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三浦春馬さん死亡報道と私たちの役割:衝撃を受けている人々のために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(心よりお悔やみ申し上げます)(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■三浦春馬さん自殺報道を受けて

「人気俳優の三浦春馬さんが、港区の自宅マンションで死亡しているのが見つかりました。自殺とみられています。」(日テレニュース24:20200718)

衝撃的なニュースです。明るくて、元気で、爽やかで、健康的で、みんなに愛されている人気者の芸能人。もっとも自殺とは縁遠く感じられる方の死亡報道。「自殺と見られる」というニュースです。

以前、私の勤務大学の学園祭にもお呼びしたことがあり、とても好印象を持っていましたので、個人的にもショックです。司会を務めていたNHKの「世界はほしいモノにあふれてる」も素敵な番組で、私のお気に入りでした。

有名人ですから、特にファンでない人にとっても、驚きのニュースです。ましてや、ファンの人々は、どれほど動揺されていることでしょうか。

親しい人を亡くしたような、深い「喪失体験」をしている人もいることでしょう(深い悲しみの向こうに:喪失体験の心理学:三浦春馬さん自殺報道を受けて:ヤフーニュース個人有料)。

■ファンのみなさん、特に思春期青年期の人たちの衝撃

私は、大学で学生たちと接するとともに、スクールカウンセラーとして中学生にも接しています。この多感な時期の子供若者たちの芸能人に関する感覚は、特別なものがあります。

ロングヘアーが印象的的だった芸能人が髪を切っただけで、衝撃を受ける子もいます。大好きな音楽グループが解散したことで、取り乱していた子もいました。

大人の感覚では、音楽グループが解散することは残念ではあっても、よくあることだとも感じるでしょう。でも子供の感覚は、自分の好きなグループは、永遠に続いていく感覚があるのでしょう。

私が、放送局である芸能人と会ったことを聞いた女子学生で、本気で怒っている人がいました。

「私が会えないのに、なぜ先生が会えるのですか」と。

「ファンなんだね」と私がいうと、「ファンなんて言わないでください!」とさらに怒られました。

ただのファンではなく、本当に好きだと感じているのです。

芸能人の自殺報道を聞いて、単なる有名人の死ではなく、友人や家族、恋人の死のようにさえ感じている人たちもいることでしょう。

あなたの子供やあなたの生徒も、大人の想像以上の衝撃を受けているかもしれません。

■自殺に関してしてはいけない報道

WHOは、「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識」(2017年)を示しています。

・自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと

・自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと

・自殺に用いた手段について明確に表現しないこと

・自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと

・センセーショナルな見出しを使わないこと

・写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

大きな自殺報道は、次の自殺を誘発することが、わかっているからです。それは感染症のようなものだと例える人もいます。

新型コロナで亡くなった20代はお一人ですが、20代の死亡原因のトップは自殺です。日本の若者の4人に1人が、死にたい思いを持ったことがあるという調査もあります。

これだけの大ニュースですから、大きく取り上げないわけにはいかないでしょう。日本の報道の現状を考えると、一社、一番組だけに、上記の禁止事項を厳守しろとは言いにくくも思います。

しかし一般庶民も、このような知識を持ちつつあります。マスメディアの良識ある報道に期待します。

■自殺報道に関してするべき報道

・どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること

・自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと

・日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道をすること

大きな自殺報道を行う際には、ぜひ自殺予防に関する情報を添えて欲しいと思います。いや、「欲しいと思う」ではなく、するべきです。

また、WHOは、次のような注意もしています。

・自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること

・メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること

これは、ファンにマイクを向ける時も、同様でしょう。芸能界の友人知人へのインタビューも同様でしょう。

また、各社はスタッフ自身にも注意を向けるべきです。

大きな災害報道、自殺報道、人々が悲しみに暮れるような現場。そこに行ったマスコミ関係者も、傷つきます。

私は、ある現場で非常に精神的に疲れて、仕事が続けられなくなった人を見たことがあります。その人は、そんな自分を責めていました。

マスコミ人だから傷つかない、芸能人だから大丈夫。そんなことはないのです。それは、視聴者、読者である私たちも、理解しましょう。

■自死に対する私たちの態度

人は、自殺しても良いでしょうか。学生たちに質問すると、意外と肯定的な答えが帰ってきます。学生だけではなく、ネット上でもそうかもしれません。人は、自分の生死を決める権利があるという考え方です。

