夫の命奪った加害者が、過去にも死亡事故……データが示す「事故を繰り返す」運転者の実態
昨年、12月25日に発信した以下の記事は、大きな反響を呼びました。
『お父さんのいない、初めてのクリスマス… 中央線突破の「無保険バイク」に命奪われて』
取り上げたのは、昨年10月、北海道の新十津川で起こった死亡事故。センターラインを突破した大型バイク(BMW F900XR)が対向の小型バイク(CBX125F)と正面衝突し、小型バイクの男性が亡くなるという事故でした。
ツイッターやフェイスブックに寄せられたコメントの大半は、900ccという大排気量車に乗っていたにも)かかわらず、加害者が長年にわたって自動車保険(任意保険)をかけていなかった、ということへの疑問や批判でした。
「ハンドルを握る以上、車であってもバイクであっても、万一に備えて任意保険加入は必須」
そう認識しているドライバーやライダーから見れば、無保険での走行は、常識では考えられないというメッセージが、強く伝わってきました。
■加害者には過去に「ひき逃げ死亡事故」の逮捕歴が…
年が明けて間もなく、この事故で夫の政信さん(50)を亡くした妻の竹林さんから、思わぬ知らせが入りました。
「実は、Twitterのコメント欄の情報から、まさかと思ったのですが、夫の命を奪った相手が、26年前にも死亡事故を起こして逮捕されていたことがわかったのです。夫が2人目の被害者だったなんて……。その事実を知った瞬間は、手足の血の気が引きました」
驚いて過去の新聞を検索すると、当時の記事が出てきました。
『ひき逃げ、死なせた容疑 会社員を逮捕--札幌西署』(1994.12.24/毎日新聞)
当時の毎日新聞によると、12月23日午前0時40分ごろ、札幌市の道道で、自転車の男性が内臓破裂で死亡。男性をはねた車がそのまま逃走したため、札幌西署はひき逃げ事件として捜査していたところ、約30分後に現場に戻ってきた会社員の男性(21)を、道交法違反(ひき逃げ)と業務上過失致死の疑いで逮捕した、とのことでした。
事故が起こった現場は真冬の北海道、しかも、事故は夜中に発生しています。
仮に軽傷であったとしても、氷点下の凍てつく夜に、被害者を置き去りにして逃げるということがいかに危険な行為であるか……、そのことは、北国に住む人ならよくわかっていたはずです。
竹林さんは語ります。
「通常であれば、加害者の前科は裁判の当日まで教えていただけないそうです。でも、もしこの事実を裁判当日に知ったなら、精神的には相当なダメージだったと思います」
上記事故から四半世紀のときが流れています。当時の事故について、加害者はすでに負うべき責任を全うしているかもしれません。
しかし、過去にこのような重大事故を起こしていながら、それでも任意保険をかけずに大型バイクのハンドルを握って走ることができるものなのか……、私自身も大型バイクに乗ってきた一人ですが、にわかに信じられませんでした。
■無免許、飲酒、無保険、ひき逃げで息子の命を奪われて
「竹林さんのお気持ちを思うと、本当に胸が痛みます。私も息子を無保険の車にひき逃げされて失いました。もし、一度でもひき逃げ行為をしたら、運転免許を永久に取り消すような厳しい刑罰があったら、竹林さんのご主人は亡くならずに済んだかもしれない……と思うと、いたたまれません」
そう語るのは、名古屋市の眞野哲さんです。
眞野さんは2011年10月30日、当時大学1年生だった長男の貴仁さん(19)を事故で失いました。
加害者のブラジル人男性(当時47)は、その夜、ハロウィンパーティーでビールやテキーラなどを飲み、母国でも日本でも免許を取得したことがないにもかかわらず、無免許で、無車検、無保険(自賠責も任意保険もなし)の車を運転して追突事故を起こしました。
ところが、この男は現場で停止せず、ヘッドライトを消してそのまま逃走。途中、一方通行の道を100キロ近いスピードで逆走し、自転車に乗って横断していた貴仁さんに衝突します。そして、貴仁さんと自転車を約40メートルはね飛ばし、さらに逃げ続けた挙句、約1時間半後に逮捕されたのです。
「病院で対面した息子は、頭がい骨が大きく陥没し、耳や鼻などいたるところから血が流れ出て、まさに地獄絵図のようでした。結局、手の施しようもないまま亡くなってしまったのです。通りなれた道を、まさか無灯火の車が、猛スピードで逆走してくるなんて、想像すらできなかったと思います。たぶん、なぜ自分が死んだのかもわからなかったのではないでしょうか……」(眞野さん)
飲酒、無免許、無車検、逆走、ひき逃げによる極めて悪質な死亡事故。遺族をはじめ誰もが、この事故は危険運転致死傷罪で起訴されるはずだと思っていました。
しかし、検察は危険運転ではなく、過失運転致死罪で起訴。裁判官は10年の求刑に対し、7年の実刑判決を言い渡しました。
眞野さんは語ります。
「加害者は昨年、7年の刑期を終えて出所しました。でも、彼が今どこで何をしているのか、また、再び車を運転しているのか? そうした情報は、私たち遺族にはまったく知らされません。正直言って彼がこの先、ハンドルを握ることにはとても抵抗があります。事故を起こす運転者は、再び事故を繰り返す傾向があるという話を聞いたことがあるのですが、私たちのような思いをする被害者遺族が二度と生まれてほしくない、そう思うのです」
■事故を起こしやすい「特性」を持つドライバーがいる
眞野さんが危惧するとおり、「事故を起こしやすいような特性を持つドライバーがいる」という事実については、(財)交通事故総合分析センターが2008年におこなった分析によって具体的に指摘され、『イタルダ・インフォメーション 73』(2008年3月発行)に掲載されています。
下のグラフを見てください。
これは、6年間有効な免許をもった男性ドライバーについて、2001~2003年の3年間で発生した事故回数別に、その後の3年間(2004~2006年)に事故を起こした人の割合を示しています。
これを見ると、3年間に事故を2回以上起こしたドライバーが、その後の3年間に事故を起こした割合は16.7%、事故を起こしていないドライバーや1回だけ起こしたドライバーに比べると、その割合はかなり高くなっていることが分かります。
分析結果についてはこうまとめられていました。
眞野さんは訴えます。
「事故はうっかり過失で起こることもあるでしょう。私だって絶対に加害者にならないとは言い切れません。でも、飲酒運転やひき逃げは絶対にしないという自信があります。特にひき逃げは、助かる命を見殺しにする行為で、絶対に許されないことです。『事故を起こしやすいような特性を持つドライバーがいる』ことが明らかになっているのであれば、なおさら、こうした事故を起こした運転者については、その後の免許取得や車の購入、運転、保険加入の有無などに、何らかの制約が必要ではないでしょうか」
同誌には、事故の経験者に向けて、以下のようなメッセージが掲載されています。
過去に事故を起こしたことがある人は、特に心して読んでいただきたいと思います。
もし事故を起こしてしまったら、自分の運転に対する適性や違反のクセ、安全への知識、運転スキルなどについて見直すことが必要ではないでしょうか。たとえば、
●事故は起こらないだろうと楽観的に判断していないか
●感情任せに運転していないか
●自分の過去の体験に左右されていないか
●安全な運転とは何かを知っているか
●疲れている状態で運転してはいないか
など、一つ一つ確認していきましょう。