バーや居酒屋……。特措法対象外の業態に、自粛要請はかかるのか
「ようやく」なのか「まだ出てなかった?」なのかはわかりませんが、とにかく7日、安倍晋三総理大臣によって、「緊急事態宣言」が発令されました。対象は、東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡の1都1府5県。
「緊急事態宣言」が宣言されると、各都府県の知事が住民に外出の自粛を要請したり、学校や劇場などの施設の使用制限、イベント開催の停止などを要請・指示できるようになります。そのほか、臨時の医療施設開設のための強制収用などもできるようになります。
つまり各都道府県の長が国のお墨付きを得て、各都府県民により強い要請をできるようになるわけです。19時からの安倍首相の会見が行われた直後、東京都の小池百合子都知事が会見に臨み、今後の施策について態度を表明しましたが、特に飲食店関係者はこの会見の内容に驚かれた方もいらしたと思います。
僕もてっきり会見で使用制限の範囲が発表されるのかと身構えていましたし、飲食店店主も「今後の営業をどうするか……」とかたずを飲んで発表を見守っていたようです。ところが会見の時点では使用制限施設を要請する範囲は決定されておらず、発表されたのはスケジュールのみ。国と協議した上で制限要請する範囲を4月9日までに決定し、10日に発表。11日から実施になるようです。
なぜ都と国で休業要請の範囲が違っていたのか
緊急事態宣言前日、4月6日時点の報道では東京都は「居酒屋に対しては休業を要請する」という話が出ていました。
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ところが4月7日の会見の報道では、居酒屋などに「検討中」という注釈がつけられるようになり、感染拡大防止に広い網をかけようとする都と、経済への影響を憂慮する国との間で調整が難航していると報じられています。
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こうしたスタンスの違いはいまから10日前、3月30日に行われた小池都知事の会見から鮮明になってきています。
この会見で都知事は名指しで業種に踏み込んだわけですが、実は、「バー」や「居酒屋」を対象範囲とした都の範囲設定はそもそもの特措法における使用制限の範囲の外側の話。国が「難色」を示すのは特措法をよりどころにできないという理由もあるはずです。
新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)では、施設使用の要請の対象となる施設について、以下のように明示されています(施行令第11条。1~3の施設は学校、保育所、介護老人保健施設等なので本稿からは除く)。
四 劇場、観覧場、映画館又は演芸場
五 集会場又は公会堂
六 展示場
七 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗(食品、医薬品、医療機器その他衛生用品、再生医療等製品又は燃料その他生活に欠くことができない物品として厚生労働大臣が定めるものの売場を除く。)
八 ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。)
九 体育館、水泳場、ボーリング場その他これらに類する運動施設又は遊技場
十 博物館、美術館又は図書館
十一 キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設
十二 理髪店、質屋、貸衣装屋その他これらに類するサービス業を営む店舗
十三 自動車教習所、学習塾その他これらに類する学習支援業を営む施設
「バー」「居酒屋」の名前がありません。両施設は使用制限において想定されていないのです。会見の文脈からしても、「バーやナイトクラブなど接客を伴います飲食店」がオーセンティックなバーやワインバーではないのは明らか。都知事が言及した(11)の「キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設」という項目に半ば強引に「バー」を盛り込んだという印象です。
迫られる曖昧な業態への判断
これは東京都だけの話ではありませんが、各自治体は風営法で言う「接待」を伴うガールズバーのようなグレー業態を見逃してきました。本来、風営法上「接待飲食等営業」の許可を取っている店は深夜0時から午前6時まで営業はできません。夜間から早朝まで営業している店は、「接待」をしてはいけない。いけないのに実態としてはある。だから都知事は「接客」という言葉に置き換えたと考えられます。
ちなみに風営法上の「接待」とは「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなす」こと。警察庁生活安全局長による「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」の通達(2018年1月31日付)では「接待」とは以下のような定義になっています。
しかし現実問題、都内の歓楽街において、深夜から早朝までこうした「接待」を行う店も営業しています。東京都としてそのそしりを受けたくはないが、4月に入ってから連日のように感染者数100人超となっている事態は改善しなければならない。他方で一定人数以上の「飲み会」にも自粛の網をかけたい。そこで適用範囲を広く取るべく「接待」から「接客」へと言葉の意味をずらし、バーや居酒屋を適用範囲に入れ、飲酒自体をやり玉に挙げた――。というのはうがった見方に過ぎるでしょうか。
正直、いまになってまっとうに営業しているバーや居酒屋をやり玉に上げるのではなく、1か月前の段階で風営法の運用を厳格化してくれていたら……と思いますが、今からでも歓楽街に対して手をつけられる策はぜひ講じていただければ幸いです。
ただし、いまは非常時です。ことここに及んでは「感染拡大防止」が最優先されるのは間違いありません。あるオーセンティックなバーの店主はこんな風に言っていました。
「やるならやるで、期間を設定してきっちりやってほしい。ダラダラと何か月も引き伸ばされたら首をくくらなきゃいけなくなってしまう。こっちはもうとっくに腹をくくってるんだ」
要請があったとしても、最終的に自粛をするかどうかを判断するのは店側です。「自粛の要請」「自粛の指示」というおかしな日本語が飛び交うなか、安倍晋三首相は7日の衆院議院運営委員会で、緊急事態宣言で営業休止を求められた事業者などへの損失補てんについて「バランスを欠く」から「現実的ではない」と答弁しました。苦悩する飲食店主が生き死にの話をしているこの非常時に、バ、バランス……?
同調圧力を前提とした自粛要請がなされるのに個人事業主や小規模事業者を救済しない。配偶者に専業主婦になれと強要しながら、「生活費は渡さん。パートにも出るな。内職でなんとかしろ」とのたまうDV夫のような振る舞いですが、とにかく重要な施策についてベストの選択肢がテーブルに乗らないまま、決定と実行が遅れ続けているということを、与野党問わず各先生方にはぜひご自覚いただきたいところ。
都度その局面に応じた最適な人材を招集し、専門家の意見に耳を傾け、諸外国の例にも学びながら、速やかにことを進めていただければ幸いです。
先日、小学館のNEWSポストセブンで「コロナで失職した人、家賃を給付金として受け取る制度もある」で以下のような落とし込みを書きましたが、恥ずかしながら本稿でも同じ落とし込みを使わせていただきます。
第二次大戦後、世界的に流布した有名なジョークにこんなものがある。
「最強の軍隊は、アメリカ人の将軍、ドイツ人の将校、日本人の下士官と兵である」
「最弱の軍隊は、中国人の将軍、日本人の参謀、ロシア人の将校、イタリア人の兵である」
最強の現場はとっくに腹をくくっている。