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『THE SECOND』で有田哲平が触れた漫才の“根幹”

てれびのスキマライター。テレビっ子
(提供:イメージマート)

5月18日に開催された結成16年以上の漫才師による賞レース『THE SECOND』(フジテレビ)。2回目となる今年は、ガクテンソクが栄冠を手にした。

この大会で「ハイパーゼネラルマネージャー」なる謎の役職で出演したのが、くりぃむしちゅーの有田哲平だ。もちろんこれは、前回「アンバサダー」として出演した松本人志の代役的な位置づけ。

これまで賞レースの審査員やアンバサダー的な仕事は断ってきたという有田だが、最終的に「フジテレビさんもお困りでしょうから」と快諾してくれたという(「マイナビニュース」2024年5月11日)。

有田といえば、海砂利水魚時代、漫才師としてその世代のトップランナーだったことに加え、『有田ジェネレーション』シリーズや『ソウドリ』(ともにTBS)など若手・中堅芸人を引き上げる番組にも積極的にかかわり、『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ)では「総合演出」という肩書を担い、裏方的視点も持っている。これ以上ないほどの適任者といえるだろう。

実際、コメントを求められると笑いをまぶせながら随所に的確なコメントを返していた。

漫才の根幹

そんな中で、「スペシャルサポーター」として参加した博多大吉(博多華丸・大吉)から「漫才をそんな言い方するのやめてください(笑)」と遮られるように言われた場面があった。

それは1回戦第2試合のラフ次元vsガクテンソクの後にMCの東野幸治に感想を求められたときだ。

有田「二組とも漫才のネタが、何回も練習してるだろうし、ステージに何回も掛けてるのに、知らないフリをしながらやっていかない技術がいるじゃないですか、それがもう(スゴい)」
大吉「漫才をそんな言い方するのやめてください(笑)」
有田「何百回もやってるのに、1回こう(前のめりで)聞いて、下がって、(また前に出て)『あ、思ってたのと違った!』って」
ガクテンソク奥田「やめてください、恥ずかしいから!」
東野「『ハイパー』(という肩書)取り上げていいですか?(笑)」

漫才は何百回も同じやりとりを練習してやっているもの。それは当たり前の話だが、改めて言われると、ある意味で漫才の根幹を問うような話だ。

理想の漫才

前述の『ソウドリ』では、特別企画として平成ノブシコブシ・徳井健太を聞き手に「テレビで一番深いお笑い論議」と銘打ったトーク企画「解体新笑」を度々放送していた。

そこで有田が繰り返し語っていたのが、漫才で重要なのは、いかに「初見のような自然さ」で話せるか。つまり「知らないフリ」をするか。理想は「2人の立ち話のように見せる」ことだということだ。

その最高のお手本として若手に絶対に観てほしいと勧めていたのが、かまいたちが『M-1グランプリ』(朝日放送・テレビ朝日)でも披露した「UFJとUSJ」だ。

これはボケの山内が「UFJ」と「USJ」を言い間違えるところから始まるネタ。

それをツッコミの濱家が指摘すると、山内は「言い間違えちゃったんやな」と濱家を指し、あたかも言い間違えたが濱家の方だと言うのだ。

そのとき濱家は「そうそう……、俺じゃない」と一瞬、山内が言ったことを理解できないまま受け入れた後、山内の意図に気づきツッコむ。

これを有田は絶賛している。

有田:あそこの瞬間だけで濱家は天才だから。あの瞬間に濱家は売れた。向こうがボケた瞬間にポンと(ツッコミに)行かないの。ちょっとだけ間があんの。
徳井:初めて聞いた話(というテイ)だから。
有田:あの一瞬の間でドカンと笑いをとる。あれは天才的だから。あれをちゃんとやってくれる人だなと思うと安心してMCが任せられる。
(※『ソウドリ』2022年11月28日)

相方・上田晋也の天才性

相方・上田晋也のスゴさもそこにあると有田は評す。

有田:ツッコミなんてどんなボケが来るか全部わかってるわけだから。だけど、いかに初めて聞いたみたいな。あの大根役者の上田がだよ、そこだけは天才的。いまだにだよ。何度もやっているボケを俺がテレビでやっても『ん?』って(笑)
(※『ソウドリ』2022年11月28日)

よく「たとえツッコミ」が秀逸だとか、ボキャブラリーが豊富だとか、司会者として回しが上手いなどと評価されるが、上田がもっともスゴい部分は、そこではなく、知らないフリをして相槌を打つことができること、つまり「すっとぼけ」だと言うのだ。

有田:そこにいる天然ボケのタレントさんが、どうせこのあと変なことを言うのがわかりながら、『それでそれで?』ってちゃんと聞いて、『わけわかんねえわ!』ってマジで怒るんだよ。
徳井:真髄ですね。わかりにくいけどノリツッコミしてるってことですもんね?
有田:まあ、そうだね。心の中ではね。
徳井:それすごい大事ですね、ツッコミっていうかMCとして、いちばん大事な能力かも知れないですね。
有田:そういう意味で漫才というルーツを大切にしているのかもね。
(※『ソウドリ』2022年11月28日)

漫才師のツッコミがMCとして大成することが少なくないのもそういった部分があるのだろう。

有田:世のお笑いの人たちに言いたいんだけど、(本来は)何も起こらないことを望まなきゃダメなんだよ。俺が「一個話をしていい? 昨日あったことなんだけど」って言ったら、「おうおうおうおう」ってそっちが邪魔しないことを望んでなきゃいけない。で、そっちが邪魔したら「入ってくんな、お前」ってやらなきゃいけない。基本は。でも最近はそんなのいいよってなって「俺の話聞いてほしいんだけど」って言ったらボケ待ちみたいになってる。だから(フリを聞いているとき)顔が死んでるの。ボケになった瞬間に「俺の出番が来た!」と、たとえたりするわけ。でも、それはグイッとハードルを上げちゃう。
うちの相方が何がいいかって何にも起こらないことをすごく許してくれる。たとえば「昨日さ、子供と遊び行ったんだよ」「おうおうおう」って。そこの「おうおうおう」をやってくれる。
(※『ソウドリ』2022年11月28日)

一方でそれはプロのお笑いに限った話ではなく、日常会話でもそうだと有田は力説する。

有田:日常会話でも絶対そうなのよ。面白い話をしてほしいなと相手に思えば思うほど、面白くない話を大事にしてあげる。会話術。
徳井:それが漫才にも生きてくるわけですね。フリとかしょうもないところこそ、ツッコミである人がテンション高く聞いてあげるからボケたときに落差で笑いになる。だから面白い話をしないくらいのノリで2人出てきてるフリをしてほしい。
有田:そうそう。漫才においてすごい矛盾があるんだけどね。「彼女欲しいだけど」「おうおうおう」。そこが大事! 「彼女ねえ…」じゃなくて。そこを熱こめないと。でもこれはあくまでも基本。それをぶっこわしてる人もいるから、それはそれでスゴいとは思うよ。
(※『ソウドリ』2022年11月28日)

思えば漫才の理想は2人の立ち話。だから、日常会話に応用できるのは、ある意味当然のことだろう。そこに漫才の真髄があるに違いない。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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