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【香港バラバラ殺人続報】元夫は詐欺師 パラサイト一家に殺害されたモデルはなぜ彼と結婚したのか?

中島恵ジャーナリスト
殺害されたアビー・チョイ氏(チョイ氏のSNSより)

香港の人気モデルだった蔡天鳳(アビー・チョイ)氏(28)がバラバラに切断され、2月24日に遺体が発見されてから1週間以上が経過した。

3月2日には、元夫のアレックス・クオン(28)を港から逃がそうとしたクオンの友人の男性(41)が、逃亡を手助けした容疑で逮捕された。

今回の事件の逮捕者は、元夫、元夫の父親(65)、母親(63)、兄(31)、元夫の父親の愛人(47=すでに保釈)に続き、6人目となった。

現在、取り調べが行われている最中だが、時間が経つにつれ、チョイ氏を殺害した元夫一家の経歴や、チョイ氏がなぜ元夫と結婚したのかなど、その背景が少しずつわかってきた。

できちゃった婚だった?

チョイ氏が元夫と結婚したのは2012年。中国語版ウィキペディアの維基百科によると、チョイ氏は1994年7月生まれなので、結婚時は18歳だった。

香港メディア「新周刊」には、2人は高校時代に何らかのきっかけで知り合い、できちゃった結婚だったのではないか、と書かれていた。前夫との子どもは2人いるが、上の子はすでに10歳で、計算上も合うという。

子どもができたので、勢いで結婚してしまった。つまり、予期せぬ「できちゃった結婚」だったのではないか、という情報が出回っているのだ。

というのも、チョイ氏の父親は香港人、母親は中国の海南省出身で(報道では両親の実名は伏せられている)、中国でビジネスを行う富裕層であり、チョイ氏と元夫は、誰が見ても経済的に釣り合う関係ではなく、生い立ちもかなり違っていたからだ。

チョイ氏の両親が結婚に猛反対したかどうかなどは明らかになっていないが、「できちゃった結婚」説は2人のあまりにも違う経済的背景から、信ぴょう性がある。

元夫は詐欺で逮捕されたことも

2人は3年後の2015年に「性格の不一致」(現地メディア)により離婚しているが、報道によれば、元夫は結婚翌年の2013年以降、数人に投資話を持ち掛けて貴金属を買わせる詐欺を働き、逮捕されている「前科者」だった。

また、少なくとも結婚以降、一度も働いた経験はなく、ずっと無職で、経済的にチョイ氏を頼っていた。

元夫の父親は元警察官で、過去には長期勤務で表彰されたこともあったものの、強姦容疑をかけられて、40代後半のときに自ら辞職している。

兄は刑事事件こそ起こしたことはないものの、多額の借金を背負っていて、母親は自己破産していた。

兄は今年1月からチョイ氏の個人運転手として働いていたが、昨年まで働いた形跡はなく、つまり、元夫の家族はチョイ氏の財産で生活する「パラサイト(寄生虫)一家」だった。

ここまでくると、もしかしたら、元夫は最初から裕福な家庭で育ったチョイ氏を狙って誘惑し、できちゃった結婚しようと企てていたのかもしれない、というふうに深読みすることもできる。

元夫の家族とチョイ氏に関する報道(香港メディアより)
元夫の家族とチョイ氏に関する報道(香港メディアより)

再婚相手とは入籍しなかった

チョイ氏が殺害された経緯や、殺害した凶器などはすでに報道されている通り(参考記事※香港で有名モデルのバラバラ殺人事件)だ。

チョイ氏は2015年に前夫と離婚後、2016年に香港の有名麺料理チェーンの創業者の息子と再婚し、さらに2人の子どもをもうけたが、現夫とはなぜか入籍していなかった。

最初の結婚に失敗し、傷ついたことで、臆病になっていたのだろうか。あるいは、経済的に独立していたから、入籍することにこだわらなかったのか。

元夫の一家は、チョイ氏が豪邸を売りに出すことに激怒して殺害を企てたとしているが、殺害を思いついたもう一つの理由として、チョイ氏が現夫と入籍しておらず、チョイ氏を殺害すれば、チョイ氏の財産は元夫との間の子ども2人に入ると思い込んでいたことも明らかになっている。

香港メディアによると、チョイ氏はファッション誌のモデルやインフルエンサーとして活躍する以外に、複数の企業も経営していた。交友も広く、ピュアな性格で、現夫の両親とも良好な関係を築き、幸せいっぱいだったという。

離婚後、前夫一家の生活の面倒まで見ていた彼女は、なぜ無惨な形で殺されなければならなかったのか。元夫一家の供述が注目されている。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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