D.O.(EXO)『スウィング・キッズ』監督が明かす 演技ドルの意外な素顔に驚いた3つの瞬間
韓国には「演技ドル」という言葉がある。「演技」をする「アイドル」という意味だ。多くのK-POPスターがドラマや映画に出演するなか、もっとも活躍する実力派のひとりが、EXOのメンバー、D.O.だ。
現在公開中の映画『スウィング・キッズ』は、そんなD.O.が迫力のタップダンスで大スクリーンを舞う。そして同時に、朝鮮戦争のさなかに捕虜収容所で生きる国籍や身分の異なる人々を主人公に、戦争とイデオロギーを問う骨太の作品でもある。
メガホンを取ったカン・ヒョンチョル監督は、先日、日本アカデミー賞主演女優賞に輝いたシム・ウンギョン[参考記事:日本アカデミー賞で号泣『新聞記者』韓国の女優シム・ウンギョンが日本映画に挑む理由]の出世作『サニー 永遠の仲間たち』(2011)でも知られるヒットメーカー。
監督がインタビューで明かした、D.O.の役者としての魅力、そして戦争とイデオロギーへの思いとは。
――捕虜収容所という特殊な場所を舞台にした映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
前作『タチャ~神の手~』(2014)を終えてから、ずっとダンス映画を作りたいと思っていたんです。同じころ、分断国家の近代化の理念についても考えるようになりました。そんな時、韓国の創作ミュージカル『ロ・ギス』を観る機会があり、ダンスと分断についての物語が溶け合っているのに感銘を受け、『ロ・ギス』を脚色し、映画化することにしました。
――原作ミュージカルを脚色するにあたり、どのように話を膨らませて行ったのでしょうか。
原作は、ロ・ギスと兄の兄弟愛がメインのストーリーでした。対して私は、もっとも敵対的な立場の人々が集まり、ダンスで一つになる物語にしたいと考えました。ロ・ギスという北朝鮮軍の捕虜と、収容所を管理する黒人の下士官ジャクソン。2人のバディ・ムービーにしたかったんです。
――巨済島に実在する捕虜収容所を舞台にした、ノンフィクションの要素もある作品です。
捕虜収容所は現在博物館になっていて、何度か訪れてリサーチを重ねました。助監督は、元捕虜で韓国に残り、牧師になった人にも会いました。そういう方たちの手記も資料として参考にしました。
映画の中にはファンタジー要素もたくさんあります。ファンタジーの部分があるからこそ、実話に根ざすべきだと考えています。美術や小道具は、当時の写真をもとに、文字の形など細かいところまで時代考証を経て作りました。
――北朝鮮の捕虜と米軍の兵士がコミュニケーションを取っていたというのも実話でしょうか。
実際にそういうことがあったと記録にも残っています。捕虜収容所も人が住む場所だから。捕虜として住んでいた人、管理者として滞在していた米軍の人たち、いずれも軍人である以前に人間ですよね。特に捕虜のなかには、自分がなぜそこにいるのかわからないまま捕まっていた人もたくさんいます。なぜ戦争が起きたのかさえわからない人も相当数いたわけです。
D.O.が扮するロ・ギスは、捕虜となった北朝鮮の兵士。収容所のトラブルメーカーだった彼は、元ブロードウェイダンサーの米軍下士官ジャクソンのタップダンスを偶然見たことを機に、踊ることに対する情熱が芽生え始める。
『あの日、兄貴が灯した光』(2016)、『神と共に』シリーズ(2017、2018)などで、感情を抑えた演技で注目を集めたD.O.が、本作ではコミカルな面や怒りなど、幅広い感情を全身で豊かに表現。K-POPで培ったダンスシーンは、圧倒的に華やかでパワフルだ。
――D.O.が最高のはまり役でした。
彼との出会いは、運命でした。本人もこの役を強く望んでいました。実は、私は彼のこれまでの作品を見たことがなく、よく知らなかった。最終候補をリストアップするときにD.O.の名前を見て、「会ってみたい」と私から言いました。会った瞬間、この人だと思いましたね。「D.O.を呼んだのに、そこにはロ・ギスが座っていた」と。
――D.O.は、K-POPのトップスターでありながら、俳優として多くの監督からラブコールを受けています。彼の役者としての魅力とは。
実際に一緒に仕事をして驚いたことが3つあります。
1つは、彼はかけがえのない眼差しを持っているということ。私は俳優の目をとても重視しています。D.O.は瞳で数万の台詞やアクションに匹敵する表現ができる。何かを見つめる瞬間も優れています。彼の両親に感謝すべきことですね(笑)
あと、誠実なところ。人格や品格といいましょうか。現場で知らない人とも仲良くできるんです。相手のポジションとは関係なく、有名な年配の俳優でも、スタッフでも、それ以外の人でもみんなと親しくなる。毎日彼が現場にやって来ると、みんなとてもうれしい気持ちになるんです。それは主演俳優としての力でもあります。
そして何よりも私が一番高く評価しているのは、難しい演技でも楽しむことができる点です。感情表現が上手くできず、ひとつのカットを何回も撮り直したシーンがありました。私もD.O.も満足いくものに仕上げたかったんです。感情をつかもうとする過程で、彼が無意識のうちにこんな風に言ったんです。「ああ、面白い」と。私はそんな彼を見てすごく感動しました。作品を楽しみ、演技を楽しみながら、彼が成長する姿が目に見えたから。幸せな瞬間でした。
――どのシーンですか。
D.O.が洞窟の中で、泣いて、立ち上がる場面。観客が見ると些細かもしれませんが、とても細やかな演技が必要な重要なシーンです。
――「この場面はぜひ見てほしい」というD.O.の見せ場を教えてください。
D.O.とヤン・パンネ役のパク・ヘスさんがデビッドボウイの曲『Modern Love』で踊るシーン。撮影の日、D.O.が現場に来て「音楽を聴きたい」というので、『Modern Love』をかけたんです。私が少しだけ席を外して戻ってきたら、D.O.とヘスがはじけるように踊っていて、一瞬にして曲の世界に入り込んでいた。飛び跳ね、走り回りながら「音楽にハマった」と。その日はずっと躍動感たっぷりに踊り続けていました。スタッフたちも、踊りながら。次の日、彼はひどい筋肉痛になり、病院に行きました(笑)。渾身のシーンを、楽しく見ていただければと思います。
――アイドルとして、俳優として幅広い表情を見せるD.O.の素顔が気になります。実際の彼と、ロ・ギスのシンクロ率は何%ぐらいでしょう。
95%でしょうか? 異なる点は、ロ・ギスは北朝鮮の兵士だけど、D.O.は韓国軍で兵役中だということ(笑)
――ジャクソン役のジャレッド・グライムスは、マライア・キャリーやグレゴリー・ハインズなど、世界的アーティストと共演した経験を持つ、ブロードウェイダンサーであり俳優です。彼をキャスティングした理由は?
