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『ロンドンハーツ』『アメトーーク』の作り方(2)~カメラマン辻稔の流儀~

てれびのスキマライター。テレビっ子

加地倫三が作る『ロンドンハーツ』や『アメトーーク!』がもっとも重視しているのが「現場の空気」だ。その空気の流れに応じてその動きも言葉も出演者のアドリブに委ねられている。

そういった臨機応変な収録スタイルを可能にしているのが優秀なカメラマンの存在だ。『ロンドンハーツ』も『アメトーーク!』もそのカメラマンのリーダーを務めるのが「バラエティ番組に携わる人間なら知らないものはいない」という辻稔だ。

辻は番組制作技術会社ニューテレスに入社。スウィッシュジャパンを経て、現在フリー。『とぶくすり』『めちゃ×2イケてるッ!』(以上フジテレビ)『内村プロデュース』(テレビ朝日)など担当している番組は数多い。

ロケ企画の多い『ロンドンハーツ』は元より、加地は『アメトーーク!』を「スタジオロケ」という扱いで収録している。それは辻稔をカメラマンとして迎えるためだ。通常、局のスタジオで収録する場合、様々なしがらみでフリーのカメラマンは使えない。だから加地はわざわざスタジオを借り、「ロケ」という体(てい)で収録し、辻を起用したのだ。それは加地がどうしても譲れないこだわりだった。

『アメトーーク!』はスイッチングがない全パラ収録=全部のカメラが収録するスタイルなのだという。これはスタジオ収録では珍しい形なのだという。制作部から技術への指示はなく、全体のバランスを確認するために辻が他のカメラマンに指示を出す。そのため制作部は演出に集中できるのだ。

「普通のスタジオ収録だったら絶対に撮っていないような場面、たとえば有吉くんが笑いながら何気に自分の靴紐を直した姿とかもグループショットのカメラが撮影してて、宮迫くんが有吉くんに細かく突っ込んでも映像でフォローできるようになっている。

このスタイルは、あの番組独特の笑いに繋がってると思うんです」

出典:Quick Japan(Vol.82)

辻は2月5日の『ショナイの話』(テレビ朝日)でケンドーコバヤシと対談している。

そこで辻は「『アメトーーク!』って大変なカメラが2台ある」と明かしている。

それは司会である雨上がり決死隊を撮るカメラとひな壇の芸人たちをワンショットで収めるカメラだ。

数年前までは自分が担当していたが、

「演者さんが面白い表情や面白いことをしたら面白いカメラワークをしてくれって僕は言ってるんですよ」

と後者を最近後輩に譲ったのだという。

たとえば突然芸人が流れとは別に面白い話をしだす。そして表情で落とす。その瞬間を逃さず、絶妙なタイミングでその表情にズームアップする。

「(空気を読んで)勝手に手が動いてるようになれば合格」だと。

関わった番組はすべて録画して見返し、常に「より面白い」撮り方を研究してきた辻。演者を好きになってどう撮ればもっと面白くなるか、カメラワークでもっと面白くなるかを考えてきた。結果、カメラワークの笑いとしか言いようのないまったく新しい笑いを生み出しバラエティ番組の可能性を飛躍的に拡大させていった。

「バラエティ番組のカメラマンにはいろんな能力が求められるんですけど、考えたり思いついたりする頭と、空気や気持ちを感じるハート、そしてそれを映像として表現する腕(技術)の三つが、三つともないとだめだと思うんです。どれかひとつでも欠けたらダメ」

出典:Quick Japan(Vol.82)

辻には大事にしている3つの仕事の流儀があると『ショナイの話』で語っている。

・行われていること、やっていることを現状を取り逃さない

面白く撮る。ちょっとだけ自分のカメラワークを足したことで100%が120%になればいい。

そしてもっとも大事にしているのが、カメラマンがひとりよがりにならないように

ディレクターが編集しやすいように撮る

ことだという。

では、このようにして収録されたものがいかに「番組」として放送されていくのだろうか。(つづく)

<関連>

『ロンドンハーツ』『アメトーーク』の作り方(1)~プロデューサー加地倫三の流儀~

『ロンドンハーツ』『アメトーーク』の作り方(3)~仕上げの流儀~

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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