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立憲民主党 未来世代委員会はどこが画期的なのか?

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
立憲民主党未来世代委員会キックオフミーティング(写真:日本若者協議会)

2023年4月こども基本法が施行され、政策決定過程で子どもの声を聞くことが政府、地方自治体に義務付けられたが、各政党でも若者の声を聞く取り組みが広がりつつある。

2023年5月26日、自民党は、若者の視点から自民党にアドバイス、政策提言を行うリバースメンターを開始した。

具体的には、デジタル社会推進本部のリバースメンターとして、デジタル社会推進本部の会議にアドバイザー出席、デジタル社会推進本部役員との意見交換会、デジタル社会推進本部への政策提言などを行う。

このリバースメンターとは、台湾で行われている取り組みで、台湾では内閣の大臣たちが35歳以下のソーシャルイノベーター(20人ほど)を、リバースメンターに任命する制度となっている。

台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タンもリバースメンター出身であるように、単に若手の社会起業家にアドバイスをもらうだけでなく、政府の仕事を知ってもらうきっかけにもなっている。

2023年6月26日には、立憲民主党が「未来世代委員会」を立ち上げた。

未来世代委員会とは、30年、50年先の未来世代の観点から、現在の施策を検証する仕組みで、中学生を含む、環境エネルギー分野の若者団体の代表らで構成される。

取り上げる具体的テーマや政策などは委員会で決め、立憲民主党は省庁に対するヒアリング、有識者・関係者へのヒアリング、国会図書館による調査、視察等のサポートを行う。そして、委員会で報告書をまとめ、立憲民主党は、それを参考にして、政府に対する質問、立憲民主党として政策提案を行う。

どちらも日本の政党としては画期的な取り組みだが、特に立憲民主党の未来世代委員会は、筆者が日本若者協議会代表理事として委員に就任しており、実現に向けて働きかけてきた経緯もあることから、詳しく解説していきたい。

co-management(コ・マネジメント)のパートナー

「立憲民主党未来世代委員会」はどこが画期的なのか?

一言でいえば、単に外部のヒアリング対象にとどまらず、政策立案のパートナーとしての位置付けになっていることである。

こども家庭庁では、設立前の準備室の段階から調査、有識者ヒアリングなどを行い、こどもの意見反映プロセスの在り方について報告書をまとめているが、そこに書かれている内容が参考になるため、引用したい。

スウェーデンの若者政策の研究者で、日本福祉大学 社会福祉学部 講師の両角 達平氏はコ・マネジメント(施策の共同決定・遂行)の重要性をこのように指摘する。

【若者の社会参画】両角 達平(日本福祉大学 社会福祉学部 講師)

「こどもの意見を聴いてその意見を政策に適切に反映する」ということは、あくまで大人が主導権を握り、クライエントとしてのこどもの意見を聴いて、社会に反映していくというインクルージョンの思考である。そうではなく、若者は政策形成の対等なパートナーとして存在しており、テーマの中身だけでなく、テーマ選定や方法論の決定など議題の枠組み自体も意思決定していくという考え方(トランスクルージョン)に発想の転換が必要。

欧州における若者参画の形態は、①ユースカウンシルなどの代表制、②大人と共同して意思決定・行動していくコ・マネジメント/コ・プロダクション、③公的な議論の場における若者の参画(熟議参画)、④キャンペーンやデモといったアクティビズム、⑤デジタル参画がある。

欧州47ヵ国での365人が回答した調査では、基礎自治体レベルでは「ユースカウンシル等」がもっとも一般的で、県レベル・国レベルでは「ユースカウンシル等」「アクティビズム・抗議」「デジタル参画」が同等。「コ・マネジメント」「熟議参加」は国レベルで実施できているところは他の手段に比べて少ない。

若者参画に関しては、EUよりも欧州評議会の方が歴史が長い。1985年に第1回若者施策担当大臣会合があった。そこでは、国が若者にどのような「支援」を与えられるかという発想で、若者の「意思決定への影響力の発揮」はあまり注目されていなかった。それが、1990年代後半からは、支援対象としての若者ではなく、若者の意思決定への影響力の発揮が主題となり、若者の代表機関(ユースカウンシル・ユースパーラメントなど)と恒久的な仕組みの設置を求め、これらが若者政策の欧州基準となった。

引用元:【有識者ヒアリング調査】調査報告書(太字は筆者)以下同様

インクルージョンとトランスクルージョンの違いとは、インクルージョンが大人が目指す方向に若者を導く(若者に社会に適応してもらう)のに対し、トランスクルージョンは、目指す方向性自体を若者と一緒に考えるということである。

後者の方が、包摂的であり、子どもの権利などを重視している。

それは日本の若者政策の定義と、欧州の定義を見比べればよくわかる。以前の記事でフィンランドと日本の若者政策を比較しているので、そちらを参照されたい。

なぜ日本の「子どもの声を聞く事業」はモニター募集という“意味のない”事業になってしまうのか?(室橋祐貴)

