シェアNo. 1という圧倒的な地位を確立することのできたスシローのアイデアとは?
スシローといえば、回転寿司チェーンにおいて圧倒的No. 1として成長し続けていることで有名です。
マーケティングアジェンダというイベントで、その背景をお聞きする機会があったのでご紹介したいと思います。
ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)足立光氏がスシローを展開するFOOD & LIFE COMPANIES 代表取締役社長CEO 水留浩一氏から引き出したポイントは、その背景に従来の回転寿司チェーンの常識を超えたいくつもの挑戦があったということです。
もともとスシローは、100円とは思えないクオリティの寿司を提供することで話題になり、回転寿司チェーンのトップに一気に躍り出た企業です。
飲食チェーンにおいて売上を伸ばし続けるためには、店舗を増やすことが必要です。水留氏が参画した2015年は、郊外店中心の業態では成長に限界があると、大きな方針転換を行います。
そのポイントとなるのは、以下の3つです。
・都市型店舗への挑戦
・M&Aと新ブランドの確立
・海外展開
これらの挑戦は、当時のスシローにとっては全く新しい挑戦でした。特に、都市型店舗の出店を決断し、それまでスシローだけでなく回転寿司チェーンにおいて絶対的な常識だった全店での「均一価格」を改定するという方針を打ち出しました。
そのとき、水留社長に賛成してくれる味方は、社内に1人もいなかったと言います。
ただ、水留社長の視点からすると、日本でも郊外の人が減り、都心に人が集中していくことは火を見るより明らかな事実でした。
均一価格のまま都市型店舗を出店していたら利益が出ないのも明らかだったため、「とにかくやるという姿勢で都市型店舗に挑戦した」と言います。その結果、郊外型店舗よりも都市型店舗のほうが利益が出るという成果につなげました。
その後、水留社長は京樽、回転寿司みさきをM&Aし、新業態として大衆寿司居酒屋の杉玉を打ち出すなど、出店に100坪が必要なスシローだけでなく、5坪~30坪という小規模で出店できる業態にラインアップを拡張しました。今では、都心に柔軟に出店できる体制を確立しています。
そして、並行して海外にも積極的に挑戦しました。スシローにおけるコア人材を次々に海外子会社の社長に抜擢することで、海外の出店数を一気に増やしていったわけです。
会社全体を見ることのできるマーケターになるには?
足立氏から「水留社長はどうやって、このようなアイデアや戦略を考えているのでしょうか?」という質問に対し、水留社長は「アイデアとは悶々と考えて出てくるものではなく、必要に迫られて出てくるものである」と即答しました。
「スシローをこれ以上、郊外に出すことができない状況で、どう成長させるか。その結果から逆算して考えているだけで、特に珍しいことを考えているわけではない」と言い切られました。
当然、競合他社の中でも都心への出店や海外展開は議論されていたはずです。
ただ、他社とスシローの違いは、水留社長が「失敗したら変えれば良い、とシンプルに考える。難しく考えずに、やってみないと分からない」と言い切っているところにポイントがありそうです。
飲食店は、まずは1店舗で試してみるなど、他業種よりも実験を比較的やりやすいという背景もあるそうです。ただ、スシローにおいては、とにかく「実行して確認する」というサイクルが非常に早いことが、他社を突き放して成長し続けている背景にあると言えるでしょう。マーケティングアジェンダの初日のキーノートで、足立氏が「アイデアは発見するよりも実行のほうが大事」と話していたことを改めて強く振り返るセッションでした。
また、今回のキーノートで水留社長からマーケターへのメッセージとして最も印象的だったのは、「マーケターは売上に意識がいきがちだが、本来は収益をつくるべき。どう儲けるかという発想を持ち、その前提でアイデアを出すべきだ」という発言です。
スシローの躍進で印象的なのは、日本人からすると一般的に大変で失敗しやすいと思い込みがちな海外展開が、日本の既存店よりもはるかに収益性が高い事業になっている点です。
スシローでは海外展開にあたり、あえて「ノーローカライゼーション」を貫き、日本と同じスタイルでサービスを提供し、あえて日本よりも高価格で展開しています。
ただ、それでも明確に価格への満足度が高く、高い店舗収益率を確保しています。
特に象徴的なのは、香港が日本の店舗に比べて売上が2.5倍、利益率が2倍だったことです。その結果、香港の1店舗あたりの利益が日本の5~6倍になります。
では、利益率の低い日本の店舗は今後、減らしたほうがいいかというと、「それは違う」と水留社長は明言します。
マーケターとして重視することは、「会社全体として儲ければいい」という視点です。
現在の日本は論理的に考えると、非常に厳しい環境です。
ただし、水留社長は「事業を鍛えてくれる場所。その中で鍛えられた事業を海外展開すれば、楽にうまくいく」と言います。ある意味、海外展開に対する一般的なイメージと真逆の指摘は、日本企業の今後の可能性を感じるシーンでした。
今後、そういった会社全体の収益にインパクトを与えるようなマーケターになるためのポイントについては、水留社長が話されていたマーケターの中に「見えている人と見えていない人がいる」という点でしょう。
たとえば、あるキャンペーンを打ったときに、店舗でどういう仕事が増え、お客さまがどのような体験ができるか、俯瞰的に全体を想像できるかどうかです。
それが見えると、現場に迷惑をかけることに対して、事前に手を打ったり、コミュニケーションができますが、そこまで見えているマーケターが少ないという問題意識を持っているそうです。
では、どうすれば「見えるマーケター」になれるのか。
それは「会社全体が見えていない人は、現場へのリスペクトが足りていないケースが多い。それができないなら、まず現場で働くべき」という水留社長のアドバイスです。
実際に、足立氏もファミリーマートでは、まず現場を経験されており、現場を経験すると実現できることと、実現できないことが分かると強調されていました。
現状、スシローにおいても、まだまだ全員が「見える人」になれているわけではなく、さまざまなトラブルから学びながら、全体のレベルアップをはかっているようです。
最後に、水留社長から「狭い意味でのマーケターと広い意味でのマーケターがある。経営者はマーケターでもあると思っているし、ここにいるマーケターには広い意味でのマーケターになってほしい」と会場の参加者にエールを送りながら、スシローの海外展開を一緒に挑戦するマーケターを募集していると力を込めて語っているのも印象的でした。
スシローの成功事例や水留社長のエールから多くのマーケターが刺激を受け、さらに多くの日本企業やマーケターが海外展開など新しい挑戦をする未来に期待したいと思います。
(※この記事は、2023年6月20日付アジェンダノート寄稿記事を加筆・修正のうえ転載しています。)