急増している鉄道の被災 2020年は鉄道網維持のための立法措置が必要だ
大規模な風水害や地震などにより、近年鉄道が被災することが多くなっている。被災した路線の中には、JR北海道の日高本線のように廃止が実質的に決まったようなところもあり、災害の鉄道網への影響が大きいことを感じさせられた。
昨年は台風19号により、北陸新幹線だけではなくJR東日本の各線や東武鉄道などが被災し、大きな影響を受けた。経営規模の小さい三陸鉄道や阿武隈急行は長期の運休になり、鉄道事業での損失も大きく、復旧が経営に与える影響も大きい。
鉄道維持に意欲を示さない2020年度政府予算案
そんな中、昨年の12月20日に2020年度予算案が閣議決定された。防衛費や五輪・観光対策に大盤振る舞いした予算であり、交通関連では羽田・成田の整備費や、道路網の整備、都市交通事業の強化等に予算を投じている。整備新幹線関連の予算も4,430億円計上され、北陸新幹線には2,750億円が投じられることになった。
一方で、近年懸念される、気候変動の過激化による風水害などの被害の事前対策である、地方の鉄道網の抜本的強化には目立つお金を投じようとしない。JR北海道の地元である北海道の『北海道新聞』でさえ、予算の報道では整備新幹線以外の鉄道の話が出てこない。
昨年の風水害による鉄道の被害を考えると、現状の鉄道のおかれた厳しさを前に、抜本的な対策をとろうとしていないのではと感じる。
公共交通を維持させず地方を切り捨て、災害が起こったらそれを機に廃線しバス網に移管させ道路網に依存させる、そしてそれをよしとするというのはある種の「ショック・ドクトリン」である。災害だから旧来の非効率な鉄道は廃止してもいい、維持できない鉄道網はそれを機になくそうというのは、一種の地域社会切り捨てであり、鉄道の公共性の放棄である。
そんな中、成長の可能性が見込める都市交通や、新幹線を中心とした予算措置を行い、一方で昨年相次いだ鉄道インフラの老朽化による交通網の被害を重要な問題として考えないというのは、安倍政権の鉄道への考え方というのがよく示されているというものである。
本来、鉄道というものは、どんなところが運営していようとも公共的な存在であり、その維持に対しては社会全体で考えなければいけないものだ。
一方でその公共的な存在である鉄道全体が老朽化し、気候変動による風水害に耐えられないという厳しい状況になってもなお、抜本的な対策が取られないということが現在の鉄道が抱えている悩みである。
どこの事業者も、売上と公的支援を使いながら、維持管理をなんとかしているというのが現状だ。それゆえ、災害への抜本的な対策を取る余力はない。しかし全国の鉄道網の維持のために、政治が力をつくしているとは言い難い。
鉄道の安定のために議員立法を
鉄道の安定維持のために政治は何をすべきか、といっても現在の安倍政権がそれに深い関心を払っているとはいいがたい。鉄道事業者の自助努力は、小規模事業者であるほど困難だ。
幸い、国会には鉄道に深い関心を持っている政治家がいる。たとえば石破茂衆議院議員(自由民主党)、前原誠司衆議院議員(国民民主党)、山添拓参議院議員(日本共産党)だ。
石破氏や前原氏は大臣経験もあり、山添氏は鉄道政策に熱心に取り組むことで知られている。
鉄道の維持は政党の枠を超えこの国全体に関わることであり、この国の公共市民社会と地域を守るためには必要なことだ。
現在ある鉄道網で、廃線になりそうなところでも維持することにより廃線を免れるようにしたい、というのは多くの地域住民の考えていることである。
鉄道網の維持のために、鉄道に関心を持つ議員が超党派で議員立法を国会に提出する、ということも必要なのではないか。
石破氏の政治的師匠・田中角栄は、多くの議員立法を成立させたことで知られている。田中は資金力だけでなく、独創的な政策を考え立法化させた政治家として知られている。そのことをもって後世に語り継がれるべき存在である。
鉄道の災害対策のためのお金も必要である。財源としては、電話のユニバーサルサービス料のように、利用者に一律負担させ、その負担をもって特定財源とするのが妥当だろう。都市部の自家用車使用者の自動車税を増税し、その増税分をもって地方の鉄道にお金を投ずる、という案も筆者の中にはある。
鉄道を守るために、鉄道に関心を持つ政治家はことしこそ具体的に動かなくてはならない。鉄道事業者の自助努力が限界になっている昨今、政治や社会の支援が必要だ。