米加州、投票の自撮りOKに
米大統領選挙を前に、投票所での投票の様子をいわゆる自撮りし、SNSなどに投稿することを認める法律が、カリフォルニア州で成立した。施行は来年1月となるため8日投開票の大統領選挙には間に合わないが、影響力の大きいカリフォルニア州の「自撮り解禁」は、米国の開かれた民主主義を象徴する試みとして関心を呼びそうだ。
同法は9月29日、ブラウン知事が署名して成立した。新たな規則によると、有権者は、他の法律に違反しない限り、どう投票したかを自発的に公開することができる。誰に投票したかを知らせるのもOKだ。
米国では、投票に関する詳細な規則は州によって異なるが、投票の様子や記入済みの投票用紙をカメラで撮影したりビデオで録画したりする行為は、ほとんどの州で禁止されている。
ビヨンセさんもパシャ
ところが、スマートフォンの普及に伴い、投票用紙をスマホで撮影し、勝手にSNSやブログにアップする有権者が、選挙のたびに増加。投票所ではないが、歌手のビヨンセさんは、前回2012年の大統領選の時に、記入済みの不在者投票用紙を自分の顔と一緒に撮影し、SNSに投稿、話題になった。
カリフォルニア州の“自撮り解禁法”の法案を提出したレビン州議会議員も、「2009年の自らの市議会議員選挙の際に、初めて投票を自撮りした」とメディアの取材に語っている。同議員の友人の多くも、自撮りして彼に投票したことを伝えたそうだ。本来は法律違反だが、同氏によると、少なくともカリフォルニア州では、今まで投票所で自撮りし逮捕された人はいないという。
裁判所も、自撮り解禁の流れを後押しする。
前回の大統領選後、ニューハンプシャー州とインディアナ州は、投票の様子を自撮りし、画像や映像を他人とシェアすることを明確に禁じる法律をそれぞれ制定した。ところが、有力市民団体のACLUが、両州の法律は「(信教・言論・出版・集会の自由を保障した)合衆国憲法修正第1条に反する」と連邦裁判所に提訴。いずれのケースも、一審は市民団体の訴えを認めた。
言論の自由を重視
各州法が、投票をカメラやビデオで記録することを禁じているのは、特定の候補を勝たせるための票の買収や投票の強要につながる恐れがあるためだ。しかし、裁判所の判断や世論の流れは、そうした不正選挙の懸念よりも、個人の言論の自由を何よりも重視する米国の民主主義の価値観を色濃く映したものと言える。
米国では、選挙の際に自らが支持する政党や候補者を公言する有権者は珍しくない。都市部では、選挙の年になると、自分の支持する候補者の名前入りのバンパーステッカーを張って、街中を平気で走る自家用車をよく見かける。自宅の前庭に候補者の名前を書いた旗やプラカードを立てる市民も少なくない。
言論の自由を尊重する政治文化は、候補者選びの過程にも見てとれる。
投票自体は誰が誰に投票したかわからない仕組みだが、投票にいたるまでの候補者選びの過程は非常にオープンだ。
筆者が2008年に現地で大統領予備選を取材した際には、民主、共和それぞれの党の大統領候補に誰を推すか、地域の住民が集まって議論し意見を集約したり、挙手によって候補者を一本化したりするのを間近に見て、米国の開かれた民主主義、草の根民主主義をまざまざと実感した。
同じ民主主義国だが…
参加した住民は、テレビカメラの前でも臆することなく自分の意見を述べ、対立候補を支持する人の意見にも謙虚に耳を傾ける。民主党予備選の会場は、党の指名を争ったオバマ、クリントンそれぞれの支持者が、プラカードを頭の上に掲げて候補者の名前を連呼するなど、まるでスポーツの応援合戦。「開かれた民主主義」。まさにそんな言葉がぴったりの光景だった。
翻って日本では、ともすれば政治を話題にすることをタブー視したり、自分の支持する候補者をつまびらかにすることをよしとしなかったりする風潮がある。“素人”が政治を語ろうとすると、ネット上でバッシングの嵐にさらされることもしばしばだ。
米国も日本も同じ民主主義国を名乗ってはいる。しかし米国の大統領選を見ていると、その中身には、雲泥の差があるような気がしてならない。