Yahoo!ニュース

【現地レポート】聖火の下での極上なプロレス観戦。アメリカのファンを魅了させた新日本プロレスLA大会

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
聖火が灯る会場で開催された新日本プロレスのロサンゼルス大会(撮影:三尾圭)

 8月14日(日本時間15日)にロサンゼルス(LA)のメモリアル・コロシアムで開催された新日本プロレスのLA大会。これまでに2度の五輪が行われたスタジアムで、聖火台の下にリングを設置。聖火の下でプロレスが楽しめる極上な大会となった。

 1932年と84年のLA五輪の開会式会場となり、2028年LA五輪でも開会式が行われる予定のロサンゼルス・メモリアル・コロシアム(コロシアム)は、世界の競技場史に名前を刻む由緒あるスタジアム。

 オリンピックの歴史上で唯一、複数回の開・閉会式の舞台となったこのコロシアムは、第1回スーパーボウルなど数々のビッグイベントが行われてきた。

 2008年3月29日にはメジャーリーグのオープン戦、ロサンゼルス・ドジャース対ボストン・レッドソックスの一戦が行われ、オープン戦ながら世界の野球史上最多となる11万5300人もの大観衆を集めたこともある。

2008年にはMLBのオープン戦が行われたが、1959年にはMLBオールスターゲームとワールドシリーズの舞台にもなったロサンゼルス・メモリアル・コロシアム(写真:三尾圭)
2008年にはMLBのオープン戦が行われたが、1959年にはMLBオールスターゲームとワールドシリーズの舞台にもなったロサンゼルス・メモリアル・コロシアム(写真:三尾圭)

2008年のMLBオープン戦に集まった11万5300人のファンは、世界の野球史上最多記録となっている(写真:三尾圭)
2008年のMLBオープン戦に集まった11万5300人のファンは、世界の野球史上最多記録となっている(写真:三尾圭)

 コロシアムではボクシングや格闘技の試合が開催されたこともあり、1968年には西城正三がWBA世界フェザー級のベルトを獲得して、日本人選手として初めて海外で王座を奪取する快挙を成し遂げた。

 また、2007年には総合格闘技イベントの「Dynamite USA」も開催。桜庭和志など日本人格闘家も参戦したこの大会は、新日本プロレスでIWGPヘビー級王者にもなったことがあるブロック・レスナーの総合格闘技デビュー戦でもあった。

聖火台の下にリングを設置

 今回、新日本プロレスが使用したのはコロシアムだが、通常のスタジアムと客席部分ではなく、コロシアム内の外壁に面した特別広場『The Torch』。

 聖火台のあるアーチの下にリングを設置した特別会場は、リングと聖火を同時に見渡せる最高の場所。そこに約2000席を設置したが、チケットは前売りの段階から飛ぶように売れて、アメリカでの新日本プロレス人気の高さを改めて感じさせた。

主催者発表2222人満員札止めと大盛況だった新日本のLA大会(写真:三尾圭)
主催者発表2222人満員札止めと大盛況だった新日本のLA大会(写真:三尾圭)

 コロシアム内はワクチン接種者であってもマスクの着用が必要だったが、歓声に対する規制はなく、ファンは大きな声でレスラーに声援を送った。

 レスラーたちがリングで戦うだけでなく、リングを取り囲むファンも一緒になって試合を作っていくのがプロレス。無観客試合では欠けていた大切な要素が、ようやく戻ってきた。

 新日本プロレスの試合に熱くなったのはコロシアムに集まった2,222人のファンだけでなく、配信サービスの「新日本プロレスワールド」でライブ観戦した世界中のファンも多いに盛り上がり、LA大会を指すハッシュタグ「#njresurgence 」はアメリカのトレンドで3位に、世界トレンドで5位にランクインした。

上村がLA道場入りを表明

 第3試合の10人タッグマッチには、海外武者修行に出たばかりの上村優也が登場。閂スープレックスで3カウントを奪い、アメリカ・デビュー戦を勝利で飾った。

閂スープレックスでダニ―・ライムライトからフォールを奪った上村優也(写真:三尾圭)
閂スープレックスでダニ―・ライムライトからフォールを奪った上村優也(写真:三尾圭)