しかし研究上わかっているのは、ほとんどの自殺は冷静な自己決定の上の結論ではなく、何らかの理由で精神的に追い詰められた末の死であるということです。自殺は、とても残念な死です。

尊厳死の問題などは複雑な問題ですけれども、安易に自殺も良しとする風潮は、自殺予防にとってマイナスです。

一方、自殺は絶対にだめだという意見も当然あります。自殺は、逃げだ、無責任だという意見も聞きます。このような意見も、実は危険な発想です。自ら死を選んだ人は、決して自己中心的でも、無責任でもなく、弱い人でもありません。それは、事実誤認です。

むしろ、真面目で責任感があるからこそ、死を真剣に考えてしまうのです。自殺は、もっともそんなことをしそうにない人がしてしまうものなのです。

生前が立派だった人に対しては、報道も敬意を示すものになりがちです。しかし潔い死といった報道は危険です。同時に、亡くなった方を責めるような報道も危険です。どちらも、精神的に不安定になっている人の背中を押すことにもなるからです。

これは、報道だけでなく、日常的な会話でも同様でしょう。

自殺を美化せず、亡くなった方を責めもしない態度と死生観が求められます。

■傷ついている人たちを守るために

自殺の連鎖を防ぎ、傷ついている人を支えるのは、もちろんマスコミだけの役割ではありません。それは、私たち全ての役割です。

自殺も、様々な心の不調も、準備状態があり、そこに直接のきっかけがあって発生します。だから、準備状態が高い人、三浦春馬さんの死亡報道前から不安定になっている人が、まず要注意です。

さらに、今回の死亡報道に強い衝撃を持っている人、報道をとても身近に感じている人が、要注意です。

■自殺予防のために

予防のためには、悩んでいる人の話を聞くことです。普段以上に、聞くことが大切です。また、何かのサインを感じたら、一声かけることが大切です。

自殺のサインは、後になればサインだとわかりますが、その時はわからないのが普通です。自殺のサインだと気づかなくても結構です。「あれ?」と思った時に声をかけることです。

直接的に生き死にのことを話題にする必要もありません。一声かけて、「大丈夫」と言われても、もう一声かけて少しおしゃべりしましょう。その会話の中で、何か悩みが出てくるかもしれません。ただの雑談で終わっても、もしかしたらそれが、今日の自殺予防につながるかもしれません。

傷ついている人々を守るための報道も必要です。傷ついている子供若者を直接守るのは、学校の役割であり、親の役割であり、そして親友の役割でしょう。ファンの方々同士の慰め合いも、大きな力になることでしょう。

■三浦春馬さんの思い

すみません、特別なファンでもない私が申し上げることは恐縮なのですが、でも心理学に携わるものとして、申し上げたいと思います。

おそらく、三浦さんはやむに止まれぬ事情があったのでしょう。でも、きっとファンのみなさんの健康と幸せを、心の底から祈っていたことと思います。

三浦春馬さんのことが大好きだった人たちが、作品を愛し続け、いつまでも思い出に残し、そして幸せな人生を歩むことを、三浦さんは望んでいるに違いありません。

全国のいのちの電話

*[https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_tel.html 悩み、心の健康、自殺対策、電話相談(厚生労働省)

*9/14補足

三浦春馬さんのショックが冷めやらぬ中、女優の芦名星さんの自殺が報じられました。

俳優の芦名星さん突然の訃報:コロナ禍のストレスと自殺防止の心理:自殺予防週間に

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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