京都市立芸術大学と京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)の商標登録出願の現状
京都造形芸術大学(学校法人瓜生山学園)の京都芸術大学への名称変更に対して、京都市立芸術大学が差し止めを求めていた裁判(関連過去記事1、関連過去記事2、関連過去記事3)の地裁判決が出ました(参考記事)。
訴状にも判決文にもアクセスできないので記事から類推することになりますが、おそらくは以下のような状況と思われます。
- 裁判は不正競争防止法によるもの(提訴の時点では商標は登録されていないので商標権侵害訴訟にはなり得ません)
- 「京都市立芸術大学」という名称およびその略称(「京都芸大」「京都芸術大学」)は著名ではないとの裁判所判断
- 「京都市立芸術大」と「京都芸術大」の混同のおそれはないとの裁判所判断
京都市立芸術大側は、1)「京都市立芸術大」は周知であり、かつ、「京都市立芸術大」と「京都芸術大」は混同のおそれがある(不正競争防止法2条1項1号)、2)「京都市立芸術大」は著名(「周知」よりも有名度が高い)であり、かつ、「京都市立芸術大」と「京都芸術大」は類似する(同2条1項2号)で攻めていたものと思われますが、いずれも認められませんでした。過去記事で触れた呉青山学院に対する青山学院の訴訟では「青山学院」という名称の著名性が認められましたが、今回はそういうことにはなりませんでした。
裁判については、判決文が公開されたならば追記します。以降、両大学の商標登録出願の経緯についてまとめます。
2019年7月11日 京都市立芸術大学 「京都市立芸術大学」「京芸」「Kyoto City University of Arts」を商標登録出願→問題なく2020年8月12日に登録
2019年7月11日 京都市立芸術大学 「京都芸大」を商標登録出願→訴訟が確定するまで審査中止するとの審査官通知
2019年7月17日 瓜生山学園 「京都芸術大学」を商標登録出願→同じく訴訟が確定するまで審査中止
2019年7月18日 京都市立芸術大学 「京都芸術大学」を商標登録出願→同じく訴訟が確定するまで審査中止
2019年8月27日 瓜生山学園 「KYOTO UNIVERSITY OF THE ARTS」「KUA」を商標登録出願→審査待ち
2019年8月30日 瓜生山学園 「瓜芸」を商標登録出願→審査待ち
京都市立芸術大学が控訴することは十分考えられますが、仮に地裁判決の内容で判決が確定したとすると、審査の中止状態が解除され、「京都芸術大学」については出願が1日早かった瓜生山学園側が商標権を獲得することになると思われます。一方、「京芸」については、京都市立芸術大学が既に商標権を確保していますので、京都芸術大学(瓜生山学園)側は商標としては使えません。「京都芸大」については、裁判で著名性が否定されたのでちょっと不確実性が増しました(東京芸術大学が権利者の先登録商標「芸大」と類似と判断される可能性が増したと思います)が、おそらく京都市立芸術大学側が商標権を獲得できるのではと思います。
ということで(今回の判決が確定するという前提で言うと)京都市立芸術大学と京都芸術大学は今後とも併存、ただし、「京芸」と言えば前者を指すというちょっとややこしい状況になります。とは言え、学校名の世界では「明治大学」と「明治学院大学」、「市立船橋高校」と「県立船橋高校」等々、微妙に紛らわしいものが併存するのは通常モードとも言えます。