 試合後にマイクを手にした上村は、英語でアメリカのファンに挨拶をすると、LA道場を統括する柴田勝頼にLA道場入りを直訴。柴田から「Come with me」と道場入りを認められ、LA道場のTシャツを手渡された。

 LA道場のTシャツを着てリングを下りた上村は、入場時に着ていたライオンマークのTシャツを客席に投げ入れて退場した。

 「ここなら、僕が求めてるレスラー像に少しでも近づける」とLA道場入りの理由を口にした上村は、「来たからにはアメリカの新日本プロレスをガッツリ盛り上げたい。最後、シャツを投げたのは、もう僕はヤングライオンじゃないっていう、そういう気持ちの現れで、別に今まで野毛道場でやってきたことを捨てたわけじゃない。野毛道場で今までやってきたことと、これからLA道場で、もっと色々学んで、強いプロレスラーになりたい」と決意を表明した。

LA道場入りを許可してくれた柴田勝頼とかっちり握手をする上村優也(右)(写真:三尾圭)
LA道場入りを許可してくれた柴田勝頼とかっちり握手をする上村優也(右)(写真:三尾圭)

前王者のオスプレイがIWGP世界ヘビー級のベルトを持って登場

 第6試合のタッグマッチの前にウィル・オスプレイのテーマ曲が会場に鳴り響いた。第6試合ではジョン・モクスリーのパートナーがXとなっていたので、Xはオスプレイなのかとファンは一瞬思ったが、前IWGP世界ヘビー級王者のオスプレイは背広姿でリングに上がった。

LA大会のリングにサプライズで登場した前IWGPヘビー級王者のウィル・オスプレイ(写真:三尾圭)
LA大会のリングにサプライズで登場した前IWGPヘビー級王者のウィル・オスプレイ(写真:三尾圭)

 「復帰する準備はできた。もうすぐ『G1』が始まるよな? なら、ここでハッキリ宣言させてもらおう! ウィル・オスプレイは今年の『G1』に出ない! もっと言うと、日本のリングには戻らない!」といきなり爆弾発言をしたオスプレイ。

 「俺はニュージャパンのためを思い、自分を犠牲にしてでもベストを尽くしてきた! なのに俺がたった4ヶ月の休養を頼んだら、会社はその代償として俺からIWGPのベルトを取り上げた! ジョン・モクスリーの野郎は一年以上もUSベルトの防衛戦もしていないっていうのに、なぜここまで身をボロボロにして全てを捧げてきた俺にそんな仕打ちができるんだ! ここで俺から一つ要求がある。シンゴ・タカギ!俺は首を負傷していながら、あいつに勝ったんだ。たしかにいま、アイツがベルトを巻いているかもしれないが、アイツは『真のチャンピオン』ではない! あくまでも『暫定チャンピオン』だ! 」

 そう言ったオスプレイは「その証拠にベルトは今俺の手元にある」と言い、持参した袋の中からIWGP世界ヘビー級のベルトを取り出した。

IWGP世界ヘビー級のベルトを手にするウィル・オスプレイ(写真:三尾圭)
IWGP世界ヘビー級のベルトを手にするウィル・オスプレイ(写真:三尾圭)

 世界ヘビー級のベルトは現王者の鷹木信悟が保持しており、オスプレイが持っているのはレプリカだが、「俺は一度も負けてない! だからここから誰が相手でも、ニュージャパン以外の選手でもいい、俺がこのベルトを防衛していく」とオスプレイが真の王者だとアピール。

 「今日から俺がこの『STRONG』を制覇する! LA道場の雑魚ばっかりだった『STRONG』のマットにもようやくホンモノのスターが登場だ」と日本ではなく、アメリカの新日本プロレスを主戦場にすると一方的に告げた。

