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交通整理のお巡りさん、ありがとう - 社会で守る子どもの安全

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

今朝、見た光景

 午前7時45分、出勤のために自動車に乗って自宅を出た。近くの踏切を渡った先に、大きな交差点がある。ちょうど信号が変わり、停止線の手前で止まった。私の車の前に、1台のバイクが止まっていた。バイクに乗っている人はヘルメットをかぶり、黒いジャンパーのようなものを着ていた。前方を向いているので、後ろ姿からは男性か女性かわからない。

 近くに学校があるため、たくさんの中学生が交差点を歩いて渡っていた。交差点の斜め前方の奥には、交通安全月間のためか、青い服を着た警官が立っていた。ふと、目の前のバイクを見ると、乗っている人の腰のあたりに動くものがある。何だろうと思って目をこらすと、小さな靴であった。ジャンパーのすそのあたりで、小さな靴だけが揺れている。大人の身体の右側と左側に靴が見え、靴の大きさから2-3歳の子どものようだ。靴のひも部分が見えているということは、子どもは大人の身体の前面に、大人と対面するような形で座っているらしいことがわかった。

 「危ないな」と心の中でつぶやいた。バイクのように不安定な乗り物に、そのような態勢で乗るのはとても危険だ。でも、車の中にいる自分にはどうすることもできない。「しょうがないな」と思っていたら、左の方から警官が現れた。この交差点には二人の警官がいたらしい。どうするのかと見ていると、警官はバイクの人に話しかけ、バイクの人が横を向いて答えていた。その後、警官に道路わきにバイクが誘導されたところで信号が青になり、私は発進して交差点を後にした。

 ほんの30秒足らずの時間であったが、交通安全のための取締りについて以前の活動を思い出した。

道交法違反の件数とチャイルドシート使用率

 警察庁の道路交通法違反の取締り状況の「行政処分の点数告知件数」の最近のデータを見ると、以下のようであった。

筆者作成(警察庁のデータから)
筆者作成(警察庁のデータから)

運転者のシートベルト使用率は99%

 警察庁と日本自動車連盟(JAF)による調査(2016年から2020年)では、一般道の運転者(約30万人/年)のシートベルト使用率は98.5%から99.0%、助手席同乗者のシートベルト使用率は94.9%から96.5%、後部席のシートベルト使用率は36.0%から40.3%であった。

 高速道の運転者(約5万5千人/年)のシートベルト使用率は99.5%から99.7%、助手席同乗者のシートベルト使用率は98.0%から98.5%、後部席のシートベルト使用率は71.8%から75.8%であった。

18年前の要望※

 2000年4月から「自動車に乗車する場合、6歳未満はチャイルドシートの使用」が義務化された。しかし、2002年当時の座席ベルト装着義務違反は3,205,259件であるのに対し、幼児補助装置使用義務違反は8,885件、チャイルドシートの使用率(2003年)は51.7%であった。そこで、2003年7月23日、日本外来小児科学会アドボカシー委員会委員だった私と2名の委員で警察庁を訪れ、警察庁長官に対して「法律を厳格に適用して、乳幼児を乗せている車において、チャイルドシートが使用されていない場合は積極的に点数告知することを求めます」という要望書を作成し、警察庁交通局交通安全課の人に手渡した。2か月後に「交通安全のため努力します」という回答があった。

※参考:日本外来小児科学会アドボカシー委員会:要望書。 外来小児科 6:334-335, 2003

今後、必要なことは

 交通事故のデータから、チャイルドシートを使用していない場合の致死率は7-8倍となることが警察庁から発表されている。すなわち、自動車乗車中の子どもの安全にとってチャイルドシートは不可欠な装置である。

 99%着用されているシートベルトで52万件もの取締りがあったことと比較すると、70%の使用率であるチャイルドシートで4万9千件の取締り数は、単純に比較しても少なすぎると思う。警官の「お目こぼし」、「見て見ぬふり」があるのではないか。たとえ保護者に嫌われても、取締りを行うことが警官の仕事であり、子どもの安全のために不可欠なことである。社会は、それを強力に支持する必要がある。

 今朝の光景を見て、「お巡りさん、ありがとう」と伝えたい。このような地道な取締りを続けてもらいたいと思った。

おわりに

 現在、チャイルドシートの使用は「6歳未満」が義務化されているが、6歳になったらチャイルドシートをしなくていいわけがない。法律を改正して「6歳未満」の部分を削除し、すべての年齢層で、自動車に乗る場合は体を車に固定するという法律に改正する必要がある。

 警察には、交通事故の発表を行う場合は、必ず、シートベルトやチャイルドシートの使用の有無、チャイルドシートが適切に装着されていたか否かを発表していただき、メディアも、ニュースでは必ず「チャイルドシートの使用の有無」に言及する必要がある。それぞれの職種の方々が自分の役割を認識し、社会で子どもを守っていただきたい。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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