから、サンスポの紙面を読み上げるのではなく、「われわれの取材では……」と独自の報道もできたはずです。しかし、それをせず一人称をひたすら避けるかのように「スポーツ新聞では……」と報じるのです。
これは明らかに不自然です。
こうした状況は、今回も続いています。SMAP解散の正式発表から2日後の8月15日のフジテレビ系『直撃LIVE グッディ!』には、一連の報道を先導してきたスポーツニッポンとサンケイスポーツの芸能記者が揃って出演し、今回の件の解説をしていました。複数のスポーツ紙の記者がいっしょに出演するのは、非常に異例です。そこからも、自らの口では決して語りたくないという、テレビ局の強い志向が感じ取れます。
“しょせんは芸能ネタ”扱い
ここまで見てきたように、スポーツ紙やテレビがこうした立場を採るのは、ジャニーズ事務所との利害関係があるからだと推測されます。それが“報道”としての役割を成していないことも指摘してきました。
筆者の独自取材では、ジャニーズとフジテレビがかなり意図的に情報をコントロールしようとしていた状況が明らかとなりました。1月18日の『SMAP×SMAP』の“謝罪会見”は、その直後にNHKも含めた他局のニュースでもいっせいにその映像が使われて報じられました。当日中どころか、番組から1時間も経たないうちに他局の映像を使うのは、非常に異例です。
あるテレビ局の関係者によると、“謝罪会見”当日、各マスコミがフジテレビに番組内容の問い合わせをし、それを受けてフジテレビから映像の使用が持ちかけられたそうです。条件としては、映像の使用は翌日の19日いっぱいまでで、各局の生放送番組で各1回まで使用可能(繰り返し流すのは不可)というもの。
また、映像は電送ではなくお台場のフジテレビ本社でVTRを直接手渡しし、料金はダビング手数料のみでした。つまり、放映権料はとらなかったわけです。
これはかなり意図的な戦略だと捉えられます。つまり、映像を貸し出すことでフジテレビ側は取材を受けることを回避したわけです。筆者が取材したテレビ局関係者も、「今回は、完全に報道引用のもとの晒しあげです。テレビの仕事を長くしてきましたが、こんなことは異常ですよ」と苛立っていました。
もちろん、こうしたマスメディアの報道を批判する向きもありました。雑誌やネットメディアがそうでした。雑誌では、ジャニーズとの利害関係が弱いところは自由に書いていました。
たとえば、経済誌の『PRESIDENT』は芸能界システムの解説について筆者に依頼しましたし(同誌2016年2月29日号「なぜ日本の芸能人は「独立」ができないのか」)、そもそもこの一連の騒動のきっかけも、2015年の『週刊文春』の記事でした。ネットでも日本最大手の『Yahoo!ニュース』で筆者が率直な記事(たとえば「テレビで「公開処刑」を起こさないための“JYJ法”」)を書いていたように、かなり自由な言論が見受けられました。
一般向けの大手新聞は、媒体によって立場が分かれていたと感じます。朝日新聞は幾度か正面からこの問題に向き合った記事を載せましたが、他紙はそもそも扱いが大きくありませんでした。政治や社会のネタに比べても、関心が弱いことは明白でした。それは、この問題が“しょせん芸能ネタ”だと捉えられていたからだと想像されます。
実際、筆者も1月に解散騒動についての記事を発表した際に、信頼を置く同業者から「なんでお前がSMAPのことなんて書いているんだよ」と言われました。それは、私がSMAPファンでもアイドルファンでもないからでもありますが、同時に“しょせんは芸能ネタ”という感覚も持たれていたのだと思います。
それは、私に言わせれば非常に浅はかな考え方です。SMAPに生じたのは、日本の芸能界を象徴するかのような問題であり、それはつまり、音楽、映画、ドラマ、演劇、テレビ番組などと関係してくる、日本文化の問題です。たしかに、SMAPやジャニーズが関係する音楽や映画にまったく興味がないひともいるでしょう。しかし、それは日本の文化産業全体の今後にも影響してくる重大な問題なのです。
この一連の騒動における朝日以外の一般紙の関心の低さには、どうしても文化を軽んじた姿勢が感じられてならないのです。
ジャニーズの強圧姿勢の恩恵
冒頭でも触れたように、こうしたマスメディアとネットを中心とする世論には、明確な温度差がありました。確かにこの一連のSMAP解散報道には問題があり、ファンを中心とする多くのひとは疑問を持っています。
たとえば、『週刊女性』2016年2月9日号では、1月の“謝罪会見”に94%が「納得しない」と回答しています(回答総数1273名)。そもそも問題意識を持ったひとが回答している可能性も高いので、この結果にはバイアスが加わってることを勘案しなければなりませんが、それを差し引いても大きな差がつくことが予想されます。こうした結果は、これまでなかなか表沙汰にならなかったジャニーズ事務所の強圧的な手法を視聴者が目の当たりにしたからこそ生じているのでしょう。
芸能人の人気は、しばしば認知率と誘引率で計られます。認知率とは、どれほど知られているかということ。誘引率とは、とどのつまり人気の度合いです。SMAPは、グループもメンバーもこの両者がトップクラスなのは言うまでもありません。ただ、誘引率(人気)は、認知率が高まらなければがなければ決して上がりません。当然ですが、存在が知られなければ誰も好きになることはないからです。
ジャニーズは、ライバルとなる男性グループの認知を抑圧してきたことが、しばしば囁かれてきました。事実、ゴールデンタイムの老舗音楽番組には、人気のある複数の男性グループが出演できないままになっています。筆者も10年ほど前、取材した音楽関係者から「男性グループは、日本ではハードルが高いんですよ」と漏らされたことがあります。
ただ、そのときどれほどジャニーズがテレビ局を締め付けているかも、実際のところはわかりません。誰も裏を取れないからです。逆に日本のテレビ局の場合は、ジャニーズに過剰な忖度をしていた可能性もあります(「忖度(そんたく)」=他人の気持ちを推し量ること)。ジャニーズのご機嫌を損ねないようにした過剰に気を回した結果、自主規制をしている可能性もあるのです。
なんにせよそれで生じたのは、ジャニーズ事務所がますます力を強めたということです。そしてこのときジャニーズのトップを走り続けてきたのがSMAPです。言うなれば、ジャニーズの強い業界内権力があったからこそ、SMAPはここまで大人気になったのです。もちろんメンバー個々人の能力はとても高かったですが、認知のための仕事を得るチャンスが多かったのです。
よって、世論がジャニーズ事務所やマスコミに対して批判・不満を抱くのであれば、これまでの反省も必要となります。状況としては、強圧姿勢で強力となったジャニーズが、強圧姿勢でSMAPの人気を高め、しかしSMAPはその強圧姿勢から脱しようとしたことをきっかけに解散に至ったわけですから。
今回のような一件を繰り返さないためには、それをSMAPだけの話として終わらせてはならないのです。