モクスリーのパートナーXは永田裕志

 元IWGPタッグ王者で、現インパクト・レスリング・タッグ王者グッド・ブラザーズと対戦するジョン・モクスリーのミステリー・パートナーとして登場したのは永田裕志。

 永田は今年5月に単身でAEWのリングに乗り込み、モスクリーと対戦。試合には敗れたが、試合後にはモクスリーが永田の前にひざまずいてお辞儀をして、53歳の永田に対してリスペクトの姿勢をみせた。

 永田の弟で、シドニー五輪の銀メダリストでもある永田克彦は、2007年の「Dynamite USA」に参戦しており、兄弟揃ってコロシアムのリングで試合をしたことになる。

モクスリーのミステリー・パートナーXとして参戦し、ナガタロックIIを決める永田裕志(写真:三尾圭)
モクスリーのミステリー・パートナーXとして参戦し、ナガタロックIIを決める永田裕志(写真:三尾圭)

G.o.Dとグッドブラザーズがリング上で睨み合う

 モクスリー&永田組を退けて勝利したグッドブラザーズの前に現れたのは、歴代最多の7度もIWGPタッグ王者に輝いたタマ・トンガとタンガ・ロアのG.o.D。

 リングに上がったG.o.Dはグッドブラザーズに詰め寄ったが、グッドブラザーズは挑発には乗らずに黙ってリングから引き上げた。

 新日本プロレスのタッグ戦線の先頭に立って牽引してきたG.o.Dとグッドブラザーズが、今度はアメリカのリングで対戦するかもしれない。

グッドブラザーズを挑発するG.o.D(写真:三尾圭)
グッドブラザーズを挑発するG.o.D(写真:三尾圭)

ジェイはNEVERのベルトを防衛。石井が挑戦をアピール

 ダブル・メインイベントのNEVER無差別級選手権は、王者のジェイ・ホワイトが挑戦者のデビッド・フィンレーを相手に初防衛戦に成功。

 外国人選手同士の試合だったが、2人ともに新日本プロレスで育った選手であり、新日本プロレスならではの白熱した試合でアメリカのファンを沸かせた。

 試合後には歴代最多の5回、NEVERのベルトを腰に巻いている石井智宏がエプロンに上がり、挑戦をアピール。だが、ホワイトは「俺はイシイが一度も巻いたことのないUSヘビーも、インターコンチも、IWGPヘビー級も、すべての王座を獲ってきた。史上初の4冠制覇を達成した、ホンモノの“ベルトコレクター”ジェイ・ホワイトだ」と格の違いを主張して、「ニュージャパン、IMPACT、AEW、どこだっていい、ありとあらゆるベルトを手にしていく」と新たなベルト獲得に意欲を見せた。

NEVERのベルトへの挑戦をアピールした石井智宏と睨み合う王者のジェイ・ホワイト(撮影:三尾圭)
NEVERのベルトへの挑戦をアピールした石井智宏と睨み合う王者のジェイ・ホワイト(撮影:三尾圭)

LA大会の最後を締めたのは新4冠王者、棚橋弘至

 エキサイティングな試合が続いた極上の高いの最後を締めたのは、「エース」棚橋弘至。

 ランス・アーチャーが持つUSヘビー級のベルトを奪い、史上初めて日本人選手としてUSヘビー級のベルトを腰に巻くと同時に、ジェイ・ホワイトに続いて史上2人目となる「グランドスラム」を達成した。

ハイフライアタックからハイフライフロー2連発でランス・アーチャーからフォールを奪った棚橋弘至(写真:三尾圭)
ハイフライアタックからハイフライフロー2連発でランス・アーチャーからフォールを奪った棚橋弘至(写真:三尾圭)

試合後には棚橋に対してリスペクトの言葉を口にして、一礼したランス・アーチャー(写真:三尾圭)
試合後には棚橋に対してリスペクトの言葉を口にして、一礼したランス・アーチャー(写真:三尾圭)

最後はエアーギターで、極上の大会を締めた棚橋弘至(写真:三尾圭)
最後はエアーギターで、極上の大会を締めた棚橋弘至(写真:三尾圭)

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

三尾圭の最近の記事