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年の瀬に考える心の問題:人はなぜ自ら死を選ぶことがあるのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

■自ら死を選ぶ人々

今年も終わりに近づいてきましたが、今年も去年も残念ながら多くの方々が自殺しました。

生き物たちは、みんな一生懸命にいきようとするのに、なぜ人は自ら死を選ぶことがあるのでしょう。

自殺の原因には、病苦や経済苦がありますが、身体の病気でもない、お金もある人々も、死を選ぶことがあります。

おとなしいタイプの人も死を選ぶ場合がありますが、にぎやかなタイプの人でも死を選ぶ人がいます。華やかな生活をしている人も、死を選ぶ人はいます。

■周囲からはわからない心の苦しみ

借金や大病は、周囲から見てもわかります。しかし、心の苦しみはわかりません。

社長も芸能人も政治家もお金持ちも、それぞれの深い悩みや孤独があるのかもしれません。

仕事も家庭も何の問題もなしに見える人が、大きな悩みを抱えていることも、珍しくはありません。

■自殺は追い詰められた末の死

自殺は心理的に追い詰められた末の死です。決して弱い人や、無責任な人だけに起こるものではありません。これまでも、政治家や芸能人など、社会的には高く評価される人々が自ら死を選んできました。

特に昨年2020年は、三浦春馬さん、竹内結子さんなど芸能界の自殺が起きな話題になりました。

芸能人、有名人の自死は、私たちに大きな衝撃を与えます。

三浦春馬さん死亡報道と私たちの役割:衝撃を受けている人々のために

竹内結子さん死去:自死の連鎖を防ぐために

大病や経済的破綻、孤独などとは、縁遠く見える方です。才能豊かで、健康的で、強く、多くの人々に愛される方々です。

けれども、どんなに強い体を持った人でも病気になることはあるように、どんなに素晴らしい人生を歩む人も、自死への思いにかられることはあります。

多くの場合は、本人も周囲も気が付かないうちに、うつ病など心のバランスを崩していることが多くあります。また、大切なものを失う喪失体験がきっかけになることもあります。

死を考えているからといって、みんなが青い顔で寝込んでるわけではなく、笑顔で元気な人の心にも死への思いは忍び寄ります。

子供がいたり、大切な仕事を引き受けているのに自殺などすると、無責任と責める人もいますが、そうではありません。心のバランスが崩れ、心理的に追い詰められると、自分がいなくなることこそが、家族にとっても仕事仲間にとっても最善だと感じてしまうことがあるのです。

大成功した人々が死を選ぶこともあります。光が強いほど影も濃いのかもしれません。才能豊かな人ほど、苦悩も大きいのかもしれません。

■孤独と絶望感

自殺は、孤独と絶望感の結果とも言われています。ただし、客観的に見て孤独であり、解決策がないわけではありません。

ある人が、孤独を嘆き自殺未遂しました。その後で、ご家族の方とお話をしたところ、その人を家族みんなが愛し、心配していることがよくわかりました。

子供若者の自殺などは、葬儀に大勢の人々が集まります。友人、家族親せき、近所の人々、みんなが悲しみます。本当はこんな大勢の人に包まれていたのに、本人は孤独でした。

もうだめだ、絶望だ。人生の中でそう思うことはあるでしょう。でも、生き続けることができた人は、何とかなったのです。

何億円の借金があっても、日本中の人に叩かれても、強く生きる人はいるものです。

孤独感と絶望感。この二つのモンスターと、私たちは闘わなくてはなりません。

あなたも一人ではない。希望はあると、伝えなくてはなりません。

■人の心

自殺は人の心の結果です。あるサルが脊髄損傷によって首から下が動かなくなりました。その苦痛はサルも感じます。しかし、それ以上の苦痛は感じてはいなかったようだと飼育に携わっている人が言っていました。

これが人間なら大変です。事故や病気を悔やみ、運命を呪い、将来に絶望し、その思いがさらに健康を害していくことでしょう。

こんなにみんなに迷惑をかけるなら、死んでしまおうと思う人もいるでしょう。サルは、そんなことは考えないのですが。

自殺は心のメカニズムの誤作動だと語る人もいます。日常的には、「人の迷惑になることはやめましょう」で良いのですが、障害や借金の時に、この思いが強くなると、自殺への思いもわいてしまうのです。

今までの人生をしっかり生きてきた人ほど、周囲に対する申し訳なさを感じてしまうようです。

でも、私たちは互いに迷惑をかけながら生きています。お互い様です。

人の心は強くあり、弱くあり、賢明であり、愚かです。そして、揺らぎます。

今日、死ぬことが最善だと確信しても、明日はまたどう考えが変わるかわかりません。心も人生も、算数の計算ではないのです。その時々に変わるのが、心であり、人間です。

強い死への思いは、短時間だとも言われています。

■年の瀬に

クリスマスや正月など、みんなが幸せそうにしているときに、強い孤独を感じることがあります。

でも孤独を感じているのは、あなた一人ではありません。多くの人があなたと同じように感じています。多くの人があなたを気にかけています。

こんな世の中でも、まだどこかに、希望は残っています。

いのちの電話

まもろうよ こころ:厚生労働省>

*本記事内容の一部は、本日アップした別記事から移動しての再掲載です。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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