演技が上手で、ダンスが卓越している黒人俳優をキャスティングしたかった。全世界を対象にオーディションをしました。数多くの映像を見て、オンラインでインタビューをするなかで、ジャレットがずっと心に残っていて。実際に会ってみたら、ダンスがずば抜けている上に、表情の演技が秀でているのに驚きました。愉快な人柄で、みんな彼が好きになりました。
――現場では、ジャレットがD.O.にタップダンスを教えたりも?
彼らは、時間があればタップダンスを踊っていましたね。もう、うるさいくらい(笑)。私は撮影の準備をしなくちゃいけないのに(笑)。俳優たちが、トップダンサーのジャレットからステップを学べるのはとても光栄なことでした。
――葛藤を踊りで見せたり、喧嘩をダンス対決で表したり。台詞よりも動きで見せる、ミュージカル要素が強い作品です。参考にした映画や舞台は。
特にリサーチして何かを参考にしたというわけではありません。ただ、意味的なもので参考にしたのは、アメリカ映画『ホワイトナイツ/白夜』(1985)。理念とダンスに関するストーリーです。ジャレッドは、『ホワイトナイツ』に主演したタップダンサー、グレゴリー・ハインズの弟子なんです。
――捕虜を中心としたスウィング・キッズと米軍の軍人が韓国の昔の曲でダンスバトルをするシーンが印象的でした。
チョン・スラの『歓喜』という、80年代のヒット曲です。実は、マイケル・ジャクソンの『ビート・イット』を使いたかったのですが、ライセンス料があまりにも高くて使えず(笑)。ダンスは『ビート・イット』のオマージュでもあり、ジャクソンの名前も、マイケル・ジャクソンからとったものです。
でも、チョン・スラの『歓喜』を使ったおかげで、絶妙なミスマッチを生み出すことができました。ミスマッチな魅力は作戦だったんです。見方によれば、おかしなシーンですよね。捕虜と米軍がダンスバトルをするなんて、ありえない。だけど、彼らは米軍であり捕虜である以前に、若者だったのです。ダンスが好きな若者。戦争がなければ、普通に一緒にダンスを踊る社会だったのに。
――スウィング・キッズのメンバーは、女性や黒人など、国籍も身分も異なる人たち。音楽が政治理念や国境を超えていくのはK-POPをはじめとするエンタテイメントにも重なる一方で、日常のなかでの共生を問うテーマのようにも思えます。監督が本作で伝えたかったメッセージとは?
多様な人種、収容所以外の場所だったら交わることがない、様々な状況を背負う人が一つのチームになりますよね。『スウィング・キッズ』は、先入観に関するストーリーです。
戦争というものは、「多数の幸福のため」という口実のもとで権力をつかみ、普通の人を扇動して利益を奪う、最悪の外交と言えるでしょう。犠牲者は一般の人たち。お互いを憎んでこそ幸せになれるシステムなんです。そういうシステムにおいても、ダンスを通じてそれを超える。人種や置かれた状況が異なっても、ダンスや音楽を通じて友人になることができる。そういうことを伝えたいと思いました。
――『サニー 永遠の仲間たち』『過速スキャンダル』(08)など、いずれもシリアスなテーマをエンタメ性の高い作品に仕上げています。作品作りで大切にしていることは。
ユーモアだと思います。ユーモアと人間との関係。ユーモアを交えて語ってこそ、心に届くと信じています。今後どんな作品を作るにしても、ユーモアを忘れないようにしたいですね。
■カン・ヒョンチョル監督
1974年生まれ。2008年に『過速スキャンダル』で映画監督デビュー。2作目の映画『サニー 永遠の仲間たち』(2011年)は736万人以上を動員し、大鐘賞監督賞を受賞。日本やタイなどでリメイクされた。
■映画『スウィング・キッズ』
配給:クロックワークス
写真クレジット:(c) 2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS.