一宮会場はアートと一緒に喫茶店モーニングも! 国際芸術祭「あいち2022」レポート
アートと合わせて一宮のモーニング文化も楽しんで
現在開催中の国際芸術祭「あいち2022」(7月30日~10月10日)。県内4カ所の会場のうち、前回は常滑会場をレポートしました。
当初は、筆者の郷里の常滑だけ紹介できたら、後は取材抜きで涼しくなってから…と思っていたのですが、旧知の広報担当者からこんなメールが。
「よかったら他の会場も紹介してください。一宮会場を回った東京などのメディア関係者から“せっかくモーニングサービス発祥の地・一宮に来たんだから、あれもこれもついてくるスゴいモーニングを体験したかった!”という声がたくさんあったんです」
コーヒーを頼むと自動的にトーストやゆで玉子がついてくる名古屋、愛知の喫茶店のモーニングサービス。一宮市はその発祥地といわれるのです。せっかく期待に胸膨らませて愛知まで来てくれるのですから、できる限り応えたいもの。アートめぐりの合間に地域独自の喫茶店文化も楽しんでもらえれば、芸術祭、さらには愛知の旅の満足度もグッと高まるに違いありません。
さながら奈良美智ミュージアムのオリナス一宮
さて、まずはもちろん芸術祭のレポートから。「あいち2022」一宮会場へは名古屋駅からJRまたは名鉄で10~14分。展示会場は、駅周辺の一宮駅エリアと、駅の西側に広がる尾西エリアに分かれています。駅周辺は徒歩でめぐり、尾西エリアへはバスで移動するのが便利です。
一宮駅エリアには、人気作家、話題のアーティストの作品が多く集まります。一宮市本町商店街が会場をつなぐメインルート。アーケード街なので直射日光を避けることができるのが、真夏の会期前半は非常にありがたく感じます。
駅から歩いて10分ほどで到着するのは、100年近く前のクラシックな銀行建築を活用したオリナス一宮です。ここはさながら“奈良美智ミュージアム”といった体で、油絵の大作や立体作品などを多数展示。多彩な奈良作品を堪能でき、一気に気分が高まります。
ポップな映像作品や地域や建物の成り立ちを活かした作品の数々
建物まるごとアートミュージアムのようなのが旧一宮市立中央看護専門学校です。閉校した看護学校の1~5階各フロアが展示スペースになっています。野性的なリズムに合わせた映像がくり広げられるケイリーン・ウイスキーの作品や、鑑賞者の動きに合わせてアニメーションが動き出す西瓜姉妹(ウオーターメロン・シスターズ)などのポップな映像作品は子どもたちも楽しめそう。他にも地元デパートとタクシーをモチーフとした升山和明のコラージュ画、解剖学標本に赤い糸などをはりめぐらせた塩田千春作品、地域のシンボルだった巨木を再現させた彫刻と喫茶店の映像を組み合わせた石黒健一のインスタレーションなど、地域の文化や看護学校という環境を取り入れた作品が多いのも特徴です。
すぐ隣の旧一宮市スケート場では、閉鎖したスケートリンクを丸ごと使った視覚・音響効果抜群のダンサーたちによるパフォーマンスを記録した映像作品を観られます。
この他、一宮駅エリアには、公衆トイレや公園の用具置場をカラフルにペイントしたバリー・マッギーのパブリックアート、一宮市役所のロビーにそびえる眞田岳彦による羊毛の樹木など、公共空間でアートにふれられるのも魅力です。
アートめぐりのメインストリートとなる本町商店街をまっすぐ南へ下ると豊島記念資料館。ここでは繊維の町・一宮ならではの織物の機械や道具が多数展示され、羊毛で織られた巨大な落下傘が吊り下げられます。防寒の衣類としても軍需品としても用いられた羊毛、愛護の対象としても、家畜としても飼われた羊。常に矛盾を内包する人間の営みについて考えさせられる空間となっています。
スケールの大きな作品に出会える必見の尾西エリア
尾西エリアは繊維の町・一宮ならではの工場跡や、貴重な建築を会場にした展示が点在。“のこぎり屋根”の旧毛織物工場「のこぎり二」は、「あいち2022」を象徴する必見の会場です。工場内に真っ赤な糸をはり巡らせた塩田千春のインスタレーションは圧巻です。
