孫正義氏発明の「キラー特許」について
昨年(2023年)10月時点のニュースによると、孫正義氏はイベントの講演において「(ソフトバンク)グループ全体で生成AI関連の特許をここ数カ月で1万件以上出願していることも明らかにした」とのことです。LINE等のグループ会社を含めた数字とは言え、1万件とは相当な件数ですが、特許出願は出願から1.5年経たないと公開されない(出願した事実すらもわからない)のでもう少し時間が経たないと真偽はわかりません。
そして、それ以前にも、2023年6月時点の記事には「この半年間に5つの特許事務所を通じて出願作業をおこなっているという。その数は630件、年内に1000件弱は発明を果たせそうだと語る。」と書かれています。これまた結構なペースです。こちらの出願(生成AIの話とはまた別です)は、時期的にそろそろ出願公開されつつあります。
本日(2024年7月25日)時点で、孫正義氏を発明者とする特許出願で2024年に公開されたものは164件ありました(出願人はソフトバンクグループ株式会社)。特許分類コードの上位は「道路上の車両に対する交通制御システム」、「イメージ分析」、「倉庫またはマガジン内における,物品の個々にまたは秩序だった貯蔵」、「マニプレータの制御」、「自律的な道路走行用車両に特に適合される運動制御システム」等です。自動運転関連出願が多そうです。なお、現時点で公開されている出願で、「生成AI」「大規模言語モデル」「LLM」「ChattGPT」等を含むものはありませんので、冒頭の生成AI関連出願の話とはまた別ということがわかります。
すでに出願審査請求(さらには、早期審査請求)が行われているものがあれば、孫氏がどの出願に重点を置いているかわかるのですが、いずれも審査請求前で寝かされた状態になっています(制度的には出願日から最大3年間寝かせた状態にできます)。また、対応する国際出願がされていれば重要性が高いと考えていることが推定できますが、ほぼすべての出願について国際出願した形跡が見られます。まずは思いついたら即出願、ビジネスとして物になるかは後で検討し、不要なものは出願審査請求せず(場合によっては公開前に取り下げして)損切り、1つでもキラー特許が生まれれば元が取れるという株式投資と同じような考え方なのでしょう。これは、一般企業でも学ぶべき考え方です。
ちょっとタイムフレームを変えて調べてみると、2023年および2022年に公開された孫氏発明の特許出願はありません(もちろん、ソフトバンクグループの出願はあります)。比較的最近になって孫氏の特許出願への熱意が急に高まったことが窺われます。先に引用した記事では、神田敏晶氏が「『ソフトバンク・ビジョン・ファンド』などで500数社のAI関連事業に出資してきているにもかかわらず、『OpenAI社』に出資できていなかったことへの後悔と悔しさがバネになっている」のではと分析されていますが、おそらくそういう要素はあるのでしょう。
さらに遡ると、2021年に2件、2020年に7件、2019年に2件と散発的に出願公開されています。AI関連の発明ではないですが、しれっと権利範囲が広そうな特許も登録されています。たとえば、2020年に登録された特許6731430号「情報提供装置、方法、及びプログラム」では、スマホで撮影したユーザーの画像から体型を推定して服を選んでくれるシステム(ここまではよくあるアイデアです)において、服のシワの画像から体型の推定を補正するというアイデアを特許化しています。知らないと侵害してしまいそうな特許という感もあります。最近のAI関連特許もこのような感じで思いついたアイデアを精力的に出願しているものと思われます。現在、チェック中ですが、特に興味深いものがあれば、Yahoo!ニュースやYouTubeチャンネル等で順次紹介していく予定です。