Adoの「シルエット歌唱」は、顔出し重視のテレビの歌番組の歴史を変えるか
日テレの音楽番組「ベストアーティスト2023」において、Adoさんがテレビ初のスタジオ歌唱を披露して大きな話題になっています。
もちろん、当然ながらAdoさんの歌唱自体はテレビで何度も放映されており、昨年の紅白歌合戦にもAdoさんが歌唱を担当した「ONE PIECE FILM RED」の登場人物であるウタが「新時代」を披露していました。
ただ、Adoさん自身はテレビで顔出しをしていないこともあり、テレビの歌番組でのスタジオ歌唱はこれまで放映されてきませんでした。
それが、今回ついに「ベストアーティスト2023」で初めてのスタジオ歌唱をされるということで、日テレ側も大きく宣伝をしていたわけです。
顔出しをせずに歌唱していることも話題に
「ベストアーティスト2023」の番組内において、Adoさんは今年の大ヒット曲である「唱」と、昨年公開された映画「ONE PIECE FILM RED」の劇中歌である「Tot Musica」を時間を空けて歌唱。
4時間生放送の番組で30組以上のアーティストがパフォーマンスをする中で、最も注目された歌手の一人になったのは間違いありません。
参考:Ado、テレビ初パフォーマンス 金網に囲まれたステージから長髪なびかせ…パワフルな歌声披露
一方で、特にAdoさんのファン以外の視聴者から注目されたのが、顔出しをせずにシルエットのみでの歌唱を行っている点でしょう。
一部の視聴者からは、顔出しをしない歌唱に戸惑いの声も聞こえたようです。
参考:Adoがテレビ初歌唱 顔出しせずシルエットのみ「やっぱり顔は見えない」「紅白もシルエット?」ネット沸く
ここで注目したいのは、Adoさんのこの「シルエット歌唱」が、日本のテレビの音楽番組の従来の常識を変えていくかどうかです。
Adoさんにとっては通常運転の「シルエット歌唱」
実は、今回の「ベストアーティスト2023」でAdoさんが披露した、金網に囲まれたステージで、背後のスクリーンの明かりをもとにシルエットで歌唱するスタイルは、Adoさんのライブで普段から実施されているものです。
そういう意味では、Adoさんからすると、通常運転でのパフォーマンスになります。
ただ、初めてAdoさんの「シルエット歌唱」をテレビで見た視聴者の中には、戸惑った人も少なくなかったようです。
なにしろ、これまでのテレビの歌番組においては、歌唱中の歌手の表情をアップで映し出すのが一般的。
表情が見えないシルエットでの歌唱というのは、常識破りのアプローチに見えるわけです。
顔出しをしないアーティストはテレビにどう出演するのか
ただ、現在は顔出しをしないアーティストというのは珍しい存在ではありません。音楽自体はそもそも音だけで楽しめるものですから、必ずしも顔出しをすることは必須ではないわけです。
しかし、テレビの音楽番組においては、音楽の音源だけではなく、どうしても放送中の映像が必須になる関係で、顔出しが重視されてきました。
そのため、これまでの顔出しをしないアーティストは、テレビの歌番組や映像などに出演する際には、必要に応じて被り物をしたり、CGを活用したりしてきたわけです。
象徴的なのは、顔出しをしてこなかったGReeeeNが、2020年の紅白歌合戦でCG技術を活用して出演し、本人かどうかが話題になったパフォーマンスがあげられます。
参考:GReeeeN、紅白初出場に「初めての顔出し」「CG?」と憶測飛び交う
一方で、最近ではVTuberのように、バーチャルな映像を活用するアーティストも増えてきています。
参考:圧倒的な歌唱力で注目の「星街すいせい」が教えてくれる、VTuberの可能性
昨年の紅白歌合戦で、バーチャルな存在であるウタが、VTuber的な歌唱を披露したように、もはや現実とバーチャルの境界線も崩れはじめていると言えます。
そうした中で、顔出しをいつまでも必須とすることがどこまで意味があるのかというのが、テレビの音楽番組が今問われていることと言えるかもしれません。
「口パク」と「顔出しなし」はどちらがリアルか
特に、最近のネット上の傾向で興味深いのは、音楽番組における「口パク」に対する批判の声が強くなっている点です。
音楽番組において、生歌ではなく音源を活用して「口パク」でパフォーマンスを行うことは、これまでは特に珍しい行為ではありませんでした。
ただ、テレビの映像のクオリティがあがり、視聴者の知識が上がることにより、実は「口パク」でのパフォーマンスへの批判がネットメディアの記事として取り上げられることも増えてきているのです。
実際問題として、音楽番組におけるパフォーマンスにおいて、「リアルの顔出しをしない」という行為と、音源を使って「リアルの歌唱ではない口パク」でパフォーマンスをする行為と、どちらの方がより視聴者にとって「リアルなパフォーマンス」なのかというのは、議論が分かれてきているように感じます。
音楽番組として「口パク」が許されるのであれば、当然「リアルの顔出しをしない」という選択肢も、もっと柔軟に許容されて然るべきという考え方もあるわけです。
紅白歌合戦でのAdoの歌唱が「常識」を変えるか
そういう意味で、特に注目したいのが、年末のNHK紅白歌合戦にすでにAdoさんのスタジオ歌唱での出演が決まっている点です。
参考:【紅白】Ado、紅白初出場「最高の歌を届けられれば」 昨年は「ウタ」が歌唱
今のところは、まだ紅白歌合戦でAdoさんがどのようなスタイルでパフォーマンスをするのかは分かりませんが、今回同様にシルエット歌唱を貫いた場合、それがお茶の間の視聴者に受け入れられるかどうかが大きなポイントになると言えるでしょう。
しかも、今回の紅白歌合戦には、Adoさん同様に、ライブ以外では顔出しをしていない「すとぷり」の出演も決まっています。
「すとぷり」は自らのYouTubeチャンネルでは、VTuber的なアバターでの挨拶を行っており、去年のウタの出演に近いパフォーマンスになる可能性もあります。
日本最大規模の音楽番組である紅白歌合戦において、Adoさんや「すとぷり」のような、シルエット歌唱や、顔出しをしないパフォーマンスが、普通のこととして受け入れられるようになれば、今後他の顔出しをしていないアーティストの音楽番組への出演の選択肢も、確実に増えるはずです。
今回の「ベストアーティスト2023」でも、Adoさんの圧倒的な歌唱が話題を呼び、SNS上の投稿が当然のようにトレンド入りをして、大きな話題になっていました。
紅白歌合戦でのAdoさんのパフォーマンスは、きっと今回以上のインパクトを日本の音楽番組にもたらすことになるはずです。
まずは、今年の年末の紅白歌合戦を楽しみにしたいと思います。