建築好きの人なら是非足を延ばしたいのが尾西生涯学習センター墨会館。巨匠・丹下健三の県内唯一の作品で、コンクリート製のモダニズム建築と、レオノール・アントゥネスの陶器、真鍮など様々な素材を用いた作品群が融合し、スケールの大きなアート空間がつくり出されています。
毛織物メーカー・国島株式会社の元工場はミニシアターに。ここでは中国の曹斐(ツァオ・フェイ)によるサイバーSF映画を上映します。98分と長尺の映像作品なので、あらかじめ上映時間や時間配分を考えた上で鑑賞しましょう。
一宮は会場、作品点数が多い上にエリアも広く、今回の「あいち2022」を代表する大作も観られる内容となっています。たっぷり一日をかけてめぐることをお勧めします。
“モーニング発祥の地”一宮の喫茶店文化
町を舞台とした芸術祭では、地域の産業や文化が多くの作品に関連づけられています。一宮では町の象徴である繊維産業が展示とも密接にかかわっていて、その成り立ちや変遷にも関心を向けると、作品に込められたテーマがより深く心に刺さってくるはずです。
さて、冒頭でもふれたように、一宮市は喫茶店のモーニングサービス発祥の地ともいわれます。実はここにも繊維産業とのかかわりが。コーヒーにトーストなどのおまけがつくモーニングサービスは、昭和30年代前半、この地の機織り工場界わいの喫茶店で生まれたとの説が有力なのです。当時、一宮はガチャマン景気(機織りがガチャンと鳴るたびに1万円儲かる)に沸いていました。全国から注文が舞い込み、商談はガチャガチャと騒々しい社内を避けるためにもっぱら近所の喫茶店が利用されました。そんな時、ある喫茶店がお得意様へのサービスとしてゆで玉子とピーナッツをつけた、これがモーニングの始まりといわれています。
2009年には商工会議所が中心になって一宮モーニング協議会を設立。「一宮モーニング」(公式サイトもあり!)は一種のご当地グルメとして積極的にPRされています。
そんなわけで、一宮に行くなら喫茶店のモーニングも欠かせません。「あいち2022」の会場は10時開場ですから、まずは腹ごしらえをしてアート鑑賞を楽しむのもいいんじゃないでしょうか。ここでは、立ち寄りやすい駅周辺の喫茶店や、他エリアから来る人が期待する“盛りだくさん”のモーニングを中心にピックアップして紹介します。
【カフェレストランICHIMO(イチモ)】
一宮駅の駅ビル内にある一宮モーニングのアンテナショップ。ドリンク代のみでトーストがつき(バター、小倉、ジャムが選べる)、+200円のホットサンドセット、和食の朝食セット620円など選択肢も豊富。トップ画像の一宮モーニングマップも配布しているので、情報収集するのにも便利です。
【グルメ有楽(うらく)】
駅から徒歩5分の一宮商工会議所内のカフェ&レストラン。名鉄グランドホテル直営だけあり、ホテル仕込みのクオリティの高い朝食を食べられます。和食と洋食を選べるのもポイント高し。ここを起点にする場合は、豊島記念資料館が最寄り会場になります。
【カナデアンコーヒーハウス】
昭和50年代に一世を風靡したカナディアンログハウスを活かした老舗喫茶。バター&ジャムトーストにピーナッツ、あられとボリュームはそれほどでもありませんが、営業時間中ずっとこれがつくのがうれしい。オリナス一宮から徒歩約15分と展示会場からはやや距離があるものの、空間も含めて足を延ばす価値のある一軒です。
【ピットイン】
朝5時オープン、一日中モーニング、手づくり茶碗蒸しと、ストロングポイントだらけの名物喫茶。トーストは希望すれば2枚つけてくれるというのも太っ腹。市の中心部からは5kmほど離れているので、車で一宮入りする人にはお勧めです。
この他にも、一宮モーニングマップ(観光案内所、商工会議所、ICHIMOなどで無料配布)ではおよそ100軒もの喫茶店のモーニングを紹介。HPで検索もできるので、アート散策だけでなくこちらも事前チェックしておきましょう。
国際芸術祭「あいち2022」のチケットはフリーパスが一般3000円、学生(高校生以上)2000円、1DAYパスが一般1800円、学生1200円(いずれも中学生以下無料)。詳細は公式HPで確認の上、購入・鑑賞してください。
(写真撮影/すべて筆者)