今検討されている参画は、声を聴く「内部の大人や職員」と、声が聴かれる「外部のこども・若者」という二項対立の関係性(インクルージョン的な発想)。そうではなく、コ・マネジメント、すなわち、若者団体の代表と一緒に若者施策を意思決定するというトランスクルージョン的な発想への転換をするべき。若者の声を集約する実行委員会を若者団体や個人中心で設置し、テーマの選定、プログラムの進行、集約方法なども任せる。事務局は秘書的なかかわりでファシリテートに徹すること。若者が主体でできる団体を育てていく必要がある。「発達に応じた」という点について、トランスクルージョン的な発想では、発達が遅れていても良いという発想になる。

若者の意見を反映するという点では、日本でまだできておらず、かつ、今後の若者政策を進めるうえでカギになるのはユースカウンシルとコ・マネジメント。スウェーデンにはレミスという制度があり、全てのLSU(スウェーデン若者団体協議会、若者の声を拾う専門的な組織で83団体が加盟)に加盟している団体が賛成しないと国レベルのものは実施できないことになっている。そもそもプロセス自体のデザインから若者と一緒にやることが重要。委員会や専門家の構成員に若者を任命するなど、日本は一足飛びにやりがちだが、そうではなくてもっと手前の制度設計が大事。

引用元:【有識者ヒアリング調査】調査報告書

今回、立憲民主党に未来世代委員会の設置を提案した際に、参考にした取り組みの一つが、ヨーロッパの欧州評議会に設置されている、30人の若者団体・ネットワーク団体の代表らから構成される諮問機関(The Advisory Council on Youth (CCJ))であり、まさにco-managementのパートナーとして位置付けられている。

The Advisory Council on Youth (CCJ) is the non-governmental partner in the co-management structure which establishes the standards and work priorities of the Council of Europe’s youth sector and makes recommendations for future priorities, programmes and budgets.

(青少年諮問機関は、欧州評議会のユース部門の基準と施策の優先順位を確立し、将来の優先順位、プログラム、予算についての勧告を行うコ・マネジメントの非政府パートナー)。

引用元:Advisory Council on Youth

今回の立憲民主党未来世代委員会は、取り上げる具体的テーマなど運用方法は若者で構成される委員会で決め、党は事務局として調査のサポートなどを行う、まさにコ・マネジメントの形式となっている。

そして、以前の記事で書いた、「代表性と当事者性と専門性」も満たしており、質の高い取り組みと言える。

・代表性

その世代や属性を代表して発言できるだけの正当な理由を持っているか。

業界団体をイメージすればわかりやすいが、ネットワーク団体として様々な団体や個人が加盟し、様々な声を集約しているケースが多い。

理想的には、代表は選挙で選ばれるなど、民主的な運営が行われていることが望ましい。たまに個人的な意見を言う機会もあるが、基本的には世代や属性を代表して発言する立場となる。

・当事者性

その世代や属性に属していることはもちろん、個別テーマを語る時には、その体験者がいる方が望ましい。少なくとも構成メンバーにその当事者がいるなど、リアルを知る立場にいる必要がある。

・専門性

子どもや若者の声を聞くと言っても、少なくとも政策レベルであれば、発言する側も、その世代全体のことや、法律や条例、学問的な知識がなければ、正当な意思決定を導き出すことは難しい。

実際、海外の子ども若者の政治参画事業を見ればよくわかるが、子どもや若者だけでよく勉強し、議論も行っている。そのため、行政などが意見を聞く際も、一回きりのイベントは少なく、月に数回は集まり議論する常設型のイベントが多い(子ども・若者議会など)。一回だけの場合も、準備に相当時間をかけるケースも珍しくはない。

引用元:なぜ日本の「子どもの声を聞く事業」はモニター募集という“意味のない”事業になってしまうのか?(室橋祐貴)

今回は、任期が1年であり、気候変動など環境問題を主に想定しているが、将来的には若者政策全般に広げるなど、常設的に、様々なテーマで若者の意見が可視化され、それが党の意思決定に反映されるようになると、各政党の政策内容も大きく変わっていくものと思われる。

そして、このコ・マネジメントを行うためには、若者団体が育つ必要があり、その施策もセットで行う必要があるだろう(まず若者だけで議論できる場があった上で、その集約したものを政策に反映させる、二段階の仕組み作りが必要)。

【若者の社会参画】両角 達平(日本福祉大学 社会福祉学部 講師)

コ・マネジメント(施策の共同決定・遂行)の実施のためには、若者団体・学生サークル、若者支援、青少年教育・ユースワークなどに若者に関連するあらゆる団体などのノンフォーマルな組織も含めた若者団体が持続的に存続できるような財政支援、技能的支援、ネットワーク、若者政策の整備が必要である。

スウェーデンでは、若者市民・社会庁による若者団体への助成事業がある。約25億円(2億1,200万SEK)の助成金を105のこども・若者団体に交付。助成金で事務所を構え、人件費に充てることもできる。助成のための条件として、会員の団体への所属が任意であること、会員の6割を6歳から25歳で占めること、最低でも6歳から25歳の会員が1,000人いることなどがある。

引用元:【有識者ヒアリング調査】調査報告書

関連記事:なぜ若者団体に限定した経済的支援が重要なのか?日本若者協議会が政府や東京都に